古いイギリスの言葉で、「Bad news is good news.」というのがあります。これはイギリスの大衆新聞草創期に、確か「Daily tit bits」が売れ始めた頃の宣伝文句だったと思いますが、要するに真面目な政治討論やら論説意見を載せるよりも殺人事件や有名人の不倫といった俗っぽいニュースを新聞に載せた方が部数は伸びるという意味です。
この言葉が言われてからすでに百年以上も経過しておりますが、現代日本のマスメディアも依然としてこの言葉通りの形態を保ち続けております。
現在、日本のマスメディアがそのような殺人や強盗といったいわゆる犯罪事件を取り上げる際、主なニュースソースとなるのは言うまでもなく警察や検察といった捜査機関です。そのため昔から刑事番などといって警察署内に記者を常駐させ、また警察の側も広報を行う際にはそれら記者を一同に呼び集めて記者会見を行うなど、もういきなり結論ですが結構なぁなぁなところが昔からありました。
昨日から今日にかけて出張所の方で日本のマスコミの警察に対する態度について書かれたコメントをいただいたのですが、情報源としてお世話になっている事から警察の不祥事に対して日本のマスコミはやや及び腰なところが数多くあり、それこそ警察内の不祥事、警察親族の犯罪といったことについては事実を知っていながらも報道せず、ひどい場合では警察と一般人の訴訟が起きた際には警察側の言い分しか取り上げないうということまでありました。
卑近な例を一つ挙げると、昨年冤罪が証明されて釈放された菅谷さんの足利事件も、きちんと取材がなされていれば当時のDNA鑑定技術では百人に一人の割合で同じ鑑定結果が出てしまうため証拠として使うには不十分だということがすぐにわかったはずですが、警察側の個人識別に問題がないという発表を鵜呑みにしてマスコミは菅谷さんの冤罪を事件当時は誰も疑わなかったのではないかという気がします。
そんな警察とマスコミの関係ですが、たかだか二十年とそこらしかまだ生きていないもののやっぱり以前と今とでは大分変わり、まだ不十分さは感じるものの適度な距離をマスコミが置くようになってきたと思えます。その適度な距離を置くようになった大きな転換点を私が敢えて上げるとしたら二つあり、もったいぶらずに言うと一つは新潟少女監禁事件、もう一つは北海道警裏金事件だったと思います。
前者は事件の内容自体が事実は小説よりも奇なりと言わざるを得ない事件でしたが、この事件の発覚当初、警察が開いた記者会見にて新潟県警の幹部らが一切姿を見せなかった事に対して記者から質問が集中し、ついには当時新潟県警の視察に訪れていた関東管区警察局長を麻雀接待していたという事実が明るみに出てきました。しかもその接待麻雀では図書券が掛かっているという本来禁止されている賭博麻雀だったなど、法を守るべき警察官が重大事件の記者会見をすっぽかしてまで(報告を受けていながらも接待を続けていた)そのような行為を興じていたことに批判が集中しました。
続いてもう一つの北海道警裏金事件というのは、かねてより神戸新聞と並んで地方新聞の雄と称されていた北海道新聞が綿密な取材を長期に渡って行い続けた事から発覚した事件で詳しくはリンク先のWikipediaの記事を読んでもらえば分かりますが、警察は事件の捜査等に協力した一般人に対して捜査褒賞費という謝礼金を出す事があるのですが、北海道警はこれを逆手にとって実際には協力の事実がないにもかかわらず褒賞費名目の支出で経費を捻出し、道から多額の裏金を引き出すと共に私的流用していたという事件です。
この事件の発覚以降、全国の警察組織で同様の手口が裏金が捻出されていた事が一斉に分かり、公民の教科書に書かれる事はないですが社会的に大きな影響を与えた事件だと私は認識しております。
ただこの事件をスクープしたことから、今ではどうなっているかわかりませんが、その後の警察の記者会見では北海道新聞のみが締め出されるという、道警から露骨な報復を北海道新聞は受ける事となってしまいました。こうなる事は北海道新聞としても報道する前から予想していた事でしょうが、それにもかかわらず取材を続けて報道をした北海道新聞には私は未だに尊敬の念を持っております。
それにしてもちょっと偏った意見かもしれませんが、北海道教職員組合といい、北海道の組織にはどうも頭のたがが外れているところが多いような気がします。
日本は90年代初頭、今ではすっかり死語ですが「水と安全はタダの国」という言葉がありました。こんな言葉が使われるだけあって当時の日本の警察組織への信頼の高さは子供だった私でも感じ取れる位で、当時は本気で日本の治安は世界一だなどと信じてもいました。
しかし上記二つの事件、更に言えば「桶川ストーカー殺人事件」も起こり、警察への国民の信頼は徐々に揺らいでいったように思えます。マスコミもそのような国民の意識を受けてか、現時点でも警察に擦り寄り過ぎだとは思うものの、以前よりは距離を置くようになってきたように見えます。
おまけ
何気に新潟県警の接待麻雀事件において、影の主役だったと私が思える人物として芸能人の蛭子能収氏がおります。というのもこの事件の前に蛭子氏も現金を賭ける賭け麻雀の現行犯で捕まっており、この事件が発覚した当時に新潟県警は、「図書券を商品に使っただけで、賭け麻雀じゃない」と法律違反を否定していましたがその度にこの蛭子氏の例が比較され(本人もテレビに出演して不公平だといっていた)ていたのが強く印象に残っています。
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