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2008年7月23日水曜日

日本の大学教育と職業とのつながりについて

 ある日、知り合いのチリ人留学生とこんな話をしました。
「チリでは法学部の学生は皆弁護士になるし、文学部の学生は出版会社とかに勤めて、経済学部の学生はそれぞれの専門に学んだ分野の企業で働くけど、なんで日本人は大学の専門と関係ないところで働くの?」
「日本の場合、大学はモラトリアム的な空間と考える人が多いからね。一時はこれはよくないと言われて再考した時期もあったけど、理系はともかく文系は未だに大学での専門と社会での職業が結びつかないことの方が当たり前だよ」

 実はこのチリ人からの質問は、私が中学校時代に思った疑問でした。
 今では小学校や中学校での義務教育の質の低下が問題となっていますが、90年代後半当時はむしろ、「分数の解けない大学生」などといわれ、大学生の質の低下の方が問題視されていました。そのため会話の中の私のセリフのように、あまりにも大学の教育が社会で実を結ばないことが問題視され、社会で即戦力となる人材を育てるべく大学の教育方針を変えるべきだとあちこちでいわれた時期がありました。私は当時は中学生位でしたが、学問は社会で役に立ってなんぼだと思い、この動きを支持していました。

 その方針が本格的に採用されたかどうかはわかりませんが、現在新設学部の名前に多い、「政策学部」というのは、まさにこの動きの中から生まれてきた学部だと思います。ちなみに、現在どの大学も収入を確保するために学部を増設したがっていますが、文科省も安易な学部増設は認めないのですが、「政策」、「国際」という名前がつけば認可が下りやすいとのことで、現在のように政策学部と国際関係やら国際経済学部という名前が各大学に氾濫することになったわけです。なお、それらの学部は定員を増やすために作られ、指導内容などは二の次となっていることが多く、あまり現役高校生の方には入学を私は薦めません。

 話は戻りますが、確かに日本では理系はともかく文系の専門によって職業が決まるといった、実社会へのつながりは非常に細いです。それこそ文学部の人間が商社に勤めたり、経済学部の人間が公務員になったり、商学部の人間なのに簿記がわからないとかざらです。果たして、そんな状態で大学の存在意義はあるのでしょうか。こんなので大学は社会へと貢献をしているのでしょうか、この点が昔の私にとって強い疑問を感じたところでした。

 しかし、先ほどのチリ人留学生との会話の私の話の続きを言うと、
「けど、私はこの日本の教育の仕方もありだと思っている。確かに大学での専門と職業が直結していれば専門的な能力はずっと向上すると思うけど、その代わりに他分野への理解が減り、人間として幅が狭くなると思う。
 日本は専門的な能力は職業を通して学ぶものだと考え、大学では将来の職業を全く考えず、人間の幅を広げるためだけの教育の場と割り切っていると思う」

 今の私の考えは、まさにこれです。詳しくはわからないですが、このような大学教育の考え方を「リベラルアーツ」といって、大学教育に求められる重要な要素とされています。一般には大学一回生、二回生の間に行われる一般教養の授業に当たるのがこれです。一つの専門に凝り固まらず、幅広い分野を学び、その上で専門に進んでいくという教育方法で、今じゃ私もこの方針の支持者です。

 この教育方法だと、学生は自分の入った学部なり学科の専門に縛られず、空いた時間に好きな学問を勉強したり、他学部の学生と交わったりすることができます。私自身の大学生活を思い返しても、いろんな専門の人間と関われたことが最大の自慢でもあり、収穫でもあったと自信を持って自負できます。これがもし単科大学で、カリキュラムが高校時代のようにあらかじめびっしり決められもしていたら、こんだけ書かれる内容が統一されていないブログなんて、恐らく書けなかったでしょう。

 もちろん、チリのような教育方法も決して悪いわけではありません。少なくとも専門の勉強を行うことで、その知識が生かせる職業に必ず就けるというのならそれはそれで即戦力で、また社会への貢献も大きくできるでしょう。しかし私は社会というのは多様性があるほど活気があると考えており、一つの会社の中にも様々な専門知識を持った人間がいろいろいる方が、なにかと楽しそうな気がしますし、将来的には大きくなる可能性を秘めている気がします。

 もっとも、日本の大学教育にもデメリットはまだまだあります。その辺はまた今度解説するとして、そうしたデメリットを考慮に入れても、私は現状の大学教育を支持します。
 最期に今の大学生に一言言っておくと、できるだけ自分と関係のない分野こそ勉強してください。それがいやなら、なるべく他学部の友人を作ってください。私なんか、同じ学部の友人がほとんどいなかっただけだけど……。

2 件のコメント:

  1.  実は、僕は理系の機械工学科なのですが国際政治や歴史、哲学などに興味をもっていて、授業も国際関係や歴史などの授業をよくとったりしています。僕は普通の人とは逆に1、2年生のころは物理とか数学にほとんど興味がわきませんでした。ご存知かと思いますが、理系の授業はほとんどが必修科目で埋め尽くされていてなかなかとりたい授業がとれなくて歯がゆい思いをしました。しかし、3年生になって理系の科目の面白さもわかってきて少し勉強が面白くなってきた感じです。相変わらず国際政治、歴史、哲学は好きなので勉強できるうちにいろんなことを学んでいきたいなと思います。そういう意味でも花園さんのブログは僕にとって大変役に立っています。いろいろ知識不足の面が多いですがこれからもよろしくお願いします。

     

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  2.  理系はやはり、文型と比べて高度な技術が要求されるために専門に縛られるようですね。自分の周りでも、サカタさん同様に哲学や政治学に興味をもつ理系の学生がおり、なるべくわかりやすく講義をやっていました。
     逆に自分も理系の学生から先端技術などの話を聞いていて非常に参考になる事が多く、文系理系の壁に囚われることなく、文理融合型の人材を目指してがんばっています。まぁ、バリバリの文系特化型だけど。

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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