昔、どこかの本でこのような一説を読んだ事があります。
「日本にとって世界大戦と言ったら二次大戦しかないが、ヨーロッパ諸国にとっては一次大戦が与えた影響は二次大戦より遥かに大きかった。それまでヨーロッパ諸国は高度な文明社会であればあるほど高度な社会思想を持つとされ、戦争においても文明国ではルールに則った形で行われ無秩序な虐殺など起こるはずがないと考えていたが、そんなヨーロッパ人の概念を一次大戦は見事に粉砕した」
この一説のいう通り、日本は一次大戦では火事場泥棒的に東アジアのドイツ領土を攻撃しただけでしたが、ヨーロッパの戦線ではいつ終わる事ない塹壕戦が延々と続いたばかりか毒ガスの使用や空中爆撃、戦車の登場といったそれまでにない戦術が次々と作られては実行されていきました。
そんなヨーロッパにおける一次大戦ですが、先ほどの一説に続く形でちょっと気になる文言が付け加えられていました。その文言というのも、
「ヨーロッパにおける一次大戦の死者数は、二次大戦より多かった」
最初見た時はそんな馬鹿なと思いつつも、国土が実際に戦場になったドイツやフランス、そして戦争に深々と介入していたイギリスといった西ヨーロッパ諸国ならさもありなんかなと、読んだ当時は思っていました。
先日にこの話を友人にして以来、今日に至るまで何気に本当の所はどんなものかとちょっと気になっていました。そうとなればそれほど調べるのに時間の掛かるデータでもないので実際に比較して見ようと思い、この二度の大戦における各国の死者数を一つ調べて見てみることにしました。結果は下記の通りで、早速ご覧下さい。
国別世界大戦死者数(民間人犠牲者含む)
・イギリス 一次:91万人>二次:40万人
・フランス 一次:136万人>二次:34万人
・ドイツ 一次:177万人<二次:550万人
・ロシア 一次:170万人<二次:2000万人?(ソ連)
・イタリア 一次:65万人<二次:68万人
・アメリカ 一次:13万人<二次:40万人
・日本 一次:300人?<二次:310万人
まず最初に断りを入れておくと、一次大戦の死者数についてはどこも「ブリタニカ国際大百科事典」から引用しているのかほとんど同じ数字なのですが、二次大戦についてはナイーブさをはらむが故かネットで閲覧するサイトごとに死者数が異なっており、数字と統計にシビアなヨーロッパ諸国ならまだしも、数字に感情という(誇張ともいう)物をやけに詰め込みたがるアジア諸国についてはいい加減にしろと言いたくなるくらい大きく違っています。
幾つか例を挙げると、日本の死者数については上記に引用している厚生省の調査による310万人に対して、「ブリタニカ国際大百貨辞典」では197万人とされております。中国に至っては1000万から2000万と実に二倍もの差があり、はっきり言って論外としか言いようがない数字の差です。
そう言うわけで一時大戦の死者数にはWikipediaから、二次大戦の死者数については幾つか見ている中でまだまともそうな数字でなおかつサイトにあまり臭いがない「ひとりごとのつまったかみぶくろ」様の「第二次世界大戦等の戦争犠牲者数」の記事にて載せられているワールドアルマナックからのデータを引用しました。
さて早速データを比較して見ると、私の予想通りに西ヨーロッパではイギリスとフランスが一次大戦の死者数が二次大戦のそれを大きく上回っております。それに比べると日本の死者数は比較にならないほど少なく、この辺が今度書くつもりでいるロンドン海軍軍縮条約における英米側と日本側の反応の違いを生んだ事は間違いないでしょう。
幾つかこのデータについて解説を加えておくと、二次大戦におけるソ連は文字通り敵の弾が尽きるまで死体を積み上げるという作戦を強行し、なんでも1920年から1922年生まれのソ連出身男性の戦後の生存率は3%くらいだったそうで、ほぼ例外なく全員勲章を受けているそうです。死者2000万人というとてつもない数字がどれだけ正確かは測りかねますが、二次大戦において最も死者を出した国という意味では信用に足ると思います。
最後に、今回調べていてちょっと意外というか、自分が見逃していたとちょっとしょげるデータが一つありました。そのデータというのも、これです。
ポーランド:二次:600万人
二次大戦期におけるポーランドの虐殺というと侵攻してきたソ連によって士官ら二万人以上が虐殺された「カティンの森事件」ばかりかと思っていましたが、よくよく考え直すとアウシュビッツを初めとしたドイツによるユダヤ人収容所もポーランドに沢山ありました。実際に上記死者数の大半は民間人ことポーランド在住のユダヤ人だったそうで、これだけの人数を虐殺したドイツに対してポーランド人はロシアみたいに恨みに思わないのかと疑問に思ったわけですが、あくまでざらっとネットで調べた程度ですが、このポーランド国内におけるユダヤ人虐殺にポーランド人も一部加担していたという意見もあり、だとすればポーランドのロシアとドイツに対する態度が異なるのもなんだか納得がいきます。
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