世の中、人生を生きていく上で役に立つという様々な教訓で溢れております。特にビジネス関係で言うと俗に言うビジネス書などといった経営者の自叙伝やコンサルタントらの「必勝、○○法」などといった書籍が本屋にいけばたくさん並んでおり、私も暇な時などは手に取って読んで見たりしてました。
ではそこで語られている教訓は一体どのようにして得られたものなのでしょうか。これははっきりいってしまえば教訓と呼ばれるものは何がしかの成功体験、もしくは失敗体験が背景にあり、古典から一例を出すと毛利元就の「三本の矢」のエピソードは、実際はどうだったかわかりかねますがあの一件で兄弟が仲良くなることに成功したという成功体験から得られた教訓と言えます。
この成功体験と失敗体験ですが、果たしてどちらの方が価値があるのでしょうか。今日はささっと結論を述べさせてもらうと私は成功体験には益もあるが害も多く、参考にするのであれば失敗体験の方が価値が高いと考えております。
一体どうしてこのような結論に至ったのか理由を説明させてもらうと、まず成功体験からは確かにうまくいくノウハウを抽出させることが出来ますが、その一方で成功に至ったのに全く因果関係のない行動や決断を正しいやりかただと誤認してしまう可能性も多分に含んでいるからです。
いくつか実例で言うと、近代日本において最大の成功体験と呼べるものの一つに日露戦争があります。この日露戦争で最終的に勝敗を決しさせたのは東郷平八郎指揮による有名な日本海海戦でありますが、この日本海海戦のあまりの成功体験によってその後の日本海軍においてはいわゆる「決戦主義」というものが生まれてしまったそうです。
この決戦主義というのはゲリラ戦のように小規模の戦闘を地道に繰り返して相手側の戦力を徐々に減らすのではなく相手側の戦力を出来る限り集中させたところを自軍も大兵力を当て、一回の大規模戦闘によって一挙に勝利を決めるという考え方なのですが、太平洋戦争においてはハワイ真珠湾攻撃やミッドウェー海戦など、このような決戦思想的な作戦が度々取られています。
前に読んだ本によると東郷平八郎としては日本海海戦を決戦としたのは相手になるロシアのバルチック艦隊が長距離を移動してきていること、日本が長期間に渡って戦争を続ける余裕がなかったこと、その決戦に対して日本側が十分な訓練を積んでいたという条件があり、いわば与えられた条件の中で最も適格な作戦だったがゆえに実行したと言われております。にもかかわらず太平洋戦争では必然性もなくなにかと決戦行動を取っており、極めつけともいえるのは全く勝利する見込みもなく撃沈されることがわかっているのに戦艦武蔵と大和を戦場に放り込んで無駄に戦力を消耗させております。海上移動砲台と考えれば、使い道はまだあったろうに。
逆に失敗体験で言えば、近年の日本の例だと日本式経営ことJALの破綻が一番好例かもしれません。日本式経営については大分昔にもまとめたことがありますが基本要素は、
・終身雇用
・年功序列
・労使協調
この三要素であり、バブル崩壊後の90年代における「失われた十年」においては日本が駄目になった最大原因として激しいバッシングに遭い、その後各企業において成果主義や中途採用などが導入される原因となりました。
私としては年代ゆえに実体験としてあまりなじみがないのですが三番目の労使協調についてはちょっと聞いてて驚くことが多く、なんでも本来対立関係にあるはずの経営陣と労働組合は実際はべったりで労働組合内で幹部職を経験したものはその後みんな役員に昇進しており、事実上経営陣の下部組織となっていたようです。
この労使協調が行き過ぎて破綻してしまった会社としては現在で言えば航空会社のJALでしょうが、最近になって調べていろいろ驚いたのは旧カネボウこと現在のトリニティ・インベストメントで、旧カネボウはバブル期に経営の多角化を図ったところ新規事業はほとんどどれも失敗して赤字を垂れ流す結果になったにもかかわらず、労使の関係があまりにも強すぎて不採算事業から撤退、廃止、リストラを一切行わず赤字を垂れ流し続けた挙句粉飾決算を行い、一時は日本最大の企業とまでなったにもかかわらずとうとう会社名自体が消えてしまう結果になってしまいました。(唯一収益を上げていたカネボウ化粧品は花王に買収され、ブランド名のみ存続)
私も子供の頃にかすかに「ペンタゴン経営」という言葉を聞いておりましたが、実際の内実はひどいもんだったんだなぁと調べてみてつくづく感じました。
一体何故カネボウについて急に調べようと思ったかですが、実は映画の「沈まぬ太陽」を見てJAL機御巣鷹山墜落事故の後にカネボウで元社長だった人が再建を任されて会長に就任したものの、映画ではいい風に書かれていたものの実際はこの人の在任中もJALが破綻する要因が生まれたという評論を読んだことがきっかけでした。話に聞くとそれ以前からもやけに強気なJALの労組がさらに強気になり、経営陣はその後再建策が何も実行できなくなったそうですが、カネボウの破綻までの話を聞いていると無理もないような話です。
現在の日本においてはこの労使協調はほとんど消え失せ、「羹に懲りて膾を吹く」じゃありませんが労働組合が弱くなりすぎて過重労働などの問題を生むなど別の問題を生んではいますが、少なくとも過剰な労使協調によるカネボウの破綻がJALの破綻にもつながっていることを考えると失敗の原因と言うか対処すべき教訓ははっきりしております。この「羹に懲りて膾を吹く」ということわざのように失敗体験も成功体験同様に、本来正しいやり方を間違えて失敗原因として排除してしまう可能性もないわけではありませんが、それでも成功体験のように余計なやりかたを正攻法と勘違いする可能性やその害の大きさより低いと私は見ています。
失敗体験は成功体験に勝ると私が感じる大きな原因として思い当たる人物が二人おり、一人はダイエー創業者の中内功と、もう一人はフランチャイズの帝王と呼ばれた日本マクドナルド創業者の藤田田です。
二人とも業績好調時はカリスマ経営者と呼ばれましたが晩年は誤った決断から会社の業績を大きく低迷させ、友人曰く「カリスマ経営者というのは紙一重」という言葉の通りに過去のあまりの成功体験からシフトすることが出来ずに終わってしまったと感じさせられる人物です。
現在、一般にビジネス書と呼ばれる経営者の自叙伝などは基本的に自身の成功体験場仮が書かれているように思えます。しかし私はそういった成功体験よりも失敗体験をの方が教訓を探す上では価値は高いと見ており、こういった本が本当に参考になるんかいなとよく思います。成功、失敗するのは誰にでもあります。しかしそこからそれぞれの要因を見極め分析するのはいささか玄人仕事で安易に行うべきではないというのが、今日の私の意見です。
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