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2024年12月25日水曜日

書評:対馬の海に沈む

対馬の海に沈む(集英社新書)

 以前からネットで書評を読んで気になっていましたが、今週買って一気に読み終えました。「あーあ、退屈」なんて一昔前のケータイ小説の冒頭みたいなセリフを口にする人がいたら、絶対買うことをおすすめします。それくらいヤバいくらい面白い本でした。

 簡単に概要を述べると、この本はノンフィクションである対馬の事件を追ったものです。その事件とは、JAの保険ことJA共済の契約件数でほぼ毎年全国ナンバーワンの実績を持つ職員が突如自殺したのですが、その死の直前から彼には不正の疑いがもたれており、死後の調査でなんと22億円もの横領が発覚しました。この職員の不正の手口もさることながら、何故彼は不正に手を染め、また長年にわたり発覚しなかったのかを作者の窪田新之助氏が追った内容となっています。

 上記の全国ナンバーワンな保険外交員の自殺とその不正内容、特に22億円という先の三菱UFJの貸金庫事件の10億円を超える金額規模に対する関心もさることながら、この本に私が興味を持ったのが舞台が対馬だったというのも大きいです。以前のブログにも書いていますが私も以前に対馬を訪れたことがあり、その甲斐あってかこの本に出てくる「厳原(いづはら)」などの地名も一発で読めたりして、いくらか土地勘があって余計に楽しめました。

 なお本にも書かれてましたが、作者の窪田氏が初めて対馬に降り立って取材をしたのは2022年の11月だったそうで、まさにこの月に自分も対馬を訪れていただけに、その偶然には驚きました。もしかしたら対馬ですれ違っていたかもしれず、勝手ながら「けものフレンズ」ならぬ「つしまフレンズ」に窪田氏を心の中で認定しています(´・ω・)

 話を戻しますが、この本を読む前に私はいくつかの疑問を持っていました。箇条書きにすると以下の通りです。

・何故自殺した職員は人口の限られた対馬で契約件数全国トップになれたのか
・何故被害規模が22億円になるまで不正は発覚しなかったのか
・何故長年発覚しなかった不正が自殺直前に表沙汰となったのか
・JAの内部統制体制はどうなっているのか

 以上の疑問について、この本ではすべて辻褄の合う解答を導き出しています。それもこれも窪田氏の非常に熱心な取材の賜物と言ってよく、関係者、それこそ職員の親族から彼の共犯者、そして彼をかつて内部後発した者に至るまで、ありとあらゆる関係者とコンタクトを取って貴重な証言を得ています。
 特に共犯者と疑われる人物に対しては、それとなく職員についての話を聞きながら、「でも、不正のおこぼれに預かっていたんじゃないですか?」的に核心に迫る踏み込んだ質問を投げかける場面などは、下手な推理小説よりもずっとドキドキするシーンでした。なお大抵の取材相手はこの踏み込んだ質問をするや態度を翻し、時には怒って追い返すこともあったそうですが、焦りからか咄嗟に聞いてもいない不正の手口を口にした点などを、く窪田氏は抜け目な掴んでいたりします。

 またそうした関係者の反応もさることながら、事件の全体像もすごいというか、その醜悪ぶりには目を見張るものがあります。元々、JAという組織自体がかなり問題を抱えた組織であると私も耳にしていましたが、その金融事業のノルマといい、この事件に対し実質的に隠蔽工作を図っていた点などを見て、とっとと金融事業を取り潰した方がいいのではないかと思うようになってきました。
 ただそれ以上に、作者も「途中で何度も嘔吐感を覚えた」と言わしめる、自殺した職員の周辺関係者の態度には自分も強い嫌悪感を覚えました。ネタバレになるのであまり言えませんが、職員とグルになって相当甘い汁を吸ったにもかかわらず、自殺後は何食わぬ顔で無関係を装い、あらゆる処分から免れている人間がJA内外で相当多数存在することが示唆されています。

 特にこの本の最後の場面で、かつて職員を内部告発したものの返り討ちに遭い、閑職にも飛ばされた人物こそが、職員の死後にその家族らを案じて最も親身に接していたという事実はいろんな感情がこみ上げてきます。

 これまでもノンフィクション本は色々読んでいますが、それらの中でもこの「対馬の海に沈む」はぶっちぎりに面白く、今年読んだ本の中では間違いなく最高の一冊でした。多少ほめ過ぎという気もしますがそれだけほぼ完ぺきな取材に裏打ちされた内容であり、興味がある方はガチでお勧めします。
 なおこの記事を書く直前に自分のメールアドレスに送られて来たスパムメールが、「JAネットバック」を騙るメールだったのがなかなかに因果なものでした。

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