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2015年9月26日土曜日

サイコスリラー映画の時代

 最近趣味の話を書いてないのでこの前友人に話した映画の話をします。

 サイコスリラー映画と見出しに書きましたがそもそもサイコスリラーという言葉は定義がはっきりしておらず、巷間でもサイコホラーとかサスペンスなど別の言葉とほぼ同意義に使われてるようにみえますが、敢えて私の方から定義づけするならば、「金目当てや怨恨ではなく殺人そのものを快楽目的に実行する殺人犯がテーマ」というのがジャンルとしての位置づけだと考えます。この手の犯人の特徴として欲求的に殺人を犯すことから何かしらマイルールめいたものがあり、特定の特徴を持った人間をターゲットにしたり、バラバラにしたりとか同じ凶器を使うとか殺害の仕方に共通点があったりして、犯人を追う側はこうした犯人のマイルールを読み解いて実行犯の特定や追跡を行っていくというのがこのジャンルの醍醐味と言えるでしょう。

 そんなサイコスリラー映画ですが、私見な意見を述べると1990年代において非常に流行って大量に生産されていたなと思えます。このブームの嚆矢となりかつ恐らく最高傑作となったのはハンニバルシリーズの映画第一作である「羊たちの沈黙」であるように思え、アンソニー・ホプキンス氏の怪演もさることながら見えない犯人の姿形特徴性格を殺害の手口などから徐々に類推していくプロファイリングの過程が大いに評価され、日本でも一時期やたらとこの「プロファイリング」という単語を使った書籍や作品が出されました。
 この「羊たちの沈黙」の何がすごいかっていうと、ある事件の異常殺人者の性格分析を、その犯人以上に明らかにぶっ飛んでるというか規格外な「人食いハンニバル」ことレクター博士が冷静に行っていくという過程だと思います。この「異常者をもっとおかしな異常者(しかも普段はめっちゃ知的で紳士的)が分析する」という手法は現代でも多くの作品に使われますが、この作品以上にぶっ飛んだ構図は多分ないでしょう。

 この「羊たちの沈黙」のヒットを受けてかそれまでのサスペンスの枠を越えた、異常殺人者をテーマにした作品はハリウッドを中心にたくさん作られ、私が小学校高学年から中学生時代までなんかしょっちゅうこういう映画を見ていた気がします。ただどれもがヒットしたかとなるとやや微妙で、ブーム以前のスプラッターホラーから脱却しきれず映像のグロテスクさだけしか能のない作品だったり、異常殺人者というよりただのびっくり犯人にしかなってない作品であったりするなど、特に日本製作の映画やドラマ、漫画でこういう傾向がありました。一例を挙げると漫画の「多重人格探偵サイコ」は私の目からして、ヒットはしたけれどもさっきも言ったびっくり犯人大集合だけだったような気がします。
 なんでそういう駄作が量産されたかというと犯人の異常性だけを際立たせようとして、その異常性をどう読み解くか、犯人の経歴や社会背景、現場の手掛かりなど頭を使って推理する部分がおざなりになってたからじゃないかと考えます。また推理する部分にスポットを当てるにしても、そもそもなんで犯人が異常者なのかというと、常人の認識を越えた狂気を孕んでいるから異常なのであってその異常性を常識的に分析しようとすること自体がやや無理があり、分析する側にも現実離れした一定の狂気が要求されるのにその辺が上手く描き切れてなかったからじゃないかと思います。

 そうした大量生産時代にあって一目置いた作品を上げるなら、こちらもヒットしたアメリカの映画の「セブン」を挙げます。あのブラッド・ピット氏もこの作品で一躍名を挙げましたが、俳優らの演技はさることながらキリスト教の七つの大罪に沿って殺人(何人かは殺されなかったが)が続けられ、最終的に犯人の目的が結局わからないまま終わってしまうとい衝撃的な結末は当時においてなかなかに新鮮で、でもってやっぱり公開した後から七つの大罪をやたら引用する日本の漫画作品が増えた気がします。
 監督のデヴィッド・フィンチャー氏の好みでしょうがこの「セブン」は割と淡々にストーリーが進んでいき、視聴者に「どや!」って言わんばかりに画面を注目させる演出が少なく、そうした撮り方がこのジャンルにうまく適合していたんではないかと個人的に思います。ちなみに映画の「アイアンマン」を見ていて、「なんかこのヒロインどっかで見たことあるような……」と思ってたらこの「セブン」でブラッド・ピット氏の妻役を演じてたグウィネス・パルトローでした。

 この「セブン」以降もサイコスリラー映画はしばらく続きましたが、2000年に近くなってくると流行のホラージャンルがまた変わり、いわゆる日本初の「ジャパニーズホラー」がハリウッドを席巻することとなります。ジャパニーズホラーの特徴を少しだけ述べると、被害者が何の落ち度も理由なく理不尽に殺されたり祟られたりするというのが何よりの特徴で、むしろ品行方正で幸せそうな家族が無慈悲に殺されることが多いという風に私は見ています。友人曰く、「日本人からしたらそういう理不尽は日常茶飯事だが、向こうの連中からしたら新鮮に見えるんじゃないのか?」とのことです。

 またハリウッドの中でもシリーズ化して長期間続いた「SAW」など、以前のサイコスリラーと比べてミステリー色を強めたホラー映画が段々と中心になっていきます。もっとも「SAW」は第三作目から、ミステリーというか「今週のびっくりドッキリメカ」を楽しむスプラッター作品になっていきましたが。

 最後に私が気に入っているサイコスリラー映画(だと思う)の作品を挙げるならば、「セブン」と同じ監督による2007年公開の「ゾディアック」になります。これは実際にアメリカで起きて、未解決のまま終わった劇場型犯罪の走りともいえる「ゾディアック事件」を元にしたほぼノンフィクションの作品で、主演のジェイク・ジレンホール氏やロバート・ダウニー・Jr氏らなど俳優がやたら豪華なのと、犯人候補がストーリの進行とともに次々と浮かんでは消えていく過程が見ていてとてもハラハラさせられます。特に犯人候補の自宅を主人公が訪問した際、地下室に案内されたところで一切の音がなくなるシーンはマジでドキドキした。
 簡単に「ゾディアック事件」についても少しだけ触れると、この事件では連続殺人の犯人が自ら新聞社に暗号文を書いた手紙を送りつけたりラジオの電話に登場したり、次の殺人を予告したしたりと大胆な行動がとられたものの結局犯人は捕まらず、現代においても迷宮入りし続けている事件です。聞くところによるとこのところ話題の酒鬼薔薇もこの事件を参考にして暗号文を送りつけたとのことです。

5 件のコメント:

  1. いつも興味深い内容の記事ありがとうございます。

    私が怖いな、と感じたサイコスリラー映画は貴志祐介の「黒い家」です。映画は日本版、韓国版の両方を観たのですが、韓国版のほうがじめじめした怖さを表現していて怖かったです。例えば、生きたまま工場の裁断機に突っ込まれるシーンとか。

    中国の都市郊外を舞台にしたサイコスリラー映画とか無いかな?と思ってますが、中国人はあまりホラーに耐性無い人が多い気がします。

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    1.  いえいえこちらこそこんなしょうもない記事にもコメントありがとうございます。
       実は「黒い家」も日本版サイコスリラー映画としてこの記事で紹介しようか悩んだのですが、「羊たちの沈黙」などとはやや趣が違うかなと感じて省いてしまいました。あと私の友人が貴志祐介氏の大ファンでこの「黒い家」もやたらと絶賛しており、自分が書くよりそいつに書かせた方が楽かなとも感じたこともあります。
       中国は現実世界(リアルワールド)で物騒な事件がまだ多発しているためサイコスリラーが流行るような土壌じゃないですね。どっちかっていうとリアルでスプラッターだから、日本や米国の様にもう少し生活基準が向上したら流行ってくるかもしれません。あと中国人がホラー耐性ないってのは同感です。日本のしょうもないホラー映画とかでもやたらと怖がるのが見ていて不思議ですし。

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  2. こんにちは。
    中国人の方は、ホラー耐性がないのですか!
    「文革」や「西太后」などの限られたイメージで、残虐シーンに強いと思ってました。

    酒鬼薔薇ですが、一時、あの事件に興味があり、いろいろ本を読んでました。今回、本人の著書が出て、読んでみて、更生後の生活を応援したいと思えた内容だったのですが、ホームページをみて、何だか、膝かっくんを受けたような、ガクーっとした脱力感を覚えました。。
    花園さんは、中国でご覧になりましたか?
    見なきゃ、見ない方がいいかもしれませんが、、。

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    1.  結論から述べると、酒鬼薔薇のホームページには興味があり見てみたいという感情もありますが今に至るまで見ておらず、今後も敢えて見ないようにするつもりです。理由は単純に注目されることが今の彼の目的のように思え、これに乗せられてたまるものかという反骨心からです。
       このところの彼の行動について思うところもあるしその考えについてほかの人の反応も確かめてみたい気もありますが、このブログなどで取り上げればそれこそ彼の思う壺だと思え、独立した記事には書かないけど陰で一応は観察しているということを示そうとサイコスリラー映画に絡めて最後の一文を入れた、というよりこの最後の一文に合わせてそれ以前の文を付け加えたのが実はこの記事です。
       ちょうど昨日の記事のコメントにも連なりますが、基本やはり自分は本当に言いたい一文を入れ込むためにそれ以外の文章を敢えて仕立てて記事化しているところがある気がします。それにしてもスルーされるに越したことはないと思いつつも、この一文にコメント来る当たり、自分の何か伝えようとしている執念がやっぱりこもってたのかと苦笑いを浮かべる次第です。

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  3. まあ!
    そうだったのですね!
    言われてみれば、昨日の一文と今日の一文の部分が、オレンジ色に輝いてるような、、?笑

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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