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2009年2月6日金曜日

80年代のある中国農村調査

 今日は一つ、私の手持ちのネタの中でも飛びきり特大の秘蔵ネタを紹介しようと思います。先に言っておきますがここで紹介する話はまず間違いなくまだ世の中に出回っていないネタで、私のこのブログが初見となることでしょう。

 今回紹介する話はもうこのブログで何度も名前が出ている、東大名誉教授の宇沢弘文先生が講演で話した話です。その講演自体がそれほど宣伝されて開かれたものでなく、参加者もそれほど多くなかったので自分で言うのもなんですが非常にレアな話で満載の講演となりました。
 ちなみにこの宇沢先生ですが、私の経済学における師匠と呼べるのがK先生で、そのK先生が所属する学派のトップが宇沢先生なので私にとっても直系の師匠筋に当たる先生でもあります。それでこれは軽い自慢ですが、一度だけK先生の紹介で私も宇沢先生に話をさせてもらう機会がありました。まず出身を聞かれて鹿児島県の出水氏だと答えると、水俣病の調査で訪ねたことがあると言われ、簡単に当時の水俣病の話を伺いました。

 話は本題に戻りますが、その講演で宇沢先生は鄧小平がまだ存命だった頃、恐らく80年代に中国政府の依頼で中国の農村を調査したらしいです。そして調査を終えていざその結果を報告する際、並み居る中国共産党の幹部が居並ぶ席上でこのような報告を行ったそうです。

「資本主義には市場原理があることによって限界があるが、共産主義の搾取には限界がない」

 自分で書いてても笑いがこぼれてくるのですが、こんな恐ろしい調査報告を当事者である共産党の大幹部たちの前でやってしまったそうです。確かに非常に的を得た意見なのですが、射過ぎてしまっているというか。
 案の定、その時の状況について宇沢先生は「これはもう日本には帰れないかも」と思うほど共産党の幹部らは激怒し、こんな奴を生かして帰すななどと言っては激しく突き上げられたそうです。
 そんな中、ある幹部が唯一人、

「いや、彼の意見も一理ある。詳しく報告を聞こう」

 と言ったそうです。何を隠そう、後の第二次天安門事件の際の総書記であった趙紫陽でした。

 恐らく、私くらいの世代では中国関係の専門家でなければ趙紫陽氏の名前すら知らない方が大半でしょう。なぜか私の愛弟子だけが妙に詳しく知っていてびっくりしたのですが、彼を除けば未だかつて知っているという友人はまだ見たことがありません。
 詳しくはリンクに貼ったウィキペディアの記事を読んでもらえばわかりますが、非常に実務能力の高い人間で彼が指導を任された地域では餓死者が出ないというほど手腕に長け、実質鄧小平の右腕として文化大革命後の改革開放期に活躍した政治家でした。

 この趙紫陽氏は胡耀邦氏の失脚後に総書記となりましたが、形式上は最高権力者でも当時の実際の最大権力者は依然と鄧小平であることに変わりはなく、その後の第二次天安門事件を引き起こした責任を取る形でこの趙紫陽氏も失脚しましたが、趙紫陽氏はかねてより中国の民主化に対して理解があったらしく、天安門事件の際には抗議を続ける学生らに理解を示す態度を取っており、事件の発生以上にその態度に鄧小平が激怒したことが失脚の原因とまで言われています。
 そのため失脚後は比較的緩い軟禁生活を続けて2005年に亡くなられましたが、今でも趙紫陽氏の命日にはたくさんの民主派の活動家が彼の遺宅に尋ねるそうで、その日が来るたびに北京の警察は警備を厳重にしています。

 さて話は戻って宇沢先生の話ですが、私が言うのもなんですがこの宇沢先生というのは非常に攻撃的な方で、K先生に至っては「あの人は一日一回は文部科学省の悪口を言わないと気がすまない」とまで言うくらい、とかく口角の鋭い方であります。特に先ほどの文部科学省と並んでかつての同僚でありライバルであったミルトン・フリードマンが死去した翌週には、「これで世界はまた一つ平和になった」とまで言うのを私も生で聞きました。

 そんな宇沢先生が、この趙紫陽氏に対しては非常に立派な人物だったと先ほどのエピソードと合わせて強く褒め称えていました。そして趙紫陽氏との話で、なんでも彼の自宅で宇沢先生が彼と話しをしていると、いつの間にか多勢の学生が今にも襲ってきそうなばかりに血気だって趙紫陽氏の家を囲んだそうです。慌てる宇沢先生をよそに趙紫陽氏は、周りを取り囲む学生を一人、また一人呼んでは彼らとゆっくりと話し、最初は激しい調子だった学生らも趙紫陽氏と話をするとどんどんと納得して帰っていき、いつの間にか囲みがすべて解けてしまったそうです。

 なんだか聞いてて嘘のような話ですが、改めてあの時代の中国と、生前の趙紫陽氏の経歴を見ると本当にあったことなのではないかと私は思います。

4 件のコメント:

  1. 「資本主義には市場原理があることによって限界があるが、共産主義の搾取には限界がない」
    これを共産党幹部の前で言える勇気には感服しますね。
    鄧小平はフランス留学経験もありフランスに来る中国人の中では人気が高いですよ。共産党の幹部の中には民主主義国、資本主義国への留学組もいて、それらへの理解がある人もいるんですよね。

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  2.  そういえば鄧小平もフランス留学組でしたね。カンボジアのフランス留学組もクメールルージュを作ったけど、やっぱりあの国は社会主義国だなぁという気がします。

     恐らく、今の共産党幹部の中で本気で共産主義を信じているのは一人もいないと思います。かといって一気に民主化へと舵を切ったらソ連みたいに崩壊し、社会で大混乱が起こることが予想されることからいかに軟着陸させるかを皆真剣に考えていると思いますよ。

     あと私の知り合いの中国人たちの中ではやっぱり周恩来が断トツに人気ですね。ある女の子なんか中国人なら周恩来、日本人なら玉木宏と言い切っていますし。

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  3.  趙紫陽氏すごい人物ですね。宇沢弘文氏もすごい人ですね。宇沢氏はちょっと過激ですが。

     花園さんの尊敬する人物は過激な人が多い気がします。花園さんも過激ですし。僕は、消極的過ぎますが。

     毎年、2月になると体調が悪くなりがちで今年も例外ではないようです。論理性に欠ける文体になりがちですが、ご容赦を。

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  4.  自分でも、今まで自分以上に過激な思想を持った人間を見たことがなければ、先月に友人に「花園君って過激だよね」と直接言われました。なんせこの前言った本屋に水木しげる氏の「のんのんばぁと俺」がなかったから火をつけてやる(もちろん冗談ですが)と言うくらいですし。

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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