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2008年11月15日土曜日

非正規雇用型社会モデル

 以前の記事のコメント欄に、日本は国としての社会保障が不十分だから企業がそれを負担してきたのに、いまや企業も社会保障に金をかけずに非正社員を多く雇用して問題があるという意見があり、ちょうど以前から用意していたネタがあるので、ここで紹介しようと思います。

 まず実現可能かどうかを別として、私は日本の被雇用者が全員、正社員ではなくなるという社会について考えてみたいと思っています。

 現在、日本の雇用状況は全体の約四割が長期雇用を前提として労働権もある程度認められている正社員ではなく、権利も立場も不安定な非正規雇用、いうなれば派遣、パート、アルバイトで占められています。かつては労働者の九割近くが正社員であったのと比べると、これは日本社会上での大きな変動と言っていい上に、社会システム上でも問題ある状況です。
 というのも、先ほどのコメント欄の意見の言う通りに日本の社会は労働者、ひいては一家の大黒柱となる戸籍上の家父長に当たる、父親や夫という立場の男性が、すべて正社員であることを前提にシステムが作られているからです。

 まず一つは戸籍制度で、これは家父長を中心に作っているので男性が誰と結婚してどの子を生むかというように、家父長に対してどのような変化があるかという具合で作られていきます。そのため、以前に問題となった離婚後90日以内の子供の戸籍問題など、いろいろややこしいものができるのです。
 次に代表的なのは税法です。日本の国家財政の取材源は直接税こと所得税ですが、これは正社員の人間の給料から直接天引きする税金で、言い換えれば正社員が減れば減るほどこの主財源の取り口が減っていくことになります。

 そして一番問題なのは、何を隠そう保険と年金制度です。
 これは両方とも正社員の場合は会社と本人の給料の折半になりますが、もし正社員でない場合は掛け金を全額丸ごと払わなくてはならず、しかも年金の場合は正社員の厚生年金と分けられ国民年金となり、将来の受給額にも差が生まれます。これも言い返すと、正社員でなければいろんな面で個人の負担が大きくなるということです。

 このように、社会保障から税体系まで何もかもが正社員の家父長がいることを前提に日本の社会システムが出来ており、逆に正社員になれないとするとこうした社会保障を受けづらくなるということです。もともと日本の社会保障政策は先進国としては非常に低いレベルにあるといわれており、最初に挙げた意見の通りに日本はその分の埋め合わせとして企業が独自に年金を設けたり、自宅購入のローンを組んであげたり、ミニマムなのだと毎年の健康診断の費用も負担してきました。
 しかし近年は企業も人件費削減の名目でこうした支出を減らしており、雇用比率も正社員の割合が年々下がったことにより社会補償問題が次第に表面化してきたと言っていいでしょう。
 なお企業が社員保障を減らした一例を上げると、標的にして申し訳ないが松下が以前に業績悪化を理由に退職社員の企業年金額を減額しています。まぁそっくりなくすわけじゃないし、実際にあの時の松下は経営状況が非常にやばかったので私も理解し、裁判にもなりましたがやはり合法と見なされました。

 今ニュースで取り上げられている問題の大半はまさにこういったシステム不全が原因として起きています。国家歳入の低下から医療問題、果てには貧困問題と、すべて現実の状況が変化しているのに社会システムがそのままなために起きております。根本的な事を言うと、こうした問題を解決する方法は二者択一で、システムに現実を合わすか現実にシステムを合わすかです。無論、後者ができるとしたらその人はいろんな意味で神様です。

 ではシステムをどう現実に合わせて変えるかですが、まず以って現実に起きている現象は非正規雇用の増加です。この変化にどう社会システムを合わすかといったら、一番多く主張されているのは企業の雇用に対して規制を設けるという案で、非正規雇用の雇用者に限界割合を設けるとか、一定の雇用期間を越えて雇用する場合は正社員にしなければならないという期間を現行の三年以上からもっと短くするなどの案が提唱されています。
 しかしこれらの意見など中国人に言わせれば「上に施策あれば、下に対策あり」で、現実にこの前中国でも労働法が改正されて一定期間後の正規雇用が厳しく義務付ける法律が出来たら、施行される直前にある企業では職員すべてを一斉に解雇し、次の日にまたすべて再雇用することで雇用義務が発生する期間を下回らせるという荒業をしてのけています。多分、今の日本の企業だったらおんなじことをする可能性があります。

 じゃあどうすればいいかですが、先ほどまでの「非正規雇用を正規雇用へと変えさせる」案に対してここで私が提唱する案は、「今の正規雇用をみんな非正規雇用の立場に変える」という逆説的な荒唐無稽な案です。
 まずは最初にやるのは所得税を九割方廃止します。所得税は年収が1000万円を超える世帯(確か今の日本でこれに当たるのは5%以下)を除き一銭もかけなくします。こうすることによって所得税の算出、徴税に必要な膨大な人員と費用を削減できます。
 では代わりの財源は何にするかですが、ここで消費税を20%に上げます。大分前の記事でも書きましたが、税の三要素で見るのなら消費税は所得税より遙かにハイパフォーマンスです。もちろんこの場合は食料品などの生活必需品には課税せずにするのが条件で、いうなれば所得税と消費税の比率を逆転させる案です。

 こうして税体系を大転換しつつ社会保障についてもこの際現行の目的税にして独立して採算を図ったりずに、すべて一般会計に組み込みます。では現行の企業が負担する社会保険料や年金の掛け金はどこから持ってくるかですが、これは法人税に組み込みます。ただしこれまでのように雇用人員によって算出するのではなく、単年度の売り上げに合わせて変動するようにして、いくら社員を雇用しようと徴税額に変動が起きないようにしておきます。こうすることによって、社員の新規採用に当たって企業が新たに負担する費用は給料だけになるので、事実上現行より負担が減るので新規採用も行いやすくなります。

 そして一番肝心なのが、正社員と非正社員の区別を完全になくすことです。既に先ほどまでの税体系の変更で企業が負担する社会保障額に違いはなくなっていますので、あとは雇用期間やリストラをどうするかですが、これはこの際野球選手みたいに年俸制にしたり、3年契約みたいに雇用期間をあらかじめ双方で決めたりする制度に変えてみるというのが今の私の考えです。敢えて社員の流動性を高めることにより、後進にもチャンスを与えることが出来るので、少なくとも今の身分制のような雇用体系よりはマシなんじゃないかと思います。もちろん、この流動性を実現するには失業後の社会保障がしっかり出来ていることが最低条件ですが。

 ちょっと予想以上に話が長くなりましたが、最初にも言ったとおりに実現するかどうかは別として、正社員という概念がない世界をどうやって作り、回らせるかというのを考えるのは非常に現状を見る上で参考になる案が出てくると思います。私自身、今の日本の社会システムはもともと戦後の混乱期に作ったシステムがそのまま援用されている過ぎず、早くに現状に即したものへと変更するべきだと思います。ちょっと書ききれなかったのですが社会保障が充実することによって将来の不安がなくなり、日本人の世界的にも異様に多い貯蓄も消費へ回るので政策的にも理にかなっています。
 ちなみにイギリス人学者のロナルド・ドーア氏は戦後直後の日本に来て、「日本は社会保障が全然充実していない」と言わしめており、それが今も続いていること事態日本の社会システムが欠陥を持っている最大の証拠だと思います。

3 件のコメント:

  1. 今の日本のシステムは企業側からすれば大変効率がいいんではないでしょうか。花園さんの労働者の人権を考えたシステムですが、企業側が選択するメリットは少ないと思います。結局日本社会が北欧のような社会になんかならないですよ。リストラされた国民がデモおこさず、自殺しちゃいますからね。国民が立ち上がって働きかけないといけないんですよ。自民党や民主党どっちがいいかってネット上でぐだぐだゆうててはだめなんですよ。国民が政治参加するっていうのは、自分が社会を変えると考えるものでないといけないんですよ。
    私自身は臆病者で、リストラされたら自殺する部類ですがね

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  2. 欧州の社会保障の充実は、彼らの歴史の上に築き上げられてるとおもいます。自身の人権を尊重させる運動・議論の歴史であると。

    一方日本は・・・
    ・リベラルの思想が過激派や北朝鮮支持などといったものと混同されている。リベラル=売国奴となっている。

    ・マスコミのカラーがすべて同じである。欧州の新聞では保守から革新まで様々なものがあるが、日本の新聞にはない。朝日新聞を筆頭にブルジョワ的である。

    ブログの本題から大きくずれましたが(毎回ずれた話して申し訳ない)私の意見としては社会保障うんぬん言うても、現在の日本国民の政治的風潮の前では無意味だなと思ってしまいます。

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  3.  ちょっと記事でははっきり書かなかったけど、私が一番言いたかったのは、

    「もし正社員という枠をすべて取っ払ったらどのような社会になるか、またその社会を維持するためにはどんな政策が必要か」

     というのを考えることにより、今の社会でどのような政策が必要なのかを浮き彫りにさせることが狙いでした。たとえば社会保障を企業が負担せずに国が負担するのならその分法人税にしわ寄せが来るとか、社員の流動性が上がるよりは企業が正社員を多くした方が長期的には良いのではというようことを比較、検討するためのモデルが今回の記事の内容です。

     ただろっくまんさんがここで言っているのもよくわかり、特にマスコミについては「失業が増えた」という言葉は「(大卒の)失業が増えた」と言っていることと同じで、高卒の方やフリーターの現状はほとんど取り上げられていません。朝日と産経で左翼と右翼とよく言いますが、こんなのブルジョアというコップの中の違いくらいしかないでしょう。

     じゃあどうすればいいかってなると、やっぱりいつかは自分がやらなければいけないときが来るのかなって、うぬぼれた使命感を感じる時があります。

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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