・「徹底抗戦」(アマゾン)
先週の小沢民主党代表の逮捕のニュースを受けて、私の頭にすぐに浮かんだのは「国策捜査」という言葉でした。この国策捜査という言葉を知ったのはいわずと知れた「外務省のラスプーチン」こと佐藤優氏の著作で、言葉の定義を簡単に説明すると、それまで曖昧でルールのないまま半ば黙認されていた事案に対し、国や検察が政策変更や世論の流れを受ける形で何かを無理やり事件化させることでルールの厳格化をはかる事案のことを指します。自らを国策捜査の対象とされたと自称し一躍日本にこの言葉を定着させた佐藤氏は、自分と鈴木宗雄議員の逮捕や捜査はこれまでの中央から地方へ税金をばら撒く形で公平分配を行うというやり方から、首都東京を始めとする都市にすべての資本と人材を集中して中央集権化を強める政策転換を行うということを内外に知らしめるため、小泉政権が党内の権力闘争に絡んで半ば象徴的に国民に見せ付けるために行ったものだと主張しています。
このように国策捜査というのは、今度また細かく解説はしますが何らかのルール変更や制度の厳格化を行う前段階に起こるものとされ、その性格ゆえに捜査過程を検察が強く見せるという傾向があるとされます。近年に起こった国策捜査の例として佐藤氏があげているのは、村上正邦元議員のKSD事件、自分や鈴木宗男議員の「ムネオハウス事件」(こっちはむしろインターネット事件史としてみたらいろいろと面白い)、そして今回書評を行う本の著者である堀江貴文氏の「ライブドア事件」です。
一番最初にリンクに貼ってあるのは昨日に私が買った堀江貴文氏が書いた、「徹底抗戦」という本のアマゾンのページです。この本はフジテレビ買収事件から逮捕、拘留の期間を含めた現在までの堀江氏の心境をつづった内容で、全体の感想をまず言えば読んでてなかなか面白かったです。
それで肝心のライブドア事件についての堀江氏の心境ですが、この本の中では始めから最後まで徹底して自らは無罪だと主張しています。捜査されることとなった子会社との架空取引などについて何が容疑とされて何が違法とされたのか、それに対してどうして自分が無罪だと考えるのかなどが細かくつづられていますが、ぶっちゃけかなり細かい話なのでここでは省略します。
ただ堀江氏の主張の中でも私が強く納得したのが、強制捜査後に日本の株価が大きく下落したライブドアショックについての堀江氏の反論です。本来ああいうような強制捜査は投資家心理に与える影響が強いので、株価が大きく下落して株式市場に混乱を起こさせないために海外などでは金曜日に行われるものだそうです。そうすれば市場が閉まっている土曜日と日曜日に投資家は頭を冷やすことが出来、捜査による市場の混乱と無用な株主の損失も最小限に止められるのですが、このライブドア事件では週始めの月曜日に捜査が行われ、案の定翌日の東京証券市場ではライブドアショックと呼ばれる大幅な株価下落が起こりました。しかも堀江氏も突っ込んでいますが、当時の東京証券取引所のシステムは世界的に見ても非常に貧相なシステムで、一日五万件しか取引が行えないために途中でシステムがダウンしたことで当時の混乱と株価下落に拍車をかけました。
こうしたライブドアショックによって堀江氏と法人としてのライブドアは、もう結審したかどうかまでは調べていませんが、ライブドアの元株主などに株価下落による損害賠償請求まで起こされ、刑事裁判でも堀江氏は「市場を無闇に混乱させた」などとこの件が批判材料にされましたが、仮に自分の全財産を出したところでこの時の損失をすべて補填することは出来ず、こうした事態が予想できたにもかかわらず月曜に強制捜査を行った検察と貧相なシステムゆえに混乱に拍車をかけた東証に対してそこまで責任を持たなければならないのかと反論しており、この点については私も深く同意します。
そしてこの事件で堀江氏は逮捕されて拘置所に収監されるのですが、堀江氏は拘置所生活で何もできない、というより人と話すことが出来ないのが非常に辛かったと語っています。私の目からしても堀江氏の性格で狭い場所に閉じ込められていたらそりゃ相当苦痛だろうと思いますが、本を差し入れられてもすぐに読んでしまい、それでいて狭い部屋で一日何時間も何もすることなく置かれるということに現在も強い恐れがあるとして、今後裁判が進んで懲役刑が確定するにしてもできるならば早く刑務所に移送してもらって労務作業をしていた方が絶対マシだとまで述べています。
よく無人島に漂流した場合、食料や衣服があるとしても人間は誰かと話をしなければ精神的に追い詰められて簡単に死に陥るという話がありますが、私のイメージ的には拘置所の生活もそんな感じなのだと思います。そんなもんだから検察官との取調べですらまだ会話が出来るので歓迎したとも堀江氏は述べていますが、こうした精神的プレッシャーを与えて筋書き通りに供述させるのが検察の常習手段だと、同じ経験をした佐藤優氏とこれまた同じ内容の言葉を述べているのが印象的でした。
なおこの本でも名前が出てきますが、やっぱり同じ経験をした仲ゆえか堀江氏と佐藤氏はこれまで何度か対談を催しています。これは佐藤氏の本に書かれていた内容ですが、嗜好品などは拘置所内でも自費で払えば買えるらしいのですが、その購入リストには「メロンの缶詰」というものがあるらしく、変わっているしおいしそうだと思って頼んでみると実際の中身はとんでもなくまずいものだったと、二人とも意見が一致したそうです。そのほか通常の食事では白米ではなく麦飯が混ざったご飯が出されるそうですが、最初は戸惑うものの慣れると非常においしくてやみつきになるという点でも一致したそうです。私から付け足しておくと、出所直後は痩せてすっきりして男前になったのに、現在ではまた元のまんまに太ってしまったのも一致してます。
こうした拘置所体験から出所後の生活、そして現在の裁判の状況とそこでの自身の主張についていろいろこの本ではまとめられていますが、あの逮捕から三年後の現在になって読んでみるといろいろと私の中でも思うところやこれまでの考えを改める内容がふんだんに盛り込まれています。特に堀江氏の人生観についてですが、私自身は今もそうですがちょっと目先が短すぎてあまり好きになれないところがあるのは変わりませんが、世界一の企業を作って後は民間での宇宙開発に残りの人生をささげるという目標に対して堀江氏が従順に努力をしてきたという事実には正直に頭の下がる思いがしました。
そして日本の司法制度についても、検察が捜査権と訴訟権を持つのが問題で、彼らから捜査権を奪わなければどんな犯罪も作り出せてしまうと言っているのは時期が時期だけに核心を突いたことを述べており、また逮捕後の過剰なバッシングにも触れて日本のマスコミは検察とグルになっているとして、電話内容を無断で録音されたなどの実例を挙げて批判しているのは、今後の小沢氏の事件を考える上でも重要な指標になってくると思います。
なんかこのところ文章のノリが急激に悪くなっていますね。今度辺りちょっと趣向を変えた記事でも書いて、心機一転をはかってみようかな。
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