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2009年7月11日土曜日

書籍返本制度の変動について

「返本率4割」打開の一手なるか 中堅出版8社、新販売制「35ブックス」(ITメディアニュース)

 上記のニュースは日本独特の書籍販売制度である「返本制度」に対して、中堅出版社らが連合して制度改正に向けて動き出したことを伝えるニュースです。まず最初に返本制度について解説しますが、日本では出版社が印刷会社などで刷った本を一般の本屋である小売店に販売する際、小売店側が受け取る利益に当たるマージンは低く設定されているものの売れ残った場合には返本すれば仕入れ値と同額が返金されるようになっています。いわば小売店側は仕入れを行うことに対して何のリスクも抱えず、売れそうだと思ったらどんどんと仕入れて売れ残ったらどんどんと返本することで幅広いジャンルの本を店内に並び立てることが出来る、というのがこの返本制度でした。

 しかし近年は出版不況とまで言われるほど本が全く売れないために出版社と本屋は揃って苦境に陥っているいうことで、上記のニュースではこのような出版不況を打開するために書店側のマージンを増やす代わりに返本が利かない販売方法を出版社側は導入しようとしていることを伝えています。
 このニュースに対して私の感想はと言うと、結局どっちの道を選んだところで両者の破滅は必至ではないかというのが正直なところです。それはどういう意味か、下記にてくわしく解説します。

 実はこの返品が利かない販売方法にて出版された本の中で非常に有名な作品がありました。何を隠そう、今度また新しい映画が公開される「ハリー・ポッターシリーズ」の2004年に発売された第四巻、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」です。
 このいわゆるハリポタシリーズの日本語版を出版した静山社はお世辞にも大きな会社ではないため、いくら人気シリーズとはいえ大幅な売り上げを見込んで大量に発注して返本の山を築いた場合には会社の存立が危うくなることが当初から心配されていました。かといって前三巻の日本語版が発売された際は全国の書店で品切れが続出して古本屋でも高値で取引されていたほどで、また印刷数を少なくすればあちこちから文句が来るのも目に見えていました。

 そこでこの出版社は書店のマージンを増やすかわりに返本を受け付けない、仕入れ後の一切の責任は書店側に持たせるという形でこの第四巻を発売しました。結果はというと確かに売り上げは悪くは無かったのですが、前三巻は品切れが続いた事が逆にプレミアを持たせて販売量が時と共に増えていったのに対し、どの書店に行っても並んでいた第四巻の発売当初はそれまでのように爆発的に一挙に売れるとまではいかなかったそうです。
 私がこの事実を知ったのは当時の文芸春秋での記事でしたが、その記事中では図らずもハリー・ポッターが返本制度に一石を投じて今後日本の書籍販売制度は大きく変革されるかもしれないとまとめられていました。

 その記事から五年後、知り合いに聞くと岩波書店などは前から返本を受け付けていなかったそうなのですがようやく他の出版社にも返本制度の廃止がこうして現実味を帯びるようになってきたというのが最初のニュースです。
 確かにこれまで返本制度があるがゆえに売れないであろうと思われる本でも仕入れるだけはタダですからどの本屋も一応並べていたのに対し本当に売れるであろう本だけがこの制度改革によって精選されていくという期待はありますが、その一方で注目されていないが実はいい本が全く本屋に並ばなくなる可能性もあります。そう考えると在庫数で圧倒的な力を持っており、千葉だけでなく今度は大阪にも大きな配送所を作ろうとしているご存知絶好調のアマゾンがより販売を増やすのではないか、というのがこのニュースの私の第一印象でした。

 在庫数に限らず現在どの本屋も苦しめている万引きについてもアマゾンではその恐れも初めから全くなく、弱点とすれば一定額以上の販売におけるアマゾン負担の送料くらいですがその他のコストを既存の本屋と比較するとこんなものなんてごく小さなものです。
 こうした元からあるアマゾンの優位に対し、返本制度を改革したところで出版社と本屋になにか劇的な変動が起こるとはあまり思えません。むしろ先に書いたように売れ筋の本だけしか本屋に並ばなくなって、本屋がアマゾンに対して持っている優位性の一つと思える、「手にとって本を選べる」という行為がなくなる可能性もあってかえって余計に寄り付かなくなるんじゃないかという気すらします。

 そもそもの話、出版不況の根本的な解決方法として私は販売方法をあれこれ考えるよりいい本を作って並べることが第一にして唯一の策だと思います。一例を挙げると佐藤優氏の本はノンフィクションの属していてはっきり言って売れるジャンルの本ではないにもかかわらず、処女作の「国家の罠」は数ヶ月で70万部を越えるベストセラーになりやっぱりいい本はきちんと見てもらえるのだと私は思います。にもかかわらず小手先の改革に力を入れている時点で、私は出版不況と言うのは自業自得な部分も多いのではと言うのがこのニュースの結論でした。

  おまけ
 前ほど読まなくはなりましたが私が一ヶ月の間に読むのは10日発売の文芸春秋に加えて六、七冊程度です。そんな私がよく寄り付く本屋というのはやっぱり思わぬいい本を見やすく置いていてくれているとこで、いくらでかいからと言って並んでいる本がつまらないものばかりの本屋にはあまり行きません。今までで一番ハマったのは京都にいた頃に自宅近くにあった本屋でしたが、そこでは中国関係の本も充実しているだけでなく水木しげる氏の文庫マンガもやけに充実しており、異様にお金をそこで使っていました。

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