そんな寒い思いしながら書いた昨夜の「人材派遣企業各社のマージン率一覧、及びその公開率」は執筆時間が約3時間と、通常30分~1時間程度で一本書きあげる私からすると異常に時間のかかった記事でした。調査したデータ量もさることながらあれこれ派遣業界について提言することも多く、正直に言って書いてて非常にしんどい記事でした。もっともそれだけ時間をかけながら書き切れなかった内容も多いので、今日は続きとばかりに言いたいこととか書きたいことをまとめて書き記すことにします。
<調査対象企業の選定>
今回、再び派遣企業各社のマージン率を調査するに当たって調査対象とする企業は一般社団法人日本人材派遣協会に登録している企業のすべてに当たる560社を選び出しました。何故この560社を対象にしたのかというとサンプル数も調査するにはお手頃で、なおかつ業界団体加盟企業ということで統計を取るに当たって業種や規模の偏りをある程度抑えられ一種の代表性を持たせられると考えたからです。
結果的にはそれら期待していた効果をきちんと内包するいいデータに仕上げられたと自負していますが、実は日本人材派遣協会のリストを選び出す前にもう一つ、厚生労働省職業安定局のサイトにある派遣業登録企業を調べられるページから対象企業を抽出しようかとも考えていました。ここでは日本国内で派遣業として登録してある全事業所をリストアップすることが出来るため、文字通りオールオーバーな調査にすることが出来たのですが、試しにリストアップさせてみたら調査対象となる事業所が6万件超もヒットし、一般派遣登録事業所に限定しても1万8000件という膨大な数が出てきました。
当初はこの1万8000件を全部調べてやろうか、次の旧正月中にがんばればなんとかなるかななどと思ってましたが、途中で無理だと思って方針を転換してまず正解でした。まぁ6万件の中からランダムサンプリングしてもよかったのですけどね。
<調査期間について>
今回調査対象となった企業数は560社で、これらを全部調べ終えるまでには約二週間かかりました。この二週間という期間をどのようにとるか人それぞれですが、私個人の感触としては一週間程度で完了させるべき調査ったように思え、無駄に時間をかけ過ぎてしまったと反省しています。何故これほどまで時間がかかったのか言い訳を述べると、調査をしていて全くと言っていいほどモチベーションが上がらなかったことに起因すると考えています。
というのも調査結果にも書いていますが、マージン率を公開している派遣企業は5社中1社程度という割合で調べても調べてもほとんどの会社でデータが得られず、そういう企業を繰り返し見ることでモチベーションが下がっていったのだと思います。時間にして大体30分くらいでテンションが落ち、一時間もすれば眠気すら覚えるほどだったためある日に至っては夜十一時にベッドに入って就寝したくらいでした。日系企業の海外拠点を調べる時なんかは三時間くらいぶっ続けでやってても集中力が切れないというのに。
<派遣企業名に使われる頻出ワード>
文字通り主要な派遣企業各社全てのホームページを検索し、見て回ったわけですが、調査中に困ったのは同業でなおかつ似たような名前の会社が多かったという事でした。パッと見だと区別つかず、検索してヒットしてみてみたら完全に同名の別会社であったこともあり、それから先はきちんと住所確認などをしてリスト中の企業であるかどうかを判別して作業しました。
そうした派遣企業の会社名に頻出するワードとして挙がってくるのだと、「ヒューマン」、「キャリア」、「スタッフ」が三本柱でしょう。三つとも横文字ですがこの業界はどうも横文字を尊重する文化があり漢字名だけのごつい会社名はほぼ全く有りません。折角だから上記三つのワードを縦文字に変えた上で組み合わせ、「人間職歴従業員株式会社」みたいな会社を誰か作ればいいんだなどとよくわからない愚痴をこぼしながら調査してました。
<グループ内派遣企業の異常な多さ>
知ってる人には当たり前ですが派遣業界には大手企業の完全子会社として、グループ内に人材を派遣する会社も数多く存在します。それらの会社の派遣先はほぼ100%親会社、もしくはグループ会社で、何故直接雇用せず子会社を経由させてまで採用するのかというと派遣社員として雇えば給与も抑えられ、またいつでも切ることが出来るというメリットがあるからです。このほかグループ間で人員の調整が効かせやすくなったりとか、企業秘密を守りやすいというメリットもあります。
こう書くと身も蓋もないような言い方に見えますが現地採用を経験した身からするといつ切られてもおかしくない身分の人間がいることはそんなおかしいことだとは思いませんし、そうやっていつでも切れる社員を抱えておきたいという企業側の思惑も理解できなくはありません。
ただ今回調査をしていて、そうした大企業傘下の人材会社がいくらなんでも多すぎやしないかと疑問に感じました。それこそ「大企業一社につき人材派遣会社一社」といっていいくらいの量で、派遣業界全体にとってもこの乱立振りはかえって発展を妨げるのではと思うほどです。
一応、平成24年の派遣労働法改正によってこうした大企業傘下の子会社などに対し、関連企業へ社員を派遣するいわゆる「グループ内派遣」の割合を80%以下にすることが規定に加えられています。しかしマージン率の公開義務同様にこちらも罰則がないがため事実上形骸化している状態といってもよく、業界全体の発展を考えてこの際だから強力な罰則を設け再編を促した方が良いのではにかと個人的に感じました。
<マージン率の公開場所、公開の仕方>
この調査で実に様々な会社のマージン率公開の仕方を見てきましたが、ホームページ上でデータを見つけやすい企業もあれば、見られたくないという思惑もあってかやけに見つけづらい所にこっそり公開している会社も多々ありました。
私個人の意見としてはマージン率の情報は原則、トップページ、もしくは会社概要のページに直リンクをつけて公開していただけると閲覧者も見やすいのではないかと思います。数ある公開企業の中で一つの理想形と感じたのは株式会社ステップワーク日光で、会社概要のわかりやすい所にマージン率公開ページの直リンクがつけられ、またその公開の仕方も細かい内訳を明かすと共にグラフを用いて公開してあって一目で情報がわかります。しかもこの公開ページはjpg画像になっててPDFより軽くてサッとみられる点も好印象なだけに、公開していない会社は是非ともここを参考にして情報公開に努めてもらいたいものです。
<公開情報の対象期間(事業年度)>
派遣マージン率は直近年度一年間の平均データを公開することが義務となっておりますが、いくつか見てきた中でマージン率を公開こそしているものの、そのデータを採った対象期間をきちんと明記していない企業が結構多くありました。今回調査ではあまりにもデータが少なくなる恐れがあるため毒を飲む覚悟でそのような会社は「公開している」として○評価としましたが、実際には直近年度ではなく二、三年前のデータで公開している可能性も高いと考えています。
恐らくもうやる必要はないでしょうが次回の調査ではそのようなデータの対象期間を明記していない会社は須く情報公開義務を果たしていないカス野郎と判断するつもりです。このあたり、派遣企業各社には注意してもらいたいものです。
<初年度しか公開しなかった企業>
上の事業年度と関連する話ですが、派遣労働法が改正された直後の事業年度はきちんとマージン率の情報を公開しておきながら、次年度以降は更新をサボるというか情報を公開しなくなった会社も多数ありました。恐らくほかの会社があまり報じていないのを見て、「だったらうちもいいや」的なノリでやめちゃったんだと思いますが、逆を言えばこの手の会社は公開が義務だとわかっていながら公開していないというようなもので上記の言葉を又使うならカス野郎ども、といったところでしょう。
<労働組合系団体によって設立された非公開企業>
株式会社フォーラムジャパンと株式会社ワークネットはどちらも労働組合系団体によって設立された人材派遣会社でありながら、マージン率などのデータは公開していませんでした。そもそもこの業界にコンプライアンスを求める方が間違っているのかもしれませんし、労組系団体が口先ばかりで信用できないというのは今に始まったわけではありませんがなんかなぁって気がしてきます。ちなみに名古屋で冷や飯食ってるであろううちの親父は、昔に会社の労働組合に行ったらそこで「同志」とリアルに言われたという思い出話を語ったことがあります。
<問い合わせればデータを送ると嘘を吐いた企業>
派遣企業の中にはメール、もしくはお問い合わせページで請求すればマージン率などの情報を公開すると書いてある企業もありましたが、そんなの素直にくれるわけありませんでした。ファッキンな対応されて非常に悔しかったのでそのような会社を下記にリストアップします。
上のプラスアルファは調査対象リストに入っていませんがほかの似た名前の会社と間違えてサイトを訪れ、メールで公開すると言っていたので要求しましたがガン無視されました。こう言ってはなんだけど向こうもいい迷惑だろうな。
下のスタッフサービスさんは次の項目で詳細に書きますが、もう一社、株式会社サウンズグッドという会社も問い合わせで対応すると書かれてあり試しに送ってみたらなんと、ちゃんとデータを教えてくれました。なおサウンズグッドの問い合わせページでは会社名や役職などを書く欄があったのですが個人による調査だったため、会社名には「個人」と書き、役職には「名ばかり松戸市民」と書いたもんだからまず返事くれないだろうと思っていただけに意外でした。
ただサウンズグッドは残念なことに、全事業所のデータを送るように伝えていたにもかかわらず本社のデータしか送ってもらえず、向こうの手違いかもしれませんが間を取って公開度評価は「△」にしました。本当に惜しい……。
<裏MVPのスタッフサービスさん>
そんなこんだでようやく業界大手のスタッフサービスさんの登場です。上記にも書いた通りにホームページ上で同社は請求すればデータを送ると書いてあったので全事業所のデータを送るよう請求した所、会社名と利用目的を明かすよう返信が来ました。そのメールの返答として私は、会社名については個人の立場であるためそもそも答える必要はないと書き、利用目的については正直にマージン率調査による取材であることを明かしました。この私の回答に対する相手の再回答は以下の通りです。
スタッフサービスグループホームページお問い合わせ担当窓口でございます。
ご返信ありがとうございます。
お問い合わせいただきました件につきまして
弊社は法令に基づき、適切にマージン率等の情報公開を行っております。
各事業所ごとに備え付けをしておりますので、そちらにてご覧ください。
スタッフサービスグループ
ホームページお問い合わせ担当
決して文章を弄っているわけではなく、本当にこのままの文章で返信されました。要するに、遠回しにデータの公開を拒否されたようなもんです。第一、「データが知りたければ事業所に来い」と言われるのは私としては非常に心外で、「マージン率を調べるためだけに、中国にいるこの俺に国境を渡ってこいとでも言うのか(#゚Д゚) プンスコ!」という具合でちょっとカチンと来ました。まぁこうなるのは目に見えてたけどね。
このメールに対して私はスタッフサービスさんにもう一度返信を送っており、厚生労働省のサイト内の解説でインターネットなどにより公開することが義務だとはっきり書かれていると断った上で、「元記者の立場から言わせてもらうとお宅の法務部は日本語が読めないのかと、本来ならば追加質問するところです」と書き送り、最後に取材に協力ありがとうと言って終いにしました。恐らくここに限らず、ほかの大手に聞いても同じような回答と結末に至ったでしょう。
何もこのスタッフサービスに限らずインテリジェンスとテンプスタッフ以外の大手は揃ってマージン率をホームページ上で公開していません。今に始まるわけではありませんが派遣業界は異常なまでに法令順守の意識が薄く、これまでにも二重派遣、偽装請負、製造現場への日雇い派遣などが騒がれてきましたが、騒がれた一瞬だけ話題となって今ではまたこれらの違法派遣行為が日常化していると聞きます。少なくとも福島原発の現場作業員はいくつもの派遣会社を経由して派遣されているということは周知の事実で、派遣業界自体が法律を破ってナンボな空気があるように見えて仕方ありません。なんでこうなるのかは重ねて言っているように罰則がないからで、違法があれば経営者に対し懲役刑を必ず課すようにすれば一気に改善に向かうのではと私は考えます。
<面白かった企業>
最後にこの調査中に見たホームページで面白いと感じた企業を紹介します。
サイト内に「お局様度チェッカー」というのがあり、男なのにやってしまった。
何故か「占い・情報の泉」というページがあり、「海外旅行占い」という謎の占いページがあります。ちなみに自分が選んだ行きたい海外旅行先は何故か「中国」と「ロシア」でした。
調査大変お疲れさまでした。最近でも人材派遣会社の劣悪さはかわらないんですね。
返信削除福島原発への派遣の仕方はなんとなく想像してましたが、実際そうだと知るとショックですね。
家の事務所の派遣職員は前任者から引き継いで3ヶ月弱で派遣法により、期間が終わってしまうらしく嘆いてましたが派遣法自体見直さないと労働環境は悪いままですもんね。
法律を直さない理由としては、やはり、企業の利益主導の考えがあるからだと思います。政府もそれを容認しているしているのでしょう。国を憂うから企業が大切なのはわかりますが、その国に住む人のことをないがしろにする理由にはなりませんからね。派遣法は見直すべきです。
恐らく大抵の方はサカタさんと同じ視点で、自分の視点の方が異端であるということを前提にしてご回答しましょう。
削除派遣法を見直すかどうかについて、情報公開義務に罰則をつけるというのであれば賛成ですが、派遣社員の待遇改善については別に無理して変える必要はないかと考えています。というのも、前回記事中でも少し触れましたが一時期にあれだけ騒いでいたこのマージン率の問題に関して月日が経つやあっさりと忘れてしまい、挙句に派遣労働者の組合団体などがこのようなデータを作っていなかったというのは私個人として呆れて物が言えません。そもそも正社員で、なおかつ中国にいる自分がこんなの作ってる時点でいろいろおかしいですし。
弱者というのはもちろん救われるべきですが、抵抗もしないで誰か助けに来てくれると考え何の活動もしない人間は果たして弱者と言えるのか、私は疑問です。派遣労働の待遇が悪いというのは大部分、彼らが待遇改善のためになんら活動をしてこなかったことに起因するのではと覚えます。断言しますが、彼ら百人束になってもこと派遣労働の問題に関しては私一人の方が価値が高いです。更に言えば、自分は法律で規定されていない身分での労働も経験しているだけに、彼らよりも現地採用の人たちの待遇改善の方が急務であると考えています。
大変面白い記事で、興味深く拝見させていただきました。
返信削除自分も特定派遣で働く身分ではありますので、このマージン率公開に関してはかなり注視していたのですが業者により対応がかなり違いますね。
当時在籍していた派遣会社T(一部上場企業)は、法改正を受けて
2013年4月にマージン率を公開すると半年前から公表していたのにも関わらず
結局マージン率の公開はなし、数ヶ月遅れてこっそり平均派遣単価(日単価)を書面で郵送してきただけでした。(計算してみたところ、マージン率は50%オーバーでした)
また、その後は平均派遣単価すら公表されませんでした。
ちなみに別の会社だと、契約更新(3ヶ月)のたびに書面できちんと教えてくれました。
記事記載のように、かなり多くの派遣会社のモラルが低いということは確かな事実でありますが、
一方できちんとした対応をされている誠実な会社もあるという事実はかすかな救いではあります。
決して「良貨を悪貨が駆逐する」ようなことがないためにも、
こういった派遣業界の実態を知る情報は貴重だと思いますね。
おっさん労働者様、コメントありがとうございます。去年四月にやった前回調査記事でもそうでしたが、当事者である派遣労働者の方に見てもらえこうしてコメントを頂けたのは大変光栄です。
削除コメントいただいたご自身の経験についてですが、調査記事中でマージン率50%の事業所に対し、ここは特殊な派遣の仕方をしてそうなので通常ならまず突破しないだろうという観測を書きましたが、まさか越えている事業所が本当にあったとは正直驚いています。マージン率を公開していない会社は公開している会社に比べ平均的に高い数値だろうとは予想しているものの、自分の予想以上に高い数値が出てくるのかもしれません。
またマージン率を公開している会社も多少はいることが救いであるというご言及についても、ただ単に書き忘れたのか意図的に書かなかった本人にもわからないのですが、記事中で公開企業を持ち上げ非公開企業を叩くことにより、派遣労働者の方々が良貨たる公開企業を選択してもらうよう促す目的もあってこの記事を書きました。こうしてコメントをいただけた当たり、多少はその目的も果たせたかなと少し誇らしく思えます。
ご調査頂き深謝しますわ。非常に詳しく総括してくれましたわ。勿論、その中には悪質な人材派遣会社も存在しており、例えばパソナという会社ですわ。
返信削除何やパソナとなんかあったん?また確定ではないけど、パソナに関しては時期に続報が出るよ。
削除