去年のリーマンショック以降から不振が続く米国金融業会にもかかわらず、業界最大手のゴールドマンサックスは去年でこそ赤字を計上したものの、今年は現在まで黒字続きで早くも経営陣へのボーナスが大きな目玉となっております。
この報道を受けて私は、いくらゴールドマンサックスとはいえ果たしてこれほど短期で経営を回復させられるのかと文字通りいぶかしんだのですが、案の定というか今月の文芸春秋に掲載された、神谷秀樹氏による「ウォール街、強欲資本主義は死なず」という題の記事を読んでようやく合点がつきました。
この記事によると、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーは一部破綻した米国金融機関の債務整理などを米国政府から請負い、総額で数十億ドル以上の手数料が税金から支払われることとなっていたそうです。いわば政府が彼ら金融機関に対して直接現金を振り込むことで彼らを救済していたというだけで、実態的には経営の改善はまだ未知数だったということです。
またこの債務整理を依頼したときの政府の財務長官はハンク・ポールソンという人物で、何を隠そうこの人物は元ゴールドマンサックスの会長職にあった人物で、今回の救済も身内による決定だったそうです。
それにしても今回の不況を見るにつけ、私は改めて日本の経済は一流も一流だったと思わせられました。というのも今回アメリカで起きたリーマンショックを日本ではなんと91年のバブル崩壊時に起こしており、時代的に言えば20年近くもこの形の不況を先取りしています。日本は制度など様々な点でアメリカに10年遅れていると言われていますが、経済で言えば成長からその転落の過程を比べるにつけ随分と先を走っているように思えます。
実際にこの点についてはアメリカの経済学者らも認めており、失われた十年の間に、「とっとと不良債権を処理すればいいだけの話を、何を日本はもたもたしてるんだ!」とあからさまに批判していたポール・クルーグマンも今回のリーマンショック後は、「不良債権を処理することがこんなにも大変だとは思わなかった。今まで日本の政策を散々批判してたけど、俺ゃ間違ってたよ……」と、素直に自らの非を認めています。
この不良債権処理についての解説は敢えてここではしませんが、クルーグマンの言うとおりに確かに不良債権を処理することが不況から脱する最適の手段だと分かっていながらも、その過程で大量の失業者や社会混乱を生み出す恐れがあるために政策実行者はなかなか一歩を踏み出せないそうです。そんな舵取りが非常に難しい不良債権の処理ですが、「失われた十年」末期の日本において十年はかかると言われたその処理を、たったの二年半で目処を付けてしまった人物がいます。何を隠そう、元総務大臣の竹中平蔵氏です。
彼の行った実績や政策については私が以前に執筆した、「竹中平蔵の功罪~陽編、陰編」にて詳しく記しております。なお最近、この二つの記事への検索ワードが非常に急上昇していて不思議がっています。
はっきり言って、彼が処理した不良債権の量は常識からすればありえない量です。それだけ処理できるほど冷酷と言うべきか、任務に忠実になりきれるというべきか、その政策手腕は他の規制緩和を考慮しなければ一級ものと呼んでいいでしょう。
それだけ政策の裏の裏まで知り尽くし、なおかつ実行までしてしまう実力者となると私は目下のところ竹中氏を越える経済畑の人材はいないと見ております。もちろん今と前とでは状況も違うことから、竹中氏が今出てきたところで何の役にも立たないことも有り得ますが、一切税金をばら撒くことなく景気を浮上させた竹中氏なら今どんな政策を取るのか、個人的に非常に気になります。
また格差を広げたとして竹中政策への批判の槍玉に一番上がってくる人材派遣法についても、時代は変わるもんで下記のようなニュースが書かれる時代となりました。
・トヨタ、期間工の採用再開=1年4カ月ぶり(時事ドットコム)
これはあくまで私の読んだ印象ですが、このニュースではトヨタが期間工を採用再開したことを好意的に報じているように見えます。仮にそうであれば、かつては差別的労働手法と批判されていた自動車業界における期間工も、今のような時代では歓迎されてしまうようです。
実際にこの期間工に限らず、これまで派遣労働で日銭を稼いでいた人たちからすると現在では派遣の仕事もなくなったために日々の生活に困るような自体になっているそうです。
私自身はあくまで現在の派遣法は問題を多く抱えているとは思うものの、これを今すぐに廃止、改正するというのは非常に危険なのではないかと危惧しています。もし現在のような不況下における緊急手段として用いるのであれば、非常に悩ましいところですが認めざるを得ないところも少なからず私の中にはあります。
そうした諸々の理由を考慮した上で、竹中氏の再登板はどんなものかとこのごろ考えます。少なくとも、バラマキ以外の政策を打ち出す人はいないものかといったところでしょうか。
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