昨日に死刑制度について書いたばかりでSophieさんからもコメントを戴き、ちょっと思い出した面白い話があるのでここで紹介してみようと思います。その話というのも、「死神の名付け親」です。
昔ある夫婦の下に子供が生まれたところ、その父親は公平なことが大好きな父親だったのでこの世で最も平等な人に子供の名前をつけてもらおうと考えました。すると父親の元にまず悪魔が現れて名付け親になろうと申し出たのですが、
「いや、あんたは人によって与える不幸の度合いが違うから平等じゃない」
といって断ったところ、今度は神様が現れて同じように名付け親になろうと申し出たのですがその父親はまたしても、
「いや、あんたは全ての人間に平等に幸福を与えていないじゃないか」
といってまたも断ったところ、今度は死神が現れて名付け親になろうと申し出てきました。すると父親は、
「あんたはどの人間にも平等に死を与える。あんたほどの平等な奴はいないから是非名付け親になってもらおう」
こうして、その子供は死神に名前をもらったそうです。
こんなお話ですが初めて聞いたときはなかなか含蓄の深い話だと思い、書かれている通りに人間は生きてる限りはいつかは必ず死ぬので、死という行為の前では死に至る過程は別とすると確かに皆平等なように私は思えました。
そして実際に、このお話のように死という行為が世界に強烈に平等というものを見せ付けた歴史が過去にありました。何を隠そうそれはフランス革命で、恐らく世界で最も有名なシャルル=アンリ・サンソンの死刑執行です。
詳しくはリンクに貼ったウィキペディアの記事を読んでもらえばわかりますが、フランスでは死刑執行人は世襲によって決められており、このシャルル=アンリ・サンソンはギロチンの音が鳴り響いたあのフランス革命時の執行人でした。
彼の最大の不幸はなんといっても、フランス革命によって自身が強く信奉していたルイ16世の処刑を実行しなくてはならなくなったことでしょう。彼自身は熱心な王党派で国王に対しても並々ならぬ感情を持っていたようなのですが、歴史の皮肉というべきかその敬愛していた国王に対して自らの手でギロチンにかけることとなり、また執行人に対する世間の冷たい視線を感じてか死刑の廃止論者でもあったのですが時は折しも死刑の吹き荒れたフランス革命期で、恐怖政治を行ったロベスピエールによって次々と送られてくる被処刑者をサンソンは手にかけねばなりませんでした。
このサンソンは彼自身の思想と生きた時代ゆえか様々な文物によって取り上げられていますが、私が見た中で絶妙であったのは今も連載中の漫画、「ナポレオン -獅子の時代-」(長谷川哲也)での描かれ方で、国王を処刑してサンソンが後悔の念をにじませるシーンの後、その国王を断頭台に送ったロベスピエールが今度はクーデターを受けて断頭台に送られてきた際に耳元で、
「ロベスピエール、私はあなたを断頭台にかけるのに国王程の憐憫を覚えません」
と囁くと、顎を打ち抜かれていて声が出せないロベスピエールが心中にて、
「ああサンソンよ、私が夢見た世界というのは私と君とルイが同じテーブルを囲んで談笑する世界だったのに」
と、声にならないロベスピエールの言葉とサンソンの執行人として立場が、「平等」という軸を間に見事に対称されて描かれていたのには舌を巻きました。
このサンソンは後世の歴史家から「国王も革命家も皆一緒くたにギロチンにかけた」として、はからずも最初に私が引用したお話のように死の前で人間は平等ということをある意味体現したという評価を受けています。
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