リーマンショック前に一次復権したものの今じゃすっかり死語と化してしまった「日本式経営」ですが、私も以前に書いた「失われた十年」の連載にて「日本式経営」と一項目を設けて解説しております。この日本式経営というのは簡単に説明すると高度経済成長期の日本企業の特徴と言うか雇用方針の事を指しており、具体的な特徴をWikipediaから引用すると、「終身雇用」、「年功序列」、「企業別組合」の三本柱で成り立っているとされております。
ただ私はこの三本柱に加えて、あまり表では言われておりませんが日本式経営にはもう一つ、「住宅」という要素も重要な意味を持っていたのではないかと考えており、今日は一つその辺を解説しようと思います。
これまた不況ゆえに今では全く聞こえなくなりましたが、私が子供だった頃は結構あちこちで、「日本人にとってマイホームを特別な意味を持つ」、「外人と比べて、日本人の家に対するこだわりは強い」という言葉がよく叫ばれていました。今じゃマイホームを持つ事自体、減価償却や地震、火災保険といったランニングコスト面で非常にリスキーな世の中である事を考えるとどうにも隔世の感が否めませんが。
そんなマイホームへの強いこだわりがどうして日本式経営と関わってくるのかですが、私があちこちから話を聞いていると高度経済成長時代の日本企業では社員の福祉厚生の名目で社員の住宅購入時に低利で頭金を貸し付けたりする事が多く、企業自体が率先して社員に住宅購入を勧めていたという節があったようです。確かに社員のために住宅購入の援助をするというのは一見すると美談なのですが、さらによくよく話を聞いていると、どうもそうやって住宅を購入した途端に異動、転勤となったという話も同じくらいに聞こえてきて、それらを総合すると企業側は社員を縛る目的を持って住宅購入を勧めていたんじゃないかと思うようになりました。
話のからくりはこうです。
一生に一度の買い物といわれる住宅を購入する際、その金額ゆえに普通の人なら十年以上の期間に渡る長期ローンを組んで購入しますが、一旦ローンを組むと人間守りに入るというか、ちょっとやそっとのことでは収入を減らすような真似、言ってしまえば転職なり退職などといった決断がし辛くなります。
これを企業側の視点から見ると、社員を効率的に働かせるためにはそれこそ異動なり転勤なりといった社員の意にそぐわない命令も時には必要ですが、それがきっかけで社員に逃げられてしまっては元も子もありません。ですが社員に住宅ローンを組ませてしまえばもうこっちのもんで、借金を抱えている負い目につけ込んで異動や転勤といった命令や、サービス残業なども以前より思いのままに申し付ける事が出来るようになります。
このように、会社が社員に住宅購入を援助したり勧めることで社員に長期ローンを組ませ、転職や退職といった考えを持たせないようにする事で会社は社員の会社への依存心を意図的に高めていたのではないかと私は考えているわけです。でもってこの手段が発展していき、社員を会社に縛るだけじゃなくてこの際お金も儲けようとして作られたのが、自動車メーカートヨタの子会社であるトヨタホームだったんじゃないかと私は見ています。
以前に愛知県の人から話を聞いた事がありますが、トヨタという会社は社員に対して熱心に住宅を購入するよう勧めてその購入費の援助も半端じゃなく、その甲斐あってトヨタ社員の持ち家率は非常に高いそうです。まぁ考えようによってはうまいやり方だけど。
こんな風に考えてみると、私が子供だった頃に盛んに叫ばれていたマイホームを持つ価値というのは社員をなるべく会社に縛り付けて起きたいという企業側が作った風潮だったのではないかと思います。今じゃ日本企業は逆に社員にあまり長々と居着いてもらいたくなくなっており、こうした住宅購入援助も心なしか以前よりはなくなってきているように見えます。
結論をまとめると、日本式経営における「終身雇用」を成立させる一つの条件として、住宅購入による長期ローンというのがあったのではないかということです。かなり久々に経済関係の記事を書いた気がする。
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