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2010年6月12日土曜日

ファシズムとは何か

 数日前にある本を読んでいると、「戦前の日本がファシズム化したのは伝統的に支配者階級が強い権力を持って庶民を圧迫し続けてきた背景があるからだ」、という記述があり、「いや、そうじゃないだろう」という気持ちを覚えると共に、「そもそも、ファシズムってなんなのだ?」という疑念が持ち上がってきました。

ファシズム(Wikipedia)

 ファシズムというのは一般的に、第二次大戦中に日本、ドイツ、イタリアといった枢軸国における政治体制、もしくはその体制が出来上がる元となった思想の事を指しております。この名称自体はイタリアで政権を握ったムッソリーニ率いたファシスト党から来ていますが、ドイツのナチス党による「ナチズム」、日本の軍部による「大政翼賛体制」もファシスト体制として一般的には分類されております。

 それでこのファシズムが具体的にどのような政治体制なのかですが、特徴を項目ごとに挙げると以下のものが挙がってくるかと思われます。

1、無尽蔵な国家権力(=全体主義)
2、排外主義(=人種優越主義)
3、暴力組織による監視、弾圧(特高、SA)
4、大衆主義(=社会福祉向上の看板)
5、統制経済主義(=国家総動員法)
6、一党独裁の政府


 ちょっと小難しい言葉ばかりで申し訳ないのですが、ざっと並べるとこんなもんでしょう。

 一つ一つをもう少し詳しく説明すると、1番目の「全体主義」というのは個人の自由や人権よりも国家(政府)の体制維持が優先されるべきだという思想で、2番目の排外主義というのは自分達民族が優越な人種であると自認するという、大東亜共栄圏構想やユダヤ人虐殺につながった思想の事です。ついでに書いておくと、大東亜共栄圏構想というのはアジアを平等に一つの共同体へまとめようとする優れた思想だったなどという主張をする人がいますが、「アメリカを始めとした西欧人を打ちのめすために、一時的にアジア各国をすべて日本が占領する」という思想のどこが平等なのか、私にはわかりません。さらについでに書くと妹尾河童氏は「少年H」にて、まさに上記のような大東亜共栄圏構想を面接で滔々と話して高等小学校に合格したそうです。

 3番目の暴力組織については説明するまでもなく、4番目の大衆主義についてはナチス党の正式名称が「国家社会主義ドイツ労働者党」であったように、日本の軍部同様に底辺の労働者や農民の福祉向上を権力獲得のプロセスで掲げていたことを指しております。それゆえにこのファシズムを「国家社会主義」という訳し方をする人もおりますが、私もこれが適当だと思います。
 5番目の統制経済についてもあまり説明するまでもありませんが、要するに米やガソリンを配給制にしたりするなど経済分配をすべて国が管理する体制を指しており、6番目も言わずもがなで大政翼賛会やナチス党が議席を独占して内閣の従属機関でしかなくなっていたことを指してます。

 これらの条件を持った国家体制こそファシズムだというのが私の意見なのですが、一番大きな条件となるとやはり一番目の「全体主義」で、言ってしまえばその他の条件は大体この全体主義に付随するものです。

 さてこれらの条件、よくよく内容をみてみるとかつての旧ソ連や毛沢東時代の中国、果てには現在の北朝鮮といった旧共産圏の国々にも当てはまるような気がしないでもありません。実際にナチスは設立間もないソ連を運営していたボリシェビキの政治手法から多くを学んでおり、権力獲得後の手法は多くの面で共通しています。
 ではファシズムと共産主義同じ物なのでしょうか。さっきに挙げた条件の中で2番目の排外主義についてはやや議論の余地がありますが(旧ソ連内でユダヤ人は差別されたが、民族対立については今ほど激しくなかった)、それ以外の全体主義的傾向などは全くと言っていい程似通っています。

 ここからが今日のミソですが、ファシズムと共産主義を分ける決定的なポイントというのは、政府を握る組織が権力を獲得するまでのプロセスが民主主義的であるかどうかです。
 世界史を学んでいる方には常識ですが、戦前のドイツでナチスは民主主義的な選挙を経て、途中でミュンヘン一揆などもありましたが最初から最後まで極めて合法的に権力を獲得しております。それに対してソ連や中国の共産党は国内での革命戦争に勝利すると、スタート当初でこそ共産党内での方針の違う組織で分かれたり、共産主義と資本主義の中間的な組織が政治に参加するなど多党制的な体制でしたが、途中からは共産党のソ連ではスターリン、中国では毛沢東が対抗勢力を完膚なきまで叩き潰して一党独裁体制へと移っています。

 これまでの内容を簡単にまとめると、権力獲得後の体制こそほとんど似通っているものの、ファシズムと共産制はその成り立ちが民主主義的過程を経ているか否かで異なっている、というのが私の意見です。
 では戦前の日本はどうなのか。ナチスは民主主義に則って権力を獲得したが、日本は軍部がその強権と武力を持って無理矢理権力を握ったのだからむしろ共産主義的傾向が強いと思われるかもしれませんが、私の見方は戦前の日本はやはりファシズムであったと考えています。その根拠については、次回にて。

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