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2011年1月2日日曜日

メキシコ麻薬戦争について

 決してこの方面に知識があるとは言い切れませんが、日本であまり大きく報道されていないことを考慮して紹介をしておこうと思います。

 日本で麻薬事件というとここ数年で起きている著名な芸能人への取り締まり事件が真っ先に思い浮かぶかと思いますが、現実問題として日本はそういった一部の人間が使用こそしているものの麻薬全体の流通量は少なく、取り締まり状況においても他国と比較しても悪くはない環境です。しかしその目を国外に向けると、マリファナなどに限り使用を合法化しているオランダやイギリスを除くとその弊害は凄まじく、現在私が在住している中国でも南部を中心に汚染が広がっている状態です。それゆえに中国では麻薬の使用のみならず所持だけでも死刑になるというほど厳罰で臨んでいますが、その広がりに歯止めをかけるには未だ到れておりません。

 そんな麻薬の取り締まりにおいて、現在最も大きな抗争とともに悲劇が繰り広げられているのがメキシコです。メキシコと聞くと私くらいの世代ならポンチョ来たおっさんが陽気にギターを弾きながら「ドンタコス」って言うシーンをイメージするかもしれませんが、以前ならいざ知らず現在のメキシコは治安が大いに悪化し、そのような牧歌的なイメージは薄れてきていると言われております。

 一体何故それほどまでに治安が悪化したのかというと原因はすべて麻薬にあります。2006年に就任したフェリペ・カルデロン現職メキシコ大統領は就任するや麻薬を取り扱うマフィアとの全面抗争を宣言し、この方面への取締りを全国で強化しました。日本で麻薬の取締りというと吸引者や密売人の摘発、もしくは空港での手荷物チェックや暴力団へのがさ入れなどが主に行われるのでしょうが、メキシコの場合はマフィア映画さながらに本来取り締まるべき警察官などもマフィアと利益供与していることが多く、またマフィア自体が多くの構成員を擁するとともに多くの非合法な武器を所持しているために軍隊に近く、それゆえにカルデロン大統領による取り締まりは「麻薬戦争」と呼ばれることになりました。

 現実に、事態は犯罪を通り越して内戦のような状態に到りました。
 取締りが始まってすでに四年が経ちますが、この間に政府側、マフィア側双方の取り締まりに関わる死者は三万人を超えており、マフィアの首領や自治体首長など要人の暗殺も頻繁に起こっています。またカルデロン大統領自身にも暗殺計画が企図されていたことが発覚するなど、どちらかが完全にくたばるまで終結の見通しが立たないほど事態は泥沼の様相をなしています。

 私は在学中、大学の講師に戦争というものは鳥瞰的にではなく匍匐的に見よと何度も教えられました。このメキシコ麻薬戦争についても字面では犠牲者を三万人と書かれていますが、その一人一人の犠牲者についてつぶさに見てみると目を覆いたくなるような事実に溢れております。

 マフィアとの抗争の激しい地域では警察官はおろか知事などもマフィアに協力しているところも多く、なまじっか中央から取り締まりのために新たな捜査官が派遣されたり取締り推進派の人物が新たな知事が就任するや暗殺されることも多いそうです。特に警察官の犠牲については数限りなく、先日も22人いた同僚が皆すべて殺されたにもかかわらずただ一人で活動していた女性警官が誘拐される事件が起こりました。誘拐と文字で書けばただ二文字ですが、その後の運命は他の犠牲者の末路を見るにつけ推して知るべしです。マフィアという組織だけに大抵はその後任への脅迫が伴うため、遺体には凄惨な拷問の痕が残され、切断された状態で各所へ送りつけられていると聞きます。
 犠牲者は本当に女性や子供を問わず、また加害者も女性や子供を問わないとされ、14才にも関わらずマフィアの指示の元に殺人、遺体処理を行っていた少年が逮捕される事件もこの前に起こっています。

 麻薬吸引は犯罪だが、周りに迷惑さえかけなければ逮捕される可能性を含めて自己責任で吸いたい奴が勝手に吸えばいいという言葉をたまに聞きます。吸わないし興味のない人間からすれば確かにそのような感想を持つのも不思議ではありませんが、その誰かが吸っている麻薬の入手経路でどこかのマフィアが利殖を稼ぎ、このような非道を行う源泉となっていることを考えると果たしてそれでいいのかという疑問がもたげます。そういう意味で私は麻薬を吸わない人も興味を持たない人もこの麻薬問題に対して無関心でいるのではなく、特別に何かをする必要まではありませんが麻薬とその常習者を憎み、社会的な防圧を作る一石となるべきではないかと考えるわけです。
 麻薬を悪だというのは簡単です。本当に憎悪するには国内にとどまらず国外の事実に目を向ける必要があるでしょう。

 最後にメキシコの麻薬事情についてもう少し述べると、麻薬以外にほかに生産手段の乏しい南米諸国が一大消費地であるアメリカへ輸出する過程でマフィアが発達していったと言われています。それゆえに今のメキシコの麻薬問題の主犯はアメリカだ、むしろアメリカがマフィアを応援しているなどという話も聞きますが、その一方で近年はカルデロン大統領を支援するアメリカ要人もおり、クリントン国務長官などはメキシコを訪問するなど取締りを応援しているそうです。

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