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2009年4月21日火曜日

死刑制度について

 別に狙ってたわけじゃなかったけど、結構タイムリーな時期にこの記事を書くことになりました。
 さて日本は先進国が次々と死刑制度を廃止している中で死刑制度を保持し、また去年には鳩山法務相(当時)が死刑囚の執行を次々と認めたことから朝日新聞が「死神」呼ばわりして物議をかもしました。私はこの死刑制度についてどう思っているかと結論から言えば反対で、未だ迷いはするものの廃止論者だと自認しています。

 私が何故死刑制度に対して反対しているのかというといくつか理由はありますが、まず第一の理由として人間が人間の生死を決めるのはおこがましいからという単純な理由があります。これなんか私の宗教的バックグラウンドが大きく影響していると思うのですが、戦争や諍いによる突発的な殺人ではなく裁判という過程を通じ、その被告の生死を制度として集団が決めるというのは直感的に如何なものかと思っています。言ってしまえば人間の倫理観で絶対的に正しいことや間違っていることを判別できるわけなく、そんな拙い判断力が裁判を通したからといって人間の尊厳に深く関わる生死まで決めるというのは神様への冒涜なのではないかと考えるからです。

 第二の理由は、死刑執行者のあまりにも大きな負担です。これだけ技術が発達した今の世の中でも死刑が決まった死刑囚を自動的に機械が殺してくれるわけではなく、ある段階で刑務官などの執行者がその死刑囚の殺人に関わらなければなりません。昔に聞いた話だと死刑執行に立ち会う、実行する刑務官には執行後に国から手当てが出されるそうですが、果たしてそんなもので彼らの心的負担が補償されるとは思えず、これまた十年以上前に見た執行を行った刑務官の匿名のインタビューでは、家族に対して自分の行ったことは言えず、また自分の仕事と言っても割り切ることの出来ないという話を読んだことがあります。
 この辺なんかを何故もっと死刑を増やさないのだと主張する人たちに強く言いたいのですが、死刑にはどこかで刑を執行する人間が必ずおり、自分は執行に関わりたくないがもっと増やせという意見であればあまりに軽薄すぎるとしか言えません。少なくとも、もし誰もやらないのなら自分が執行してもよいという覚悟を持った人以外はこのような意見を持つべきではないでしょう。

 他にもいくつかありますが、私が死刑制度に反対する大体の理由は以上の通りです。まず勘違いしてもらいたくない点として、私は裁判自体を否定するつもりはありませんし犯罪者を一般社会から隔離する懲役刑も社会の安定性を維持する上で必要であると考えています。
 最初の理由で述べたとおりに、私は人間の倫理観というのをあまり信用していません。それこそ過去には魔女狩りなどと今じゃとうてい理解できない瑣末なことが犯罪とされて社会によって処罰されており、そんな信用のない倫理観に照らして犯罪者かそうでないかをどうして区別するのかといったら、その社会の多数派が持つ認識を一致させてその社会を安定させるということに尽きます。これまた言ってしまえば、我々の社会で犯罪者とされる人だけが住む国が作られたりしたらそこでは盗難も合法となるのかもしれないんだし。

 私だって犯罪を行う人間は憎いと思いますが、刑を行うというのは俯瞰的に言えば多数派が少数派に自分たちのルールを押し付ける行為とも取れると思います。よく死刑を廃止して終身刑を最高刑にすると犯罪者が自然死するまでの食事などに税金を使わなくてはならなって無駄だという意見がありますが、私は懲役刑の受刑者を含めてそれらの税金は自分たちの社会を安定させるためのコストだと割り切るべきだと考えており、我々の社会から少数派を締め出す代わりに彼らに与える最低限の補償だとも思います。
 ここまで言えばわかる通りに、私は死刑を廃止して再審で覆らない代わりはどうあがいても釈放されない終身刑こそが最高刑として相応しいと考えています。

 これはあくまで私のおこがましい一意見ですが、果たして殺人を犯して死刑になった犯罪者を死刑で殺し、それが遺族にとって本当に慰めになるのかという疑問があります。もちろんニュースを見ているとそれでも死刑を執行してほしいと訴える遺族もいるのは知っていますが、報復からは何も生まれてこないのではなかいかと個人的に思います。
 その一方でここまで死刑に反対だといいながらも、池田小事件の宅間守のように死刑以外にどうやって納得すればいいのかと思うような猟奇的な事件がこの頃起きており、何の慰めにもならないかもしれないがこんな犯人らを生かしておくことだけは絶対に許せないと思うことが私の中でも増えてきており、何が何でも死刑は廃止するべきと他人にまで強く主張することはできずにいます。

 こういった理由から、あくまで廃止論者ではあるものの私自身も死刑制度の存続について今も悩んでいるのですがそんな中、ここでいちいち私が言うまでもなく本日また新たな死刑確定囚が生まれました。

和歌山カレー事件 真須美被告の上告棄却 死刑確定(YAHOOニュース)

 詳しく経緯を調べておらずにこんなことを言うのもおこがましいのですが、私はこの事件は有罪にはしても死刑にするべきではないと前々から考えていました。というのもこの事件は犯人の自白もなくまた確たる証拠もない中で状況証拠のみで裁判にて犯罪が認定されており、「疑わしきは罰せず」、「たとえ百人の犯罪者を逃しても一人の無辜の人間を罰するなかれ」の原則を堅持するために、容疑者が過去の経歴から言っても非常に怪しい人物だからとはいえ死刑にはせず、無期懲役刑に止めるべきだと考えていました。もちろん遺族の方の感情を考えれば自分が部外者でありながらどれだけ愚かなことを述べているのかは重々承知ですが、それでも言わずにはおれないというニュースが本日入ってきました。

足利事件、DNA型一致せず 東京高裁再鑑定、再審の公算(47NEWS)

 この事件は発生当時からも捜査に問題があるといわれつつも容疑者であった男性に無期懲役刑が判決された事件ですが、リンクに貼ったニュース内容にこれまでの捜査を根本から覆す証拠が出てきて再審の公算が高まったのですが、仮にこれが本当に冤罪であったとすればこれまで刑務所につなぎおかれたこの男性の人生はどうしてここまでされなければならなかったのかと、激しい同情と共に怒りを覚えます。
 ちょっと蛇足かもしれませんが、前の小沢氏の秘書逮捕事件の際に、「検察が動いたんだから絶対に小沢はクロだろ」という意見を何度か聞きましたが、どうしてそこまで検察に信頼があるのかが私にとっては不思議でした。この事件といい、私は日本の警察や検察はあながち強権で知られる中国を笑ってられないほど問題があると考えており、そんな組織から一般市民を最低限守るためにも、証拠なしで死刑を判決してはならないし、もし冤罪だったとしても後年にまだ再審の出来る終身刑を最高刑にすえるべきだと思います。

12 件のコメント:

  1. フランスの日々: 死刑制度について過去に同じタイトルのエントリを投稿していたみたいです。宗教的バックグランドのところは意見を共有できなかったのですが、結論も考え方もすごく納得できました。

    僕が、エントリを書いたときに、一番納得できる反対意見として、死刑を社会を成り立たせる上の約束事と定義している物でした。この約束事に同意した人だけが社会の恩恵を享受できるとしている点で、死刑制度は社会の成り立ちを根源的に問う難しい問題なんだと思います。下の意見に反論などあれば、聞いてみたいです。

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    『罪と罰、だが償いはどこに?』 中嶋 博行 (著)
    「死刑制度には『私はあなたを殺さないと約束する。もし、この約束に違反してあなたを殺すことがあれば、私自身の命を差し出す』という正義にかなった約束事がある。ところが、死刑を廃止しようとする人々は『私はあなたを殺さないと一応約束する。しかし、この約束に違反してあなたを殺すことがあっても、あなたたちは私を殺さないと約束せよ』と要求しているに等しい。これは実に理不尽である」(P.189)
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  2. 毒物カレー事件のえん罪の可能性がある中での死刑判決はちょっと怖いなと思いますね。こんな記事を見つけましたよ。

    極東ブログ: 毒物カレー事件最高裁判決、雑感

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  3.  この記事は力を入れつつ慎重に書いた記事だったので、コメントが来て素直にうれしいです。

     まず毒物カレー事件の冤罪の可能性についてですが、記事中では冤罪ではとははっきりとは触れず、またその根拠も一切書かずに「死刑はちょっと……」という表現でわざとぼかしました。というのもこの事件での被害者の感情を考えると、捜査関係者や事件を追ったジャーナリストでもない自分がそんなことまで言うべきではないと判断したからです。我ながら、この辺はうまくいったと思います。

     そして死刑制度についてですが、お互い本当に似たようなことを書いてますね。私もSophieさんの意見とほぼ同じですが最後の引用文については、皆平等に死刑になる可能性があるから死刑もあってもいいのだ、という風に解釈しましたが、死刑になるルールというのは時代によって変わることを考えると、やっぱり私は廃止論者、というよりは終身刑論者のままでいたいと思います。

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  4.  いままで死刑制度についての議論をいろいろな番組で観てきました。その際いつも、結論が出なくて終わっているので非常に難しい問題なのだと思います。
     
     終身刑を採用するべきだということを僕も思うのですが、刑務所は現在満員状態みたいですね。しかも、終身刑にすると受刑者が増えていく一方で減りません。なので、刑務所を増設する必要がありそうですね。そのときに土地をどうするかという問題もおきそうです。いっそ、廃校になった校舎とか老人ホームとか防空壕跡とか使っちゃえばいいかもしれませんね。それとか、埋立地を建設するとか。

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  5.  刑務所作るのに一番楽なのといったらやっぱりアルカトラズとばかりに、無人島を使うのだと思います。周囲の住民に気を使う必要もないし、なかなか逃げ出せないんだし。

     最近だと軍艦島が観光スポットとして売り出し始めましたが、これに限らず廃墟が残っている無人島はまだあるのでどんどん活用すべきでしょう。

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  6. 花園さんが死刑に反対する一つ目の理由に対しては私もおおむね同意見です。
    ただ二つ目の理由に「死刑執行者の大きな負担」を挙げているのには理解できません。以下3つほど私の考えを述べます。

    1、何らかの形で死刑執行にかかわるのが嫌ならば、最初からそのような職に就かなければいいのではという点。刑務官になる以上、死刑執行に関わる可能性があるということは事前に知っているはずです。

    2、死刑執行者は別に死刑囚を直接執行するのではなく、極めて間接的に、また心理的負担が軽減されるように配慮がなされていると聞きます。

    3、死刑執行者が自らの職責に関してどのように感じているかを、他人がそこまで考える必要はないと思います。

    4、最後に「死刑執行者の大きな負担」問題に対しては解決法があるという点です。つまり死刑執行に関わるが嫌ならば、その刑務官は死刑執行業務から外れ、死刑執行に関わってもいいよという刑務官が新たに入ればいいということです。つまり刑務官に自己決定権を与えればいいのです。これで万事解決ですよ。

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  7.  匿名さん、コメントありがとうございます。

     まさに言われるとおりで、死刑執行の負担については刑務官当人はそれを実行する可能性のあるその職業を選択することもできれば、その職から離れることも出来ますので自己責任とすることも出来るかもしれません。
     しかし次の記事でも書いているフランスにて死刑執行を代々行ってきたサンソン家が周囲から白眼視されたことや、大多数が行いたがらない仕事を誰かに行わすという死刑に対し、それならば始めから制度としてやらずにいればいいのではというのが私の意見です。もちろん、匿名さんの意見もすごいよく理解できるのですが。

     もし仮に、死刑執行をためらいなく行えるし周囲の意見を全く気にしないこの手のうってつけの人がいるならいるでこの問題は解決するのですが、そんな人間がいたらいたでちょっと恐い気もします。

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