先日の日本帰国中に読んだ雑誌で、佐藤優氏の書いた評論が載っていたので読んでみました。その評論というか連載記事では北方領土交渉について書かれてあり、その回では交渉の前提にあたる北方領土の歴史や条約の経緯について解説されていたのですが、その中で日本にとって二次大戦は三種類の戦争があったという指摘が興味深かったです。
三種類のうちの一つは、日本と米英、オランダ、オーストラリアとの太平洋を跨いだ戦争で、これは佐藤氏の言葉を借りるなら「典型的な帝国主義戦争の性質を帯びていた」とのことです。その上で両者の言い分なり立場は五分と五分の関係でどちらかが正しく、どちらかが間違っているという要素はないと言い切っています。
二種類目は日本と、中国、フィリピン、インドネシアなどアジアを舞台にした戦争で、これに関してはアジア諸国から日本の行動が侵略と受け止められたとして「侵略的性質を帯びていた」とこちらも言い切り、日本は真摯に反省するべき戦争であったと述べています。
そして最後、案外これは出てくる人は少ないのではないかと思いますが日本とソ連(ロシア)の戦争を指し、これは日本が侵略された戦争だったとして不当に日本の領土がソ連に掠め取られたと述べています。
この佐藤氏の主張に対して私の感想を述べると、漠然と上記のような価値観は持っていたもののこれまで戦争相手国によって戦争の性質が異なるとははっきりとした定義分けは出来ておらず、非常に新鮮で見事な視点だと感心しました。その上で日本は侵略国でもあり被侵略国でもあり、また太平洋の覇権を競おうと戦争した国だったのかと、その認識を改めさせられました。
正直に述べれば私はあの戦争における日本は侵略国家的な要素が強く、米国との戦争に関しては追い詰められたというより何も考えず、なんとなく仲が悪くなっていったから戦争に発展していったという風に考えてました。ただ佐藤氏の言い分を聞いて、太平洋戦争は覇権を競う戦争、要するに主義主張の正当性はどちらも全くない戦争であったという説明を聞いて深く納得でき、やはり大陸での戦争と定義を一緒にすべきではなくこのようにはっきりと分けるべきだと重ねて思います。
改めて考えてみると、右翼と呼ばれる集団は米英との戦争を取って日本は侵略された(追い詰められた)と主張し、左翼と呼ばれる集団は大陸での戦争を取って日本は侵略したと主張し、同じ二次大戦でもそれぞれの都合のいい部分を切り取ってあの戦争を色んな材料に使ってきた節があります。しかし本来なら太平洋、そして大陸での戦争は「日本の二次大戦」として一つにくくるべきではないほど要素が異なり、かえってこうした各勢力による「いいとこどり」が続いたせいできちんとした歴史の分析が出来てこなかったのかもとも思えてきます。
その上で最後に述べるとするならば、期間は短かったとはいえソ連との戦争についても改めて再考するべきかもしれません。佐藤氏の言う通りにあのソ連の侵攻は紛れもない条約違反で、日本側から侵攻だと言っても特に門は立たないように思えます。私がこの歴史を再考すべきだというのは何もロシアへの憎悪を煽ろうとかそういうものではなく、どうすればこの何するかわからない猛獣のような国と付き合っていけるのか、そうした問題点を解くヒントが得られる要素があるかもしれないと考えるからです。
よくこのブログでも主張していますが、中国も何するかよくわからないけど、ロシアはもっと何するかわからず潜在的な危険度で言えば中国の比ではありません。少なくとも中国はその辺をよく認識しており、いつかは米国を下して世界の覇権を握ろうと考えてはいますがロシアとは覇権がどうのこうの以前になるべく関わりたくない、非常に危険な相手だけど仮想敵国にはしたくないという態度をはっきりとみせています。まぁその気持ちはよくわかりますが……。
おまけ
この佐藤氏の評論ですが、何に載っていたのかっていうと「ベストカー」というカー雑誌です。なんでこんなのにこんな評論載っているんだろうかと少し不思議です。
佐藤優氏の評論は流石に聞いていて説得力がありますね。花園さん一押しの人物なだけありますよね。
返信削除僕は最近佐藤優氏の本を読みまして、仕事哲学的な本で読みやすいものだったのですが、それには色々と佐藤氏の過去の話も載っており、大変な経験をしていて、それなのに実にまっすぐな人物なんだなと感心しました。
二次大戦については、侵略し侵略され覇権も争うという3つの構成は確かにその通りだと僕も納得した次第です。しかし、戦後の日本の対応は、自分が侵略した国に謝罪するのはいいが、謝る必要の無い国にまで謝る過剰さ。その逆に、侵略された地域の返還交渉は遅々として進まず、その状況を嬉々として周辺諸国に難癖つかれて領土を奪われつつある現状に、腹が立ちます。
まあ、それが敗戦国の性なのかもしれませんがね。。。
佐藤優氏の評論本や対談本は確かに面白いんだけど複数冊読んでいると、「あ、これ前も言ってたな」という具合に重複する内容が意外に多かったりするので、最近自分はほとんど手に取らなくなってしまいました。ただ今でもファンであるのには変わらず、お勧めとしては処女作の「国家の罠」とソ連崩壊間際を描いた「自壊する帝国」です。後者は長いけど、読後にすごい印象に残りました。
返信削除二次大戦に関しては意外と、現代の日本人はきちんとあの歴史に向き合っていないのかなと最近よく思います。なんで向き合えないのかというとドライに歴史を見るのではなく変な主義主張を絡めようとする、もしくは絡められたりするため視点がまがってっちゃう感じです。おっしゃる通りに、負け犬根性に近いと思います。
記事化せずに長らく貯め込んでいるのですが、山田風太郎が終戦直後に書いた日記を読むとなかなか今の解釈とは異なる解釈で敗戦を見ている様子がわかります。この点についてまた機会があれば頑張って記事化するので、いつもとは言いませんが今後も読んでいただけると幸いです。
第三次世界戦争が起こると思いますか?
返信削除いつかは起こるだろうね。チャーチルは第四次世界大戦に使われる武器は木の棒だと予言していたが。
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