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2024年1月11日木曜日

堕落したと思う検事

 先日、お勧めに表示されていたので先に亡くなられた半藤一利の「坂口安吾と太平洋戦争」という本を読んでいます。こちらは太平洋戦争期における坂口安吾の行状や視点について、生前に彼の担当編集者として原稿受け取りなどで直接やり取りした半藤一利が当時の思い出を語りつつ、坂口がどのようにあの戦争を見ていたのかを推測する内容となっています。
 なお坂口の家に直接寝泊まりした際に半藤が、「風呂に入るときにふんどしをそのままタオル代わりに使えば、ふんどしも洗えて一石二鳥だぞ」と坂口に言われたと書かれています。さすがにやらなかったそうですが、「合理的な考え方の人だった」と評しています。

 さてその坂口の代表作といえば「堕落論」と「白痴」で、恐らくこの二作品がなければ平成の世まで語り継がれる作家とはならなかったほどの影響力を持っています。私もこの二作品を読みましたが、特に前者の「堕落論」に関してはまだ高校生だったこともありいまいち読み込めず、何となく無垢な人間はかえって美しいということを言っていたのかと読み取っていましたが、解説文を読んだら全然違う風に解説されていました。
 具体的には終戦後に自信を失っている日本人全体に対し、特攻隊員などはその命をなげうってまで国家に尽くそうとして、その崇高な精神については否定のしようがないと踏まえた上で、今回戦争に負けた後はそのような国家に捧げるといった崇高な精神を持ちつづける必要はなく、崇高な精神から堕落といわれようと、自分本位に利己的な人間になり下がっても何も悪いことはない。堕落といわれようが、そもそも人間ってのは自分本位な生物なのだし、元の姿に帰るようなものじゃないかといったような、戦後における自己本位への価値観の転換をためらうな、悪くないと訴えかける内容だったそうです。

 改めて見ると非常に的を得ていると思うと同時に、あの当時の時代背景を考えるとこうした言葉、特に「価値観を変えても悪くないよ」という言い方は本当に世の中に求められていたと思います。そしてこれは終戦後の一時期に限らず現代においても通じるというか、ルネサンス的に自分本位で利己的であってもそれを許そうという提唱につながる気がします。

 そんな堕落論の解説を読んだ上で、坂口の堕落論の本旨とは異なるのですが、近年の現代人で「堕落」という言葉を意識している人はどれだけいるのか、この点が自分は気になりました。

 そもそもこの10年くらいの間、活字に「堕落」という言葉を自分はほとんど見た覚えがありません。しいて言えばファンタジー系のゲームや漫画で、天使と聖職者が「堕落」する展開で使われているだけで、そういう聖なる霊的なもの以外の普通の人間にはほぼ使われているのを見ないですが、現実には堕落というか、一度上がった高みから落ちていく人間というのは少なくないと思います。

 私自身も、「外食に千円も使うなんて外道だ(# ゚Д゚)」などと学生時代に吠えており、日々貧しい食事で糊口をしのいでましたが、今現在となると普通に千円以上で外食もし、「ためてばかりじゃなくこうしてお金使わないと経済はよくならない」などと言い訳を口にするようになっています。もちろんこうした言い訳はおかしいものではないと現在は考えていますが、学生時代と比べるなら自分の精神の糊口さというか自分を高みに置こうという意識は、確実に薄れています。

 もっともここら辺は自分自身の中で完結するのでそこまで問題ではないでしょうが、中には権力を持ちながら精神が明らかに堕落した人間も少なくなく、この手の輩は昔から存在はしますが、堕落を自らは全く意識しない有様には閉口をします。それこそ権力を握るに至るまでの初心にあった崇高さは影もなくなっており、そうした意識が今あれば、どれだけ救われる人がいるんだろうという気持ちを見ていて感じます。

 具体的に指名すると、大原化工機冤罪事件を担当した塚部貴子検事です。彼女はかつて郵便障碍者割引事件に絡む村木厚子氏の冤罪事件で前田恒彦が証拠を捏造した際、当時の検察の上司にこの捏造をしっかり認めないのであれば辞職するといっていたと報じられます。それから約10年の時を経て現在、彼女はこの大原化工機事件で検察側にて明らかに冤罪を主導する立場を維持しており、村瀬氏の事件の際に彼女がとった行動を取る人間が、今の彼女のそばにいないというのを寂しく思うと同時に、近年ではっきり「堕落」を覚える人物だというふうにみています。

 なお前田恒彦に関しては証拠捏造というあれだけの事件を起こしておきながら、Yahooのコメント欄でしたり顔して法律、捜査関連の記事にオーサーコメントを入れているのを見ると非常に強い嫌悪感を覚えます。しかもしょうもない法律系ニュースにコメントを入れるくせに、この大原化工機の冤罪事件については一切触れないあたりは何様だという気がします。
 仮に彼が別の分野で再出発するというのであれば私も応援しますが、少なくとも証拠捏造という権力執行者が絶対にやってはならない行為に手を染めたのだから、法律や捜査関係からは一切足を洗うのが筋だと思います。YahooもYahooで、何故彼を排除しないのかという点で私は不満を覚えます。

 ちょっと話がそれましたが、塚部貴子検事のように当初は崇高な意識を持っている人間であっても、その後意識が変わって堕落するというのは世によくあることです。精神の堕落そのものは坂口安吾の言う通りに何も悪いわけではないですが、堕落を意識せず、ねじ曲がった精神で権力を行使する人間というのはやはり社会にとっては害悪でしょう。

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