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2023年5月31日水曜日

長野立てこもり事件と山口県連続放火事件に感じた共通点

 このところのワイドショーで主役と言えるニュースとくれば、岸田首相の評判よくなかった息子の秘書辞職と、長野県中野市で先日起きた警察官二人を含む四人殺人事件でしょう。わずか短時間の間に4人も死者が出て、またその凶器には猟銃が使われた上に犯人が立てこもるというショッキングな内容から、犯人を検挙した後も動機などを巡り今も活発に報じられています。
 事件発生から日数も経ってだんだんと犯人同期についても捜査情報からか報じられるようになってきていますが、殺害された地元住人二人が精神病を発症していたと思われる犯人の家の近くを散歩して談笑することがあり、その声が自分を馬鹿にしているように感じたからなどという説が出ています。真偽は分かりかねるものの、仮に実際に馬鹿にする言葉があったとしても殺害していい理由にはならないだけに卑劣な犯行であることに間違いないですが、この犯人が語ったとされる動機を聞いて真っ先に思い出したのが「つけびの村事件」こと山口県連続放火殺人事件でした。


 上のリンクはその事件を負ったノンフィクション本に対する私のレビュー記事ですが、端的に書くと、この事件の犯人も今回の長野県の犯人と同じような動機を持っていた可能性が高いとみられます。上記の本の作者が現地で取材したところ、近くの住人が生協で一括購入した商品を村の住人に分配していた場所が犯人の家近くにあったそうです。ほぼ毎週行われる分配時に住人同士で談笑する声を、ほぼ確実に精神病を発症していた犯人が「自分を馬鹿にしている」と妄想し、主に談笑していた住人を狙った可能性があると本ではまとめられています。

 多分人によりけりかもしれませんが、長野事件といい山口の事件といい、なんてことのない外から聞こえてくる声に思い悩むというのは十分ありうるのではないかと私は思います。自分も精神的にかなり参ってたときなんかは外から聞こえてくる声に結構負い目を感じたというか、率直に言ってストレスを感じたことがあります。もちろん正常な状態ならそんなことないし、中国なら日常茶飯事的なおばさんの応援合戦みたいな大声も今じゃ気にならないものの、若干精神が病みがちな時というのは何気ない声が結構胸に来たりします。
 ましてや、長野の事件はこれからの鑑定待ちでしょうが、山口の事件に関しては犯人は事件当時、精神病を発症していたことがほぼ断定されています。そうした精神病を抱えた人間からすると、本当に些細なことをきっかけに大きな殺傷事件を引き起こす可能性があるのをひしひしと感じます。

 そういう意味では、今回の事件に関して一部犯行の凶器が猟銃であったことから猟銃許可について議論する声も見られますが、論点はやはりそこじゃない気がします。本当に論ずるべきは「精神病になっている人はごく身近に溢れている」という点で、こうした精神病キャリアをすぐ見つけ、治療することこそこうした事件を防ぐ上では重要な一手になるのではないかという気がします。

 一部報道では、事件前に犯人の両親らが心配して犯人に精神科の受診を勧めたものの本人が拒否したという内容が書かれてありました。こちらも本当であるかはわかりませんが、仮にその通りだとしたら正しい対応に動いていた両親の無念を考えると強い同情の念を覚えずにはいられません。

 その上で、田んぼの持ち主にカエルの声をどうにかしろと抗議する人がいるという報道がこの前ありましたが、自分は診療関係者ではないものの、この抗議をした人も多分精神を病んでいるなとはっきり言って思います。っていうか日本では診断されていないだけで、鬱を含め何らかの精神疾患を抱えている人が潜在的にかなり多い気がします。
 具体的な率で言うと、日本人の3割くらいは精神疾患キャリアだと私は思います。この辺についてはまた次回にでも詳しく書いていくこととします。

2023年3月29日水曜日

書評:つけびの村 ~山口連続殺人放火事件を追う~

 なんかまたノンフィクションの本が読みたくなって、文庫版が出たとのことなので見出しにある「つけびの村 ~山口連続殺人放火事件を追う~」を読みました。それにしても電子書籍なのに文庫版とするのは内心如何なものかなと思え、普通に廉価版、またはゲームみたく「ベスト版」でいいんじゃないかなという気がします。

 この本は2013年に起きた山口連続殺人放火事件を追ったもので、特に事件が発生した金峰郷地区という集落での取材が中心となっています。一晩で5人が殺傷された上に放火も行われるという事件性から発生当時は大きく話題となったのですが、ほかの事件と比べると私の感覚ではやや風化が早かった気がします。何故風化したのかというと一つの理由として、捕まった犯人が精神病と思われる症状を明確に発症しており、そうした方面への報道懸念からトーンダウンしたのではないかと思います。
 なお裁判では精神鑑定での妄想症を発症していることは認められつつも、完全責任能力は有すると判断され既に死刑が確定されています。

 本の内容に戻るとこの事件は当初、人口の少ない集落で起きた事件から田舎特有の濃密な人間関係から起こった怨恨、具体的には村八分などが原因ではないかと指摘され、その指摘を補強するように犯人は集落内の人物から農機具を燃やされたりなど嫌がらせを受けていたという報道がなされていました。そのあたりの報道は現在も事件のWikipediaに書かれていますが、この本の作者である高橋ユキ氏によると、これらの嫌がらせがあったという報道は「ちょっと怪しい」とのことです。
 確かに集落内では人間関係が濃密であったものの、具体的に犯人にそのような嫌がらせが行われていたという事実に関しては誰からも確認できず、反対に、事件の被害者宅が放火されるという事件が過去にあったようです。本当のところは完全には証明できないものの、やや怪しい情報が飛び交っていたという主張がなされています。

 その一方、犯人を含む集落内の人物には人間関係が非常に濃密であったことは間違いなく、その濃密性からか、集落内では噂話が非常に絶えなかったという風に書かれていました。犯人に限らず「あの人はこうだった」、「昔ああだった」などと互いにあれこれ細かい情報を口にし、こうした集落居住者同士の噂話を犯人が「馬鹿にされている」などと、妄想症ゆえに誤解したことが事件の遠因ではないかという風にまとめられていました。
 なおその犯人に関してはあまり集落内で共同で行う草刈りなどに参加しなかったことから、ほかの居住者の間ではあまり評判は良くなかったそうです。また犯人の父親に関しては誰もが口を揃えて「泥棒だった」と話しており、犯人に対してもこうしたネガティブな噂話が本人の耳に入っていたのではないかという風にも分析されています。

 さすがにこの前に読んだ「デス・ゾーン」ほどは面白くなかったものの、個人的に興味のあった事件だったので読んでる間は楽しく読ませてもらいました。ただ上記の集落に関する記述よりも、犯人に関する記述の方が興味深いものがありました。
 作者は死刑確定前の犯人と幾度か手紙を交わし、直接の面会も行っています。そのやり取りの中で犯人はしつこく「靴跡が異なる」と主張し、証拠は警察が捏造したもので自分は冤罪だと主張していたそうです。手紙の中では靴底の絵をかいて比較してきて、体重がかかって削れる箇所が異なるなど、非常に細かい主張を繰り返してしたそうです。こうした主張などについて作者は、精神鑑定通りに妄想症によるもので、本人は本当に冤罪だと信じ込んでいるが犯人であることに間違いないという風に描いています。

 自分が興味を持ったのまさにこのあたりの箇所で、こうした明らかに精神病である犯人に死刑が下りたことついて筆者は、同じように精神病を発症した犯人に刑罰を適用するかにおいて、事件ごとに差があるということを指摘していました。実際の過去の事件を取り上げつつ、事件後の精神鑑定、または事件前の通院歴などから精神病の発症が指摘されつつも、この事件の犯人のように死刑が下りた場合もあれば、刑法規定に則り無罪となったケースもあるなど、基準が非常にあいまいだという問題提起をしています。この問題提起については自分も深くうなずく点があります。

 敢えて私見で述べると精神病発症者で有罪となるかは、現状では事件の重大性が非常に大きく左右しているように見えます。この事件のように複数人を殺傷した場合は明らかに精神病者であっても死刑が下されることが多いです(熊谷連続殺人事件のような例外もあり)。一方、殺害にまで至らず誰かに重傷を負わせた事件であれば、心神耗弱が認められて無罪となるケースが多いように見えます。
 ただどちらにしても基準が非常にあいまいで、この点についてどこかで明確な基準を設けるようにした方がいいのではないかと私も覚えます。もっとも、いくら精神病者とはいえ殺人を行ったことのある人物が基準を適用して無罪となった場合、そのまま市井に放っていいのかという問題がまた出てきます。正直言うと私もあまりそうなってほしくないと思うだけに、何らかの行動制限措置は必要ではないかと思うのですが。

 そこで再び山口の事件に戻ると、取材の最後で作者は精神科医に犯人について所見を尋ねているのですが、事件を起こすずっと以前、具体的には東京近郊から山口県の集落にUターンしてきた時点で犯人は何らかの精神障害を負っていたのでは、という精神科医の証言がなかなか衝撃的でした。
 それまで作者も故郷に戻ったはいいけど両親もその後なくなり、収入も途絶え、噂話が多い集落の環境から徐々に犯人は精神を病んだと考えていたそうですが、実際にUターンに至った背景なり原因があったのではと思うようになったそうです。私自身もなんとなくそうなのではないかと思う節があるのと、こうした精神病発症者による事件というのは、事件発生直前に精神を病んだわけではなく、長い時間をかけて徐々に悪化させて事件に至るというケースが多いのではないかという風に思えてきました。

 この辺また別に記事を書く予定ですが、やはり中国で暮らしていると、日本国内で歩いている人はなんか精神病んだような顔の人が多いなと、はっきり感じます。この事件の犯人ほど極端でなくても、軽度の精神的病や疾患を潜在的に抱えている人は想像以上に多いのではないかと思え、そうした精神に対するケアが結果的に犯罪の抑止、さらには社会のムードに大きく影響するのではないかと今考えつつあります。
 そこまで考えてちょうどこの前精神科医になった友人がいるから、そいつにでもこの件で話を聞いてみようかと思ったものの、精神科医ながら日常会話すらまともにできないくらい論理能力が欠如した友人なので「聞くだけ無駄か(´・ω・)」とすぐやめることにしました。マジであいつ、診療とかでトラブル起こさないか人知れず心配してます。性格はすごくいいんだけどなぁ。