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2024年7月28日日曜日

「報われたい」と思わない精神

 先日、前から気になっていたタフシリーズだけど巻数多くてこれから追いかけるにはきついなと思っていた矢先、聖人キャラと呼ばれる主人の父親でおとんこと宮沢静虎が主人公との外電作品「オトン」だと2巻しかないことに気が付き購入して読んでみました。元々、作者の猿渡哲也氏については迫力ある筋肉の描写はすごいと思っており、この外伝作品でもその個性がはっきり出ていて非常に楽しめました。
 何気に猿渡氏については、平松伸二氏のアシスタントになる際に持ってきたスケッチブックに、いろんな角度や形をしたたくさんの「手」しか描かれていなかったというエピソードが今でも強烈に覚えています。

 話を戻すとそんな普段はさえない銀行サラリーマンに見えて、いざバトルとなったら物凄い容赦ないおとんですが彼の名言にこんなのがあります。

「他人のために何かをやったとしても、決して見返りは求めるな。 もし、それを望んだらその瞬間、お前の行動は醜悪なものになる。」

 実に名言この上なく誰に対して伝えても恥ずかしくない言葉で、見返りではなく自己実現、「自分がそうしたい」からを行動原理にしろと息子である主人公に伝える際の言葉だそうです。
 この言葉を聞いてもう一つ自分の頭に思い浮かんだ言葉として、見出しにも掲げた「報われたい」という言葉です。結論から言うと「報われたい」と思った瞬間、その時点でその行動は本人にとって望ましくない行動になるという風に思います。

 人間誰しもギブアンドテイクというか損得勘定で行動を決めます。何故その行動を取るのかというと自分にとってメリットがあるからで、わざわざデメリットがあること確実な行動を取る人間はまずいません。ただその損得勘定については人によって個人差があり、目先のメリットのみ追及する人もいれば、長い目で見てここで泥被った方が後々有利になると考える人もいれば、自分が強い責任感を持ち続けることによって最終的にメリットが得られるとひたすら耐える人もします。

 そこへきて上の「報われたい」ですが、この言葉の意味としてはこれまで継続、積み重ねてきた行動が今は価値を生まないけど今後しっかり価値を生んでほしいという願望にほかなりません。さらに掘り下げるとこの「報われたい」と考えた時点で、恐らくその行動はその人にっては「本音ではもうやりたくない」という行動になり下がっているものと思われます。
 そのように踏まえると、この言葉が発する心理状況はすでにギャンブル依存症などと同じく「サンクコスト」と呼ばれる心理に近く、「これまでコストを支払ってきたんだから取り返すまではやめられない」という状態にあるのではないかと思います。具体的には、資格試験の勉強を何年も続けてきたけどずっと受からない、同じ会社にずっと働き続けたけど自分の思うように評価されないなど。

 こうした状況で「報われたい」と思った時点で、すでに支払ったコストを取り返せるような恩恵が得られる可能性は低くなっていると思います。であれば、過去のコストに関しては損失としてしっかり認識し、現状の自分にとって何が最善の行動となるのか、改めて見直してみた方がずっといい気がします。「今更仕切りなおせない」という人もいるでしょうが、伊能忠敬だって40代から勉強し始めたのだし、何かを始めるのに遅すぎるということは実際にはほとんどないと私は思います。

 以上を踏まえてさらに付け加えると、「報われる」という言葉は一種の呪いのようだと思います。「頑張ってれば報われる」と言いますが、努力の方向性が間違っていたらそんなこと起こるはずないし、事の成否は運の要素も絡み、努力が正しくても報われない現実というのは確実にあると思います。
 たとえ報われない可能性があったとしても成功に向けて努力し続けたいという精神は崇高で立派であるし、そうした行動は成功を掴めなくても、その本人にいろんなものを残すと思います。しかし途中で、「まだ報われないのか?」などと思った時点で、もはや本人が「やりたい」という気持ち以上にこれまでのコストから「今更やめられない」という状態に至っている可能性が高く、「いつか報われる」という言葉というか概念に引っ張りまわされているような状況に陥っている可能性が高いでしょう。

 そういう意味では冒頭のオトンの言葉じゃないですが、「いつか報われることを夢見て」という概念は根本から持たない方がいい気がします。以前からも言っていますが、将来よりも今を必死で生きる方がもっと重要だし、今を真剣に生きることでかえって将来が開かれると私は思います。なので「報われる」というのは、あまり多用すべき言葉じゃないのが結論となります。

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