先日の記事で「あんぽん」という佐野眞一氏による孫正義氏の票田を読み始めたと書きましたが、ふと佐野氏の著書で取り上げられていた河島博という人物を思い出し、未だに記事化していなかったのでこれを機に書こうと思います。
河島博は昭和期おける経営者で、1977年にヤマハ(当時は日本楽器製造)の社長に46歳にもかかわらず就任しております。就任してからは過去最高益を叩きだすなど順調な経営を続けていましたが、息子に跡を継がせたいと考えていたワンマン経営者の川上源一郎によって就任から3年後の1980年に社長職を解任されてしまいました。
なおヤマハはその後、川上源一郎の息子の川上浩が41歳で社長に就きましたが業績は低迷し、労働組合から直接的に社長退任が申し入れるという異常事態にまで発展し、川上浩は1991年に引退に追い込まれております。
話は河島博に戻りますが、ヤマハの社長退任から2年後、ダイエーの会長であった中内功に請われる形でダイエーの副社長に就任します。ダイエーは2000年代に天文学的な負債額を抱えて経営破綻しておりますが、実はこの河島博が社長に就任した1982年に65億円の赤字を出すなど非常に苦しい経営が続いておりました。かつて日本の小売形態を変えた中内功もその神通力が通じなくなり、むしろそのワンマン経営の弊害が出始めていたようなのですが、このような状況を打開するためヤマハを再建した河島を三顧の礼で迎えました。
河島が副社長就任後のダイエーの業績は1981年が119億円、1982年も88億円の赤字を出しますが、1983年には黒字となり見事にV字回復を成功させます。ただV字回復をするや用済みとばかりに河島は解任され、中内功は長男の中内潤を副社長に抜擢します。その後、ダイエーはプロ野球チームの南海ホークスを買収するなど再び拡大路線へと転換しますが、90年前半のバブル景気が終わるや再び業績が悪化し、経営破綻への道を歩くだけとなります。
佐野氏は毎日新聞の連載記事をまとめた「新忘れられた日本人」という著書の中で「二人のワンマン経営者に仕えた男」として河島を紹介しており、その不運と共に晩年までヤマハの川上、ダイエーの中内に対して何一つ不平を洩らさなかったというか口を閉ざしていたことを称賛しております。その上で山本周五郎の「樅ノ木は残った」を引用して伊達騒動の原田甲斐にもなぞらえております。ちなみにこの「樅ノ木は残った」はたまたまですが自分も読んでおります。
私の方から付け加えると、ヤマハとダイエーの二社を立て直し、しかも引退後は二社とも業績が悪化していることから河島は圧倒的ともいえる経営手腕だったのだろうと推察します。それだけに二回も、それも世襲に巻き込まれる形で経営を退くこととなったのは不運以外の何物でもなく深い同情を禁じ得ません。それとともに、企業経営においてナンバー2というのはどうも地味であまり取り上げられることがないのですが、この河島の話を見るについてそういった人物にスポットを当てるべきではないかともというのが、今日の私の意見です。
この手の話を聞くたびにドラゴンクエストダイの大冒険の大魔王バーンの言葉を思い出します。
返信削除「泣いてすがるのは苦しい時だけで平和になればすぐに不平を言い始める。そして英雄の座
を追われる。純粋な人間でない者に頂点に立ってほしいとは思わない それが人間どもよ」
河島博氏はもちろん人間ですが、身内ではない、生え抜きの社員ではないという点で
『純粋な人間』扱いをされなかったのでしょうね。
ちなみに上記のバーンの言葉に対してレオナ姫はダイを迫害しないといいますが、それに
対するバーンの反論は注目です。「たった一人の感情では"国"などという得体の知れないもの
はどうしようもないことは公事にたずさわるそなたなら ようわかろう…? 」
集団(国,会社,大衆)が持つ差別意識は権力者であってもどうすることも出来ない。
よく漫画やアニメでは人と人ならざる者との共存がテーマになった作品が出てきますが
バーンの言葉は私の共存は可能だという希望を見事に打ち砕いてくれました。
なにしろダイの大冒険の連載が終わってから10年以上もたちますが、未だにバーンの言葉に
たいして反論できませんから
いやはや、実に魂を揺り動かす言葉を書いてくれたものです。
削除「ダイの大冒険」はポップの活躍がよく取り上げられますが、片倉(焼くとタイプ)さんも挙げてくれた大魔王バーンの言葉を筆頭に、心に残るセリフが非常に多いですね。特にこのセリフなんか、ダイの父親のバランの一生を考えると深く納得させられてしまいます。
私が思うに、こうした「異種族に対する排他性」は明らかに日本は強いです。中国やアメリカはともに覇権主義国家であることから「異種族でも能力あればOK」という空気が感じられますが、日本は出自が未だに絶対である気がします。かといって、覇権主義になればいいのかと言ったらまた別な話ですが。