ページ

2014年5月15日木曜日

甘粕事件を教える不必要性

 甘粕事件ときたら、大学受験で日本史を選択した方ならまず知ってる事件名でしょう。この事件はどんな事件かというと、大正時代に起こった関東大震災の最中に無政府主義者の大杉栄とその妻である伊藤野枝と大杉の甥っ子である当時六歳だった橘宗一の三人が、憲兵隊員だった甘粕正彦によって殺害されたという事件です。

甘粕事件(Wikipedia)


 この事件は関東大震災直後に起こった朝鮮人虐殺と並んで震災のドタバタに紛れて実行された虐殺例として語られ、特に主役である甘粕正彦が後に中国と満州で裏工作に関わり満州の闇の帝王となる下りと、闇の帝王となった甘粕を映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じたことから印象に残りやすい事件ではないかと思います。実際、私の周りでもこの事件名を覚えている人間の割合は非常に高かったです。
  そんな甘粕事件について何を言いたいのかというと、結論から述べると高校レベルでは教えるべきではないと言いたいのです。何故そんなことを言うのかというと、明らかに事実が異なるからです。

 事件の流れについて簡単に述べると、甘粕は震災後の混乱に乗じて無政府主義者が暴動を起こすと考え、警察署に連行した大杉ら三人を殺害した、という風に高校レベルで教えられるはずです。確かにこの流れは甘粕自身が述べて当時の調書にも書かれていますが、現代においてこの事件自体が甘粕の冤罪であり彼自身は三人を殺害していないことがほぼ確実だというようにみられています。

 甘粕は取り調べに対して殺害は個人の考えでやったと述べ、具体的な殺害方法は椅子に座っている大杉の後ろから柔道の締め手、恐らく腕を首に回して絞殺したと述べているのですが、大杉は当時としては大柄な人間で甘粕よりもかなり身長が高く、仮にそのように締められても立ち上がればほどけてしまうためにこのやり方での殺害は不可能だったと当時から言われていました。このほかの点でも、震災後の混乱の最中とは言え指揮系統の異なる(部下ではない)憲兵隊員に甘粕が命令を出していたり、見つかった死体の状況が甘粕の供述と異なったりしていたため、当時のメディアも甘粕の犯行を疑う声が多く出ていたそうです。

 そうした背景もあって開かれた裁判で甘粕の弁護人は、甘粕が由緒正しい武家の出身でありこれまで謹厳実直に生きてきたと述べた上で、「そんなあなたが年端もいかぬ男の子もその手で本当に殺めたのですか?」と問うたところ、なんと裁判中に甘粕は涙を流しながら、「大杉と伊東は私がやりました。しかし子供だけは本当に手をかけておらず、死体を見て初めて(殺害されたことを)知りました」と尋問での供述をひっくり返す始末で、後から橘宗一を殺した別の憲兵が出てくるなど非常にグダグダな裁判となりました。でもってグダグダなもんだから、やっぱり甘粕が主導したという結論で終わるわけです。

 裁判後、甘粕は刑務所に収容されますが何故かすぐに恩赦が出て出所し、何故か陸軍がお金を出してくれたのでフランスへ留学に行きます。まぁ国内にいるとなんだから厄介払いとして遠ざけられたんでしょうがね。
 その後の甘粕の流転ぶりは佐野眞一氏の「甘粕正彦 乱心の曠野」 に詳しいですが、満州に渡って裏交錯して、上海の麻薬利権を中国人マフィアから奪い取ったり、北京で溥儀を拉致ったりと、果たしてこれらが同じ人物であるのかと疑いたくなる活躍ぶりを見せます。イメージとしてはこうした裏工作の面が強いためダーティさが濃い人物ですが、彼と直接接した満州の映画人物たちはほぼ全員が好意的に評価しており、故森重久彌や李香蘭こと山口淑子氏も厳格であった一方で非常温情のある優しい人物だったと述べています。実際、枕営業の要求に対して「女優は娼婦ではない!」などと言い返して拒否したというエピソードも残っています。

 ちょっとというかいつもながら長々と書いてしまいましたが、少なくとも一般の高校教師レベルでここまでの内容を把握している人は少なく、普通に甘粕事件は甘粕がやった、社会主義者を殺害する位だから満州でも裏工作していたと教えると思いますし、それも無理ないことだと私は思います。しかし現実には甘粕事件では甘粕が犯人だとは思えず、いろいろ説がありますがヤクザの鉄砲玉よろしく上司なり上役の罪をおっ被せられたのが真実でしょう。然るに学校では甘粕が実行犯として教え続けられるため、誤った事実が伝えられかねない状態です。そう思うだけに、もうこの際だから高校ではこの事件は扱うなといいたいのが今日の意見です。

  おまけ
 甘粕事件の背景というか真犯人説は色々出ていますが、中には甘粕=フリーメーソン説なんてのもあるそうです。ちょうど先日に友人と話をした時に、「フリーメーソンのせいにすればなんでもかんでも丸く収まらね?」なんて話し、いくつか例として挙がってきたのは、

・近鉄とオリックスが合併したのはフリーメーソンの陰謀
・佐村河内はフリーメーソン
・STAP細胞問題も理研を特定法人にさせないフリーメーソンの陰謀
・ ソニーが赤字出すのもフリーメーソンのせい

 どれもそれらしく見えてしまうのが不思議です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

注:ブラウザが「Safari」ですとコメントを投稿してもエラーが起こり反映されない例が報告されています。コメントを残される際はなるべく別のブラウザを使うなどご注意ください。