また本題と関係ありませんが最近になって初めて「きゆづきさとこ」氏という漫画家兼イラストレーターの存在を知ったのですが、これほど色使いのうまい人はかつて見たことがなく、どうして今まで自分はこの人の存在を知らなかったのだろうかと思うくらいの衝撃を覚えました。色に対する感覚が他の漫画家などと比べて根本的に何かが違うように見え、頭文字Dに例えて言うなら藤原拓海とそれ以外のような……。我ながらよくわからない例えだ。
話しは本題に入りますが、一昨日発売した文芸春秋九月号の巻頭コラムに現長野県松本市長の菅谷昭氏が寄稿していました。最初名前を見てもピンとこなかったのですが書かれている内容がチェルノブイリで影響を受け甲状腺がんを患った子供たちの話題であったことから、「この人、ベラルーシに単身で渡ったあの医者か?」と一気に記憶が揺さぶられました。読んですぐネットで調べたやはりその通りで、90年代に職を投げ打ちベラルーシへ単身で渡った医師がこの菅谷市長でした。
私が何故この事実を知っていたのかというとごく単純にテレビ番組、それも往年の人気番組の「プロジェクトX」で取り上げられていたのを見ていたからです。この番組で菅谷市長がどのように取り上げられたのかというと、医師の父親の元に生まれた菅谷市長は長じて自身も医師となり、山々にある遠隔地へ毎日徒歩で往信していた父を見習い自身も弱者に寄り添うような医師を目指していたそうです。
医師として順調な生活を送っていた菅谷氏ですが、チェルノブイリの爆発事故による放射能汚染の影響を受け、ベラルーシでは子供を中心に甲状腺がんの発症が急激に増加しているというニュースをある日知ります。甲状腺がん自体は切除手術で治療はできるものの、当時のベラルーシでは耳の後ろから顎下まで深々と切り裂いて切除する手術しかされておらず、手術を受けた子供たちは痛々しく生々しい傷跡と一生付き合っていくしかほかありませんでした。
これを見た菅谷氏は、「俺が行くしかねぇ」とばかりに当時務めていた大学を辞し、医療ボランティアとして単身でベラルーシに渡ります。渡った後しばらくは全く収入もなく手弁当でありながら、ベラルーシの子供たちに傷跡が全く残らない手術で以って治療を行い続け、現地の医師たちにその手術法を伝授していったそうです。この時の菅谷氏に私淑した現地医師の、確かゲンナジーさんだったと思いますが、その施術の正確さといい指導の細やかさといい凄い医者だと思って菅谷氏に追いつこうと自分も甲状腺がんについて海外の医学者などを取り寄せて勉強し始めたところ、甲状腺がんの主要な論文に「Akira Sugenoya」という署名がびっしり載せられているのを見て二度びっくりしたそうです。
ベラルーシ滞在中、先ほどのゲンナジーさんは勤務地が途中から菅谷氏と離れたものの休日にはわざわざ数時間車を運転してまでやってくるなどして菅谷氏への支援を続け、確かプロジェクトXのスタジオにも現れ二人で再会を喜んでいました。
菅谷氏はベラルーシで約二年間活動してから日本に戻り、その後共産党の要請を受けて松本市市長選挙に出馬して2004年に当選し、その後もずっと当然し続け既に三選を果たしています。その菅谷氏は今回の文芸春秋のコラムで、ベラルーシでは国内の子供たちに甲状腺がんの検査や治療費を国が負担していることを紹介した上でベラルーシの政府関係者から、「ベラルーシより大きな日本ではこういった国家支援をしていないのか?」と問われたことが書かれています。
関係ない立場のはずですが、正直私もこの言葉は耳に痛いと感じました。一部で報じられているものの、やはり福島原発周辺では影響を受けやすい子供の甲状腺がん発症率が高まっていると聞きますし、むしろそうでなければ不自然だと考えます。しかしこの方面の検査費、治療費に対する国や自治体の支援については何も聞かず、むしろそうした支援を行うことによる風評被害が起こるのではという懸念は耳にして、そんなことしない方がいいと思っている人の方が多いのではと思う節すらあります。
私個人の勝手な意見を述べればやはり被災地付近に置いては毎年無料で検査が行えるよう国が支援すべきではと思います。というのも治療において見つけるのは早ければ早いほどよく、また甲状腺がんは手術によりほぼ確実に治療できるからです。
最後にこのコラムの中で菅谷市長は、かつて自らが施術して今は大人になったベラルーシの子供たちから最近子供を産んだなど連絡が来ていることを明かし、こうした連絡を素直にうれしく思うということを、少し誇らしげに書いて結んであります。
自分自身がそういう性格をしているからかもしれませんが、何の支援もなく孤立無援の状態でありながら単身で飛び込んでいくような人間がことのほか好きで、野球でも野茂英雄氏のファンですが、この菅谷市長についても初めてその存在を知った時から強い尊敬の念を覚えていました。まさかその後で市長になっているとは露知らずでしたが、やはりこういう強い意志を持つ人間が社会でも大きな立場になるべくしてなる社会が望ましいものです。
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