2008年8月2日土曜日

竹中平蔵の功罪~陽編~

 内閣改造をたびたび行った小泉元首相が唯一、その任期の最初から最期までそばに置いていた人材というのが、今日紹介する竹中平蔵氏です。
 この竹中氏は日本の格差を広げたとして、任期中においても批判を受けることが多い人物でした。ですが結論から言うと、私はあの時代は竹中氏を必要とした時代であり、この人がいなければ恐らく今以上に日本の経済はどん詰まっていたと思います。そこで今回は竹中氏の功罪として、記事を「陰陽」と分け、誉められる点と非難されるべき点をそれぞれ解説します。さし当たって今回は陽編、誉められる点です。

 森政権から小泉政権に移る際、日本の経済政策は大きな転換が行われました。それはほかならず、公共事業の削減です。それまで「景気刺激策」の名の下に、個人消費を増やすために公共事業、言い方を変えれば「ばら撒き財政」が延々と行われてきました。呆れることに、その公共事業は何の効果も示さなかったにもかかわらず、バブル崩壊から十年近く延々と続けられました。

 それに対して総裁選挙前の時点からNOを言い続けたのが小泉氏です。そして実際に首相につくや経済産業大臣に竹中氏を据えて、公共事業費を年々大幅に削減していきました。結果はというと、公共事業に頼ってきた地方の土建屋などが一挙に身代が傾きましたが、少なくとも明らかに余計な支出であったお金は浮きました。
 この公共事業の削減は確かに地方の格差を広げました。特にこれまで地方の経済は、国の公共事業費→土建屋→地方の飲み屋、というようにお金がばら撒かれていたのが、この流れが一気に途絶えてしまったのですからそりゃ地方にとっては痛手でしょう。しかしこのばら撒きによる経済政策というのは、一時的には景気を浮上させるも長期的に見れば何の効果もないことがすでに経済学では常識です。なのでここで公共事業を減らしたのは、まさに英断だったと私は考えています。

 と、これだけ言うと竹中氏がやったのは公共事業の削減だけとばかりに思われるかもしれませんが、実際に彼が行った政策の中心はこれだけではありません。彼が行った政策は、就任当初に言ったこの政策でした。
「三年以内に、銀行の不良債権を半減化する」
 よく巷では「不良債権」という言葉はよく出回っていますが、今までのところこの言葉の中身をきちんと説明できる友人はあまり周りにいなかったので、ちょっくらここで簡単に説明します。

 銀行は基本、事業者にお金を貸して、事業者はその借りたお金で事業を行ってから利益を出し、利息を乗せて銀行に借りたお金を返します。しかしお金を貸りる事業者というのは、毎回必ずしも利益を出すわけではありません。もし利益を出さず、銀行から借りたお金が一千万だったのに赤字で二百万円にまで目減りした場合はどうなるでしょうか。単純に言って、銀行は一千-二百=八百万円分のお金を損したことになります。こんな事業者にお金を貸した担当の銀行員もこれじゃ上司に怒られちゃいますね。

 これはシャレや冗談じゃなくて、ちょっとこの前まではこうした場合に、銀行はその事業者にまた新たにお金を出資していました。何故かというと、そのまま八百万円を損失額として計上するより、せっかくここまで投資しているのだから何とか事業を続けさせ、利益を出させていつかは貸したお金を返してもらおうとか、単純に問題を先送りにしようと事業の継続に必要なお金を新たに出資することが多かったのです。

 特に当時はバブル崩壊から十年くらいたっているにも関わらず、バブル時代になんの打算もないまま銀行からお金を借りて事業を始めた企業がまだ数多く残っており、貸したお金は返ってこないのに事業継続資金を延々と銀行は貸し続け、ただ銀行の金を食うだけの事業者がたくさんいました。このような出資事業や、バブル時代に一億円だったのに五千万まで目減りした土地などの不動産を不良債権と言います。

 もちろん、こうした金食い虫に対してみんなもいつかはなんとかしないととは思ってはいたものの、日本人お得意の「問題の先送り」によってこうした不良債権はずっと残っていました。すでに説明した通り不良債権を維持するためにもお金は必要で、 言うまでもなく不良債権は銀行の経営を圧迫し、自由に回せるお金が少なくなるために新規の出資希望者に対しても慎重にならざるを得なくなり、いわゆる「貸し渋り」という問題まで起こり始めました。この貸し渋りによって、この時期に頻発したのが「黒字倒産」です。これは事業としては毎年利益を出しているにもかかわらず、一時的に事業の継続資金が足りなくなり、銀行に頼んでも貸し渋られて不渡り(請求されているお金が払えなくなること)を出す羽目となり、会社が倒産していく例のことを指しています。たとえて言うなら、パチンコでせっかくスロットがそろっても、打ち出すパチンコ球がない状態のようなもんです。私はパチンコしたことないけど。

 こうした問題の原因は誰の目にも不良債権にあり、ひいてはこの銀行の信用不安が日本全体の景気を悪化させている主要因でもありました。そこにメスを入れたのがこの竹中氏です。
 当時を知る私の眼からしても、竹中氏の政策は苛烈を極めていました。竹中氏が行った具体的な政策というのは、民間の銀行に対して自己資本比率を上昇させるよう強制させる政策でした。自己資本比率というのは、事業者や他の会社に貸しているお金ではなく、銀行の手元にあって自由に使えるお金が貸しているお金も含めて全体の資金の中で何%なのかという比率だと考えてください。

 竹中氏が行ったやり方はこうです。それまで銀行の自己資本比率に加えていた銀行所有の土地や建物の値段は銀行自身が決めていました。もちろんどこも自己資本比率が高いのに越したことはないので、それらの不動産の査定は高めに設定していたのですが、これを実際の値段に即したもの、簡単に言うと安く見積もらせるようにしました。こんな感じで、それまでと比べて自己資本比率に加えられていた資産を除外、減少させ、銀行の自己資本比率を無理やり下げさせていきました。

 その上でもし、自己資本比率が一定の割合(確か5%だったっけな)を下回った場合、竹中氏はその銀行に対して公的資金を注入することを宣言していました。ただし、その際は銀行の経営陣には全員辞職してもらい、銀行の経営は国が管理するという実質国有化が条件でした。こんな条件、どこの銀行だっていやです。
 こんな感じで、竹中氏は銀行に対して脅迫めいたやり方で、不良債権の処理を銀行に行わせました。

 なぜ不良債権を処理させると自己資本比率が上がるかですが、先ほどの一千万円を貸して二百万円しか残らなくなった事業者の例で言うと、少なくともまだ二百万円は残っています。そこでこの事業者にはこの際会社を倒産させてもらい、残っている二百万円だけでも回収できれば、銀行はそのお金は自己資本として換算できるようになります。こんな感じで竹中氏は銀行を脅迫し、銀行に赤字企業をどんどん倒産させるようにしていきました。

 この点がよく竹中氏へ批判の槍玉として上げられる点で、会社の倒産を増やして失業者を増やしているとか、必死で頑張っている企業を潰させている、貸したお金を苦しくなったら無理やり奪い返させている(貸し剥がし、と当時は言いました)などと、血も涙もないなどとよく批判されました。
 しかしこれはうちの親父が言っていることですが、言ってしまえばそのような赤字企業は事業的にはとっくの昔に倒産している会社で、銀行の出資によって無理やり生きながらえさせているゾンビのような会社で、そのゾンビを生かし続けるために生きている企業、黒字の企業にお金を回さないで殺す(倒産)というのは本末転倒である、という風に言っており、私もこの考えに同感です。

 なお、この前テレビ番組で元経済産業省の官僚だった若手政治家が言っていましたが、やはりこの時期は倒産していく企業家から脅迫めいた電話が何件もかかってきたそうです。それだけ苛烈な政策を竹中氏は採ったわけですが、結果的に銀行は自己資本比率を回復し、安定して資金を提供できるようになり、現在のようにひとまず全体の景気は落ち着いた次第です。

 さらには、銀行は自己資本比率を上げるために、銀行同士で合併を繰り返していきました。合併によってまだ余力のある銀行が他の銀行を吸収したり、経営の合理化を図るようになっていき、あんだけあった民間銀行が今ではメガバンクだと三行しかなくなりました。ちなみに、就任当初に竹中氏は、
「メガバンクは三行あればいい」
 と言っており、見事そのように現実はなりました。お前は孔明かよ。

 さらにさらに言うと、最初に言った不良債権の半減化は実質、就任から二年半で達成されました。就任当初は何度も批判され、相当根に持っていたのかこんなことも言っています。
「民主党は三年でできるはずがないと私を非難しましたが、二年半でできたじゃないですか」(文芸春秋のインタビューにて)
 実際、三年以内にあれだけ膨大だった不良債権が半減化されるなんて誰も信じなかったと思います。しかしこの政策の効果はすさまじく、この政策があったからこそ日本の景気は再浮上できたのだと私は信じており、竹中氏を最も評価する点でもあります。

 長文、お疲れ様でした、書いてる私もへとへとだけど。これ書くのに一時間強かけてるんだよ。

3 件のコメント:

  1. 宇喜多秀家を継ぐ者2008年8月2日 21:26

    今回の記事は特にすばらしい!!
    分かりやすいし、勉強になる。

    現在のアメリカを見れば分かるように、金融機関の経営難がもっとも景気を悪化させる要因である。不良債権なんてもはや死語だよね。竹中さんに感謝感謝。
    まあ、次の記事で散々批判されるんだろうけど。

    いつも見てるよ。今更ながら、よくネタが尽きないもんだ。

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  2.  この記事は我ながら本当によく頑張りました。書き終わった時なんてそのまま気を失ったかのように30分ほど床に突っ伏しましたがその分、非常に竹中財政について事細かにかつ分かりやすく書けた自信はあります。めちゃ長いけど。

     そんな風で毎日長い文章書いているのに、いつも見に来てくれてありがとうございます。今日会ってきた友人なんて、「いつも長いから……」と言って、たまにしか見てくれていないようです。

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  3. この連載面白いですよ↓

    kikulog: 「政治家」竹中平蔵 本当の実力 (文藝春秋)Part1
    http://kikuchi-blogger.blogspot.com/2009/01/part1.html

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コメント、ありがとうございます。今後とも陽月秘話をよろしくお願いします。

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