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2018年8月24日金曜日

書評「しんがり 山一證券 最後の12人」

 日本最後の内戦とくれば今年の大河ドラマでも恐らくやるであろう西南戦争ですが、最後の反乱となるとその直前の佐賀の乱なのかと考えていたら、直近でもう一つ、「清武の乱」があったということを思い出しました。これも絶対的権力者に単身反乱を起こしたって意味ではある意味歴史的事件かもしれませんが、そういえばこの乱の主役である清武英利氏の本で読みたいものがあったことも思い出し、この前買って読んでみました。



 その本というのも「しんがり 山一證券 最後の12人」で、テレビドラマの原作としても使われた本なので知っている方も多いのではないかと思います。なんでこの本を手に取ろうかと思ったのかというと、反乱の後で落飾し、一介のジャーナリストに戻った清武氏がこのところ面白い取材本を出しているということを以前聞いていたのが大きな理由です。
 なお自分の元上司は読売新聞社内で一度清武氏と仕事したことがあって、清武氏については細目に連絡を出すなど非常に卒がなく仕事のできる人だったという印象を持ったと話していました。

 話は戻りますが、清武氏自身への興味もさることながら改めて山一證券の破綻について調べてみたいというのもあって買いました。内容はどちらかというと山一證券破綻の真相に迫る部分もないわけじゃないですが、それよりも破綻調査に関わった面々の苦しい状況を中心に描かれており、経済ルポというよりかは名もなき社員らの奮闘劇という面の方が強いです。読み応えは悪くはないのですが、会計方面の経済ルポを期待するとがっかりする点はあるかと思います。

 2008年のリーマンショックは世界証券大手のリーマンブラザーズの破綻をきっかけにして起きていますが、やはり改めて歴史を追うと日本の「失われた十年」も、バブル崩壊もさることながら、本格的にその色を深めたのはこの山一證券が破綻した97年からだったのではないかと思います。その点について少しこの本でも触れられており、まだ97年は平成不況の初頭であったことから山一証券の元社員の再就職は全体としてはつつがなく行われたと触れられています。もっともそれ以降から不況が増したことによって、一旦別の証券会社に転職しながらもすぐリストラに遭う人もいたと触れられてました。

 債務飛ばしの方法に関しては割と古典的な海外法人を絡めた債務の移し替えで、読んでて感じたのはオリンパスの時の手法と似ており、単純だけどやっぱり見つかり辛いもんだなという気がします。また現在もそうですが、こうした会計不正事件の責任者に対する処罰が日本では生温いとこの山一証券の事件でも覚え、恐らくこのような刑罰基準が続く限りは今後もこうした事件が続くでしょう。
 なおはみ出した内容を触れると、西田について中の社員たちは「こんな大変なこと引き起こしたくせに自分はのうのうと死にやがって」と言っているそうで、既に亡くなっているとはいえこうした批判は彼については寄せられても仕方ないだろうと私も思います。

 最後にもう一つ読んでて思ったこととして、この本の主題は山一證券の破綻過程、原因を探るために起ち上げられた社内調査委員会メンバーの奮闘ですが、こうした調査委員会自体がちょうど今問われている時期なのではないかと思います。例えば日大のアメフト事件でもすったもんだ挙句に弁護士をはじめとした調査員会が立ち上げられて、その報告内容などについて大きな注目が集まりました。同じスポーツ関連だとこのところ不祥事のラッシュで、女子柔道のパワハラ問題などでもパワハラはなかったとする協会の主張を鎧袖一触して「あり過ぎ」と調査委員会が断じた上で、その実態についても細かに報告されました。
 一方で森友学園の問題は結局トカゲのしっぽ切りで終わってしまうなど、不完全燃焼で終わる不祥事もまだ少なくありません。また独立した弁護士による調査委員会と言っておきながら、企業・団体側の息のかかった弁護士によって構成されて虫のいい報告が挙がってくる例も少なくなく、法整備まで行くとやり過ぎかとは思うものの、「何をもって独立した調査委員会と報告というのか?」という点についてもっと社会で議論すべきじゃないかと思います。

 同時に、そうした「独立した」価値観や視点を持つ人間を今後、企業がどれだけ抱え、この山一証券の例のように外部調査に頼らず社内調査によってきっちり自分のケツを拭けるかというのが、コンプライアンスとして問われてくるかと思います。基本的に企業というのは会社に忠実、言い換えれば不正に目を瞑る人間を採用したがりますが、その結果が上記の山一証券や東芝の末路であり、そのようなリスクに対して事前に対処できるか、対応できる人材がいるか、そうした社風があるか、こうした方面に力を入れる企業をきちんと評価できる社会があって成り立つところもあるでしょう。

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