その後、ローマ帝国の崩壊とともにイタリア各地はゲルマン人、ノルマン人が作った王国や、東ローマ帝国、果てにはムスリム勢力によって分割されますが、中世期の北イタリアではミラノやフィレンツェを中心に各都市が自治を行い、支配権を強めいようとする神聖ローマ帝国らに抵抗しながらその独立を守りました。
なお同時代のナポリやシチリアなどの南イタリアはフランスやスペイン系の王族による王国が作られ、都市による自治はあんま成立していませんでした。
中世期、具体的には10世紀前後ですが、日本が鎌倉時代であったころにこうした共和制自治がイタリアで成立していたということに素直に驚きます。一応、日本の鎌倉時代も北条家が主導権を持つも合議制形式こそ成立していましたが、議会なんて概念は当時全くかったろうし、市民の代表を選挙などで選んで政治を任すなんて概念に至っては、日本だと明治になるまで成立しませんでした。
もっとも当時の北イタリアも、当初でこそ都市の有力者が選ばれて議員や執政となったものの、次第に身分が固定化されていき、メディチ家のように世襲で都市の執政を務める一族が増えていったようですが。中には「身内で選ぶと揉めるよね(´・ω・)」とばかりに、外部からやってきた有能な人物を毎回執政に選ぶ都市もあったそうですが。
話を戻すと、一体何故イタリアではこうした共和制自治が発達し、日本では誰もやろうとしなかったのか。日本に限らずとも、ランス、ドイツなどもイタリアほど尖がった議会的なものは発達せず、唯一英国に限ってマグナカルタなどを経て議会が強い力を持ちましたが、本格的な共和制が成立して市民(ただし有力者に限る)が参政権を得るようになるのはフランス革命まで待たなければなりません。
この辺について詳しい人がいたら本当に解説してほしいのですが、自分個人でいくつかその背景を考えたところ、大きく分けて二つ理由があるのではないかと睨んでいます。その一つ目は、ローマ教皇の存在です。
言うまでもなくローマ教皇はキリスト教の最高権威者で、キリスト教世界では圧倒的な発言力を有します。ローマ教皇、並びにローマ政庁自体は有力な軍隊こそ持ちませんが、キリスト教世界の領主に対する軍事発動権は有しており、十字軍などはまさにその呼びかけによって起こされました。
このローマ教皇ですが、中世においては日本の天皇に近い立場であったのではないかと思っています。というのも各地、各国の支配権を認めるのはローマ教皇で、随所で異民族を追っ払った軍事指揮者に対しその領土の支配権を認めたりしています。またローマ教皇の方針に従わない領主や国王に対しては破門を下すことで、有能なカノッサの屈辱のように教皇は間接的に各地の支配権をコントロールしていました。
そんな教皇がいるのは言うまでもなくイタリアのローマです。教皇が実際支配するのはローマ市だけですが、現在のイタリア領土内は教皇が直接支配せずともその影響力を強く持てる地域でした。そのためか、異民族の侵入も多かったというのもありますが、よく領土争いの舞台になり、支配者が時代ごとに度々変わっています。でもって途中からは異民族を追っ払ったフランスやドイツの君主は、中世の証としてローマ教皇にイタリア北部の土地を寄進したりもしています。
寄進された土地は大体が寄進した相手に支配権をそのまま認めたりすることが多いのですが、その寄進主はフランスやドイツの国王が多く、彼らは普段はフランスやドイツにいることが多く、その支配も必然的に遠隔地から行っていました。結果的にこうした不在地主のような立場もあって、現地の有力者を代官みたく取り立てなければならず、その代官らが徐々に有力者となって自治に至るというパターンが見られます。
またある時期からローマ法王はフランス国王や神聖ローマ帝国(オーストリアやドイツ)の皇帝らと関係が険悪化するのですが、その過程で法王寄りの都市が神聖ローマ帝国から離反するというのも見られます。いわば二つの強大なパワーに挟まれたエリアゆえかその支配は常ならず、変動的であったことから確固とした政権が成立しなかったのではと思います。
特に11世紀辺りに起きた神聖ローマ帝国の支配に対し北部の各都市がロンバルディア同盟を結んで抵抗し、戦争を経てその自治権を獲得した過程は、北イタリアの自治体制の確立に大きくつながっています。
個人的な意見でいえば、教皇のいるローマの近くでなければ、北イタリアの諸都市は歴史の通りに自治を確立することは難しかったのではないかと思います。やはり教皇のおひざ元ということもあって、北イタリアの支配を図った各勢力は強硬な手段に出られなかったように見えます。
こうしたパワーバランスのエアポケットみたいな地政学的条件が、ある意味で緩衝地帯みたいな環境を作り、それに乗じて北イタリアの諸都市は独立を保って共和制自治を得るに至ったのではというのが自分の見方です。もう一つの理由については、また次回で書きます。
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