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2011年1月22日土曜日

適切なエリート教育とは 前編

 一つ前の「日本人の管理能力、および管理層について」の記事で質問を受けたので、今日は求められるエリート教育の中身について思うことを書いてみようと思います。

 一概にエリート教育といっても、一体どんな教育をさすのかはそれこそ人によって千差万別です。教育学なんかだとこういうのをどういう風に扱っているのか興味は湧くのですが、どのような教育法がエリートの育成に効果があるのか、はっきりと定型化されていない日本の現状を見る限りだとそんなにまだ手垢がついていない領域なのかもしれません。

 そういうわけでどんな教育ならエリートが作れるのかですが、そもそもまずエリートとはどんな人間かを最初に定義しなければなりません。こっちは本題ではないのでさらりと流しますが、私はエリートと言うのは基本的には将来起こりうる問題に対する対策や、将来予見しうる事態に対して優位に立てるように行動指針を作る人間、つまり先見性を強く持っている人間を指すと考えています。本来エリートが勤めるべき役職の例を出すとそれはやはり政治家や企業経営者で、数年後の未来にどのようなことが起こりうるのかを予想して手を打つのが本来の仕事です。今の日本の政治家を見てると、年金を始めとして昔ほっぽって大事になってしまった問題の対処に追われているようにしか見えませんが。
 このほかエリートに求められる資質としたら未知の分野に取り組む率先力、集団を把握する統率力などがありますが、単純に頼れるリーダーとして求められる能力だと考えてください。そんなリーダーことエリートを作るにはどうすればいいかですが、社会学出身なだけにアプローチの方法としては過去にエリートを輩出した実績のある教育法、教育機関の例を辿るのが適当だと思い昨日辺りからいくつかピックアップを始めてました。

 まず現今の日本においてエリート養成機関とされるのは間違いなく東大です。同じ国立大でも京大は、あくまで私の印象ですが個人としての研究者育成機関としての側面が強いように思え、社会的な評価、官公庁や政財界への出身者の進出を鑑みても東大が一応は日本最大のエリート育成機関と見るべきかと思います。
 ではそんな東大のエリート教育ですが入って教育受けたわけじゃないからはっきり言えないものの、話に聞く限りですとほかの大学と比べてカリキュラムが極端に異なっているわけではないようで特別なエリート教育を行っているかは疑問です。確かに官僚や政治家を多く排出している実績こそありますが、昔ならいざ知らず現在において日本の官僚や政治家が他国と比して優秀かといわれるとこれまた疑問です。官僚についてはまだ他国と比べて不正が少ない分だけまともですが、政治家となると一つ前の首相を筆頭に目も当てられません。

 しかし現代ならともかく高度経済成長期の日本の官僚は優秀だったのではないかという意見を言われる方もいるかもしれません。生憎私が高度経済成長期はまだ生まれていないので実際どうだったのかは想像しづらいのですが、年代から逆算するとこの時代の官僚は戦前の東大教育を受けてきているのではないかと思います。同じ東大といっても戦前と戦後では教育法から入学手段まで大きく異なっているので一緒に考えるべきではないのですが、戦前の東大は当時のお国柄もあって今以上にエリート養成機関としての側面が強かったはずでしょう。
 そんな戦前の東大からは立派なエリートが作られたのかについてですが、はっきりと検証できるわけではないものの戦時中の話でこんな話があります。なんでも戦時中のイギリスでは開戦するや名門オックスフォード大学の学生がこぞって空軍に志願していったそうなのですが、日本の東大生を始めとする学生らは徴兵から逃れるために徴兵対象からはずされる理系へと続々と進学していったそうです(手塚治虫も認めている)。欧米と比べてノブレス・オブリージュの気風が日本には少ないということもあるでしょうが、平時は優遇されるとしても非常時となったら率先して前に立たなければならないというエリートは日本には少なかったとよく言われますし、事実私もその通りだと思います。

 また同じく戦前のエリート養成機関としては、恐らく東大以上に陸大こと陸軍大学校の方がその色合いは強かったでしょう。陸大というのは数年間の勤務経験のある三十歳以下の陸軍仕官のみしか受験できない戦前の陸軍内における幹部養成機関のことで、陸軍内で枢要な地位につくためには陸大の卒業資格が必要であること、一組織としては陸軍が戦前で最大であることから当時のエリート養成機関としては最上級のものと私は見ています。同じ軍学校でも海軍大学校は海軍自体が陸軍より人員規模は低く、なおかつ昔陽月秘話に取り上げたキスカ撤退作戦の木村晶福を始めとして海軍内の昇進にあたり必ずしも海大卒業資格が必要なかったことからその役割は一段低いものと見ています。

 ではそんな戦前最大のエリート養成機関の陸大はどうだったかのですが、結論を言えば陸大以前に陸軍が内部で派閥抗争を繰り広げたたために途中からは長州閥嫌いの東条英機らによって長州出身の軍人が入学できなくなるなど、かなり問題の多い機関でした。またWikipediaのページを参照してもらえればわかりますが指導内容も補給こと兵站について指導することがほとんどなく、そうやって卒業したメンバーらも一概にエリートとして優秀だったかとなるとかなりあやしい人物も多いためにむしろ問題ある教育機関の好例といえるかも知れません。まぁ27期首席卒業者の今村均を始めとして人格的にも能力的にも優れた人物を排出しているのは事実ですが、同じ27期には東条英機もいるからなぁ。

 じゃあ一体どんな教育機関がエリート養成として優れているのかですが、日本において最もエリートを輩出した教育機関と呼べるのは文句なしに松下村塾だと私は考えています。高杉晋作、伊藤博文を始めとしてその後明治の維新志士として活躍する人材を数多く輩出しており、ただ単に優秀な人材が集まっていただけというよりは松下村塾の教育の賜物と言えるでしょう。そんな松下村塾はどんな教育は行っていたかですが、実はこれにはあまり研究したことがないので具体的なところはわからないのですが一つ知っていることとしては、松下村塾は当時としては珍しく身分を問わずに誰でも入塾することが出来、農民以下といっても差し支えない身分だった伊藤博文や山県有朋も入塾しております。

 もう少しこの松下村塾、並びにエリート教育について書いて見たい内容がありますがいかんせんすでに長文化しているので、続きはまた次回にて。

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