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2016年6月28日火曜日

何故マスコミは横柄で無知なのか?

 先日友人から、なんかどっかから取材でも受けたのか、「なんでマスコミってあんなに無礼で無知なんですかね」という言葉と共にこのテーマで一本書いてというリクエストを受けました。知ってる人には早いですが私は一時期上海のとある新聞社で経済記者として勤務した経験があるだけにこの手の話についても裏側を書くことが可能で、テーマも悪くないしいい機会なのでマスコミというかジャーナリストにどういう人間が多いかを今日は紹介します。

<何故横柄なのか?>
 つい最近の話ですが、周りからどんな人間がマスコミに向いているかと聞かれた際に私は、「一緒に横歩いている友人を突然どぶに蹴落として指さしながら大笑いする人間」だと答えました。これは決して受け狙いではなく真面目にこの手のタイプの人間ほどマスコミ業界が向いており、逆を言えばマスコミ業界でやってこうならこれに近い事を平気でやれるようにならないと身が持たないと断言できます。一言でいえば、他人の痛みを全く気にせず傷を抉ってこれるようなサイコパスな人間ほど向いているというわけです。

 友人の言う通り、マスコミ業界には横柄で無礼な人間は明らか且つ確かに多いです。一体何故多いのかというとそういう業界だからと言ってしまえば終わっちゃうので真面目に話すと、よくネット上では、「自分たちが世の中を動かす特権階級だと自惚れている」という意見を見ますが、テレビ局員はわかりませんが新聞社の人間はそうでもないかなと言うのが私の見解です。
 では何故新聞社の記者らは横柄なのかと言うと、一番大きな理由としては取材に当たってはぶしつけな態度が必要且つ求められるからです。基本記者と言うのは取材相手の隠しごとを暴いてナンボなところがあり、企業だったら不正情報、芸能人ならスキャンダルなどと当人が暴かれたくない情報こそ拾ってくる価値があります。なので遠慮がちな態度ではなく不必要なまで強気に聞きだす態度が求められ、実際に周りの同僚や上司もそうした物を求めてくる上にそうするほど評価もするので働いていると自然と無礼になってくるわけです。

 こう書くと如何にも人の秘密ばかり暴いて嫌な奴に見えるかもしれませんが、取材においてはそうした態度と言うか割り切りが必要となることも少なくないとここで弁護しておきます。たとえば私の元上司は、「交通事故で死んだ小学生の子供の写真を親に出してくれと言う時は辛かった」と以前に話してくれたことがありました。普段何気なく目にする事件被害者や加害者の写真は現場記者らのこうした罵声を浴びせられるような活動を通して報じられており、良心を犠牲にするというか感じなくさせる必要もあるということも私個人としてはいくらか理解してもらいたいです。

 話は戻りますがこうした取材に当たる心構えともう一つ、基本的にマスコミ業界の人間は集団ではなく個人として働くことから性格が横柄になるということも大きい気がします。チームを組んで取材や執筆することもなくはないですが基本的に記者の仕事は自分で取材して自分で書くのが普通で、なおかつその実力や評価も個人単位でなされます。そのためほかの業種と比べてマスコミ業界は個人主義的な傾向が強く、協調性とか貢献意識とかよりも特ダネ取ってきたり大量に素早く記事書けるような体力の方がずっと尊重されるため自然と我が強くなる、というよりも我が強くないと持たない業界だったりします。
 この辺は私自身が強く実感した所で、私のように商社やメーカーを経験して記者になった人間からするとマスコミ一本で働き続けてきた人らは本当に周りなんて知ったこっちゃないっていう人間ばかりに見え、文字通りに次元が違う世界だとよく感じていました。特にそう感じた点として日本のサラリーマンは社内で誰がどこそこの派閥に属しているかなどという派閥論議を好みますが、大手新聞社は知らないけど私のいた新聞社ではそうした議論はあまり聞こえず、上司にそういったところ、「俺も若い頃、大学の同期と就職してから会ったらあいつらはずっとは派閥の話ばかりしてて、同じ違和感を持った」と言われました。

 なおよく同僚とも言い合いましたが、記者というのは周りはみんな頭のおかしい奴らだと思いながら、自分が最もまともだと信じて疑いません。今こう書いている自分ですらそう思っていましたし。ついでに言葉遣いについては前に書いたように、「(取材で)追い込みが足りねぇんだよこのクソボケ!」 などと、ヤクザ事務所みたいな言葉がリアルに飛び交っています。

<何故無知なのか?>
 記者が何故横柄かという理由については上記の様に仕事上の必要性、並びにそうした人間しか残れないし求められるという土壌が大きいと見ており、基本的に事実で間違いないと言えます。では何故無知なのかについてですが、自戒を込めて言うと実際無知でアホばっかです。
 たとえば経済部で言えば業界専門紙なんかだとさすがに専門とする領域において相応の知識が求められるだけに記者も勉強していますが、総合経済紙だと記者ごとに専門分野持たせようったってコマが足りず、結局各記者がのべつまくなしにどの業界に対しても大した知識を持たないまま書かざるを得なくなります。

 私もこの例に洩れず、今だから言えますが「ホットコイルはトン当たり~元、コールドコイルは同~元」などと毎月鉄鋼の出荷価格を書きながら、「そもそもホットコイル、コールドコイルってなんやねん」と思ってて、ずっとその意味を知らずに書き続けていました(今はわかる)。金融に至ってはもうほんとに専門用語に踊らされるというか何がどう意味するのかほとんど把握しないままそれとなく過去記事やよその記事を参考にしつつ体裁だけ整えてよく書いて出してたものです。
 もっとも、これは大手紙なども基本一緒です。よく見ればわかりますが明らかに単語の意味を理解しないまま書かれている記事が金融系を中心に多く、政治記事でも政策内容に関する説明が少ないというか避けているような書き方がされていればその記事を書いた記者は確実にわかっていないと判断していいでしょう。政策金利についてすらふわふわした感じで書く記者もいるし。

 よく記者というのはエリートで何でも知っていると思われがちですが実際はそうでもなく、下手したらほかの業界を経験せず知らないもんだから世間知らずな人も少なくありません。ちょっと古い話を持ちだすと東日本大震災の折に、「自動車部品のサプライチェーンが海外企業へ移っていくかもしれない」などと当時多くの記事で書かれましたが、自動車業界を知る人間からしたら品質管理上それは有りえないってことは誰でもわかっちゃいます。ついでに書くと、「クロスオーバーSUV」って単語を使う記者は間違いなく素人で、理由を明かすとクロスオーバーじゃないSUVなんてほとんど存在しないからです。

 ただこの点についても弁護というか言い訳をすると、逆に専門的になりすぎると読み手も読んでて意味がわからなくなる恐れがあります。私自身もそうしたスタンスからあまりにも専門的過ぎる内容については敢えて触れずに小さく記事をまとめて書いてたりしましたが、勉強するに越したことはないものの、この辺はバランスも重要です。

 そういいながらでありますが最近日本の記事を読んでて、「日本のマスコミのレベル落ちてるんとちゃう?」と思うことが増えています。どこかとは言いませんが、「シャープ首脳、同業他社に流出」という記事見出しを一見して、「首脳という言葉を産業界で使うか?」と思うと共に何故この記事が出稿される前に誰かチェックして止めなかったのか強く疑問に感じました。なおほかの媒体はきちんと、「シャープ幹部」と表現していました。

 なんか尻切れトンボみたいな感じですが、友人の言う通りに基本マスコミは横柄で無知で間違いありません。態度の優しい記者もいないことありませんがそういう記者はまずもって出世しません。でもって勉強する記者、科学部記者なんかはマジすごいほど勉強している人多いですが、やっぱりこの手の記者は少数でどっちかっていうと体力の方が礼賛される業界のため、みんながみんな賢いわけではなくサイコパスばかりです。

 最後にどうでもいいですが冒頭で述べた「どぶに蹴落とす」という下りについて、さすがに私はこんなことできる人間ではありませんが昔に友人を騙して煮え湯を飲ませ大笑いをしたことはあります。

2016年6月26日日曜日

奨学金に関する議論に対する疑問

 昨日今日と涼しい日が続いたのでまたずっと寝ていたのですが、今日に至っては朝八時に起きて少しパズドラした後で二度寝したら三時間も寝ていて、起きた後で自分でびっくりしてました。そこまで体力消耗したつもりはないのに。
 あと昨日は「グラビティデイズ」というゲームをクリアしましたが、3D酔いならぬ重力眩暈をしっかり体感できるゲームで、演出や世界観で確かに抜きんでたゲームのように感じました。2も今度出るけど、PS4でしかできないんだろうな。

 話は本題に入りますが、このところネットやニュースなどで大学進学で借りた奨学金が卒業した後で返済できず、延滞する若者が増えているという話をよく見ます。返済できない理由としては不況から卒業後も定職に就けず返済に回すほどの賃金がないという生活難からだとされており、そもそも欧米の奨学金は返済不要の譲与型であるのに対して日本で主流の奨学金(育英会改め日本学生支援機構の)は有利子返済の貸与型であること自体が問題であるという声も多くなっています。中には、「やってることが闇金と変わらない」、「無知な学生をだましてひどい奴らだ」などと、制度自体への批判も目にします。
 こうした声を反映してか安倍首相も今度の参院選向けの目玉政策として返済不要の奨学金制度の設立を前に掲げており、そこそこ社会問題といえるレベルにまでは発展してきたのかなという気はします。しかし私に言わせれば、この奨学金に関する議論が社会問題になること自体がおかしいように思え、このところ騒いでいるマスコミを含め一体こいつらは何を不必要に騒いでいるのか誇張ではなく強い疑問を覚えます。

 まず奨学金という制度について私の立場を述べると、非常に有意義な制度であり現在の貸与型主流であっても何も問題ないと考えています。譲与型もあるに越したことはないですが、譲与型の予算枠を増やすくらいであればもっと回すところがあるはずだというのが私の意見です。

 解説に移ると、まず利率が高いかどうかという議論についてはナンセンスもいい所で有利子型の奨学金といえどもその利子率は非常に低く、なおかつ在学中は利息が免除されるなどと優遇されています。

平成19年4月以降に奨学生に採用された方の利率(日本学生支援機構)

 上記サイトに具体的な利率が公開されていますが、ぶっちゃけ以前と比べて凄い見辛くなっているなという印象を覚えますがそれは置いといて、上限が年利率3.0%であるのに対して基本的には2.0%を切っています。うろ覚えですが私の頃は確か200万円くらい借りて20年くらいかけて返済したとしても元本を除いた利息分は20万円くらいだったような気がします。
 これほどまでに優遇された低い利率に対してまで文句が出ること自体頭を疑うのですが、そもそも借りる前にどういう契約なのかきちんと説明されて署名しているはずで、借りた後でやれ取り立てがひどいとかどうとか言うこと自体、内容をきちんと把握していなかった本人の責任でしょう。これに限るわけじゃないですが、なんで借金返さない奴が偉そうな口利くのかが理解できません。

 次に卒業後の収入についてですが、確かに十数年前と比べると正社員の初任給こそほぼ横ばいであるもののその後の昇給が抑えられていることから20~30代の収入は大きく落ち込んでいるという現実があります。しかし、だからどうしたというのが私の意見です。
 低い給与とはいえきちんと節約して生活すれば月々の返済額を捻出することは全く難しくありません。私も金額が少ないとはいえ奨学金を借りてましたが、決して給与の高くない会社ながら(確か月手取り16万円)就職した一年目で100万円を繰り上げ返済しています。当時は自らに対して奨学金を完済するまでは中国に行くまいと制限を課しており、ちゃんとこれは有言実行しました。
 私、それと私よりずっと厳しい(ケチな)友人に言わせれば卒業後に月々奨学金を返済できないという言葉は甘えでしかありません。例え正社員になれなかったとしても日本の場合はパートタイムの仕事がたくさんあるだけに毎月分の返済額位は普通に働ければ得られるはずです。病気や介護など特別な事情がない限り健康な状態でありながら、「不況で」という理由で返せない人間ははっきり言えば論外で、あまつさえ制度に問題があるなどと文句を言うなんて人格すら疑います。だったら初めから借りるなよな。

 そしてある意味ここからが本題ですが、有利子貸与型ではない譲与型の奨学金の予算を増やすべきだという意見が増えていること、そしてそれを主張する人間を見ていて常々、「何故彼らは大学の学費自体の引き下げを求めないのか」という疑問を感じます。

国公私立大学の授業料等の推移(文部科学省)
70年近くに渡る大学授業料の推移をグラフ化してみる(2016年)(最新)(ガベージニュース)

 知ってる人には早いですが、テレビもパソコンも牛丼もバブル期から続くデフレで価格が落ち続けた中、何故だか本の値段と学費だけは上がり続けていました。リンク先を見てもらえば早いですがバブル絶頂だった1990年頃と比べると現在の年間大学授業料は国立で+約20万円、私立で+約30万円も上がってて真面目に「テールミーホワイ?」と聞きたくなるくらい上がってます。そもそもこの記事も、自分の出身大学ホームページを久々に見たら私の頃と比べて入学金は-2万円だったものの授業料が10万円弱くらい上がってたのを見てマジビビったのが書こうとしたきっかけです。

 奨学金は何故必要なのかといったら言うまでもなくそりゃ大学に学費を払うために決まってるでしょう。言うなれば、学費が下がれば負担も下がり、奨学金を追加で充実させる必要はなくなるということになるわけです。
 しかも上記にも述べた通り、日本はバブル以降はずっとデフレであったのに対してやたら大学の学費だけは上がり続けています。そりゃ大学経営がいろいろ大変だというのを全く理解していないわけではありませんが、そもそも日本は細かい数字こそ確認していないものの他の先進国と比べて教育投資額が極端に低いとよく言われており、だからこそ教育拡充に予算を組んで学費を下げる努力をするべきだの一言も出たっていいはずなのに何故だかそういう意見はどこをほっつき歩いても目に耳にすることもなければ口に出す人も私以外いません。挙句に、奨学金の利子が高いだの返済不要の制度を充実させろなど、どう考えたって論点が違うのではと思う意見が何故だか主流になって学生もマスコミもどや顔で口にするのが不思議でならず、景気低迷とか舛添問題以上にこの国は本当にどうなってしまっているんだと不安を覚えさせられます。

 もうあれこれ説明するのも馬鹿らしいのでやるべきだと思う調査検討政策を列記します。

・学費増大要因の分析(恐らく受験者数減少が大きい)
・効率的な大学経営のモデルプランの紹介
・ふるさと納税みたいな母校寄付納税制度を作る
・大学統廃合を進める(学校単位ではなく学部単位が望ましい)
・付属中学高校に対する制度を色々拡充させる
・奨学金の延滞者のブラックリストをネットで公開する

 上にも書いたように何故マスコミも学費引下げは放っておいて奨学金の拡充を唱えるのかが疑問でならず、リクエストも来たので次回は日本のマスコミ業界の人間について実体験を伴って紹介します。

2016年6月25日土曜日

英国のEU離脱とその影響について

 先月から長く続いていた咳が一度は病んだのですが、今日とんかつ食って自宅に帰る途中で何故かまた急に再発して鬱陶しいです。別に喉に何か詰まらせたわけではないと思うのですが、難だろアレルギーか何かなのかな。吐きだした痰の一部がやや異なる色しているのも気になるけど、早く治ってもらいたいです。

 話は本題に入りますが、既にあちこちで報じられている通りに英国が昨日の国民投票の結果、EUから離脱することが決まりました。離脱は2年以内とのことですがこの選挙結果を受け世界中の金融市場は大混乱に落ち、日本も日経平均が約1300円も落ちただけでなく為替も1米ドル=100円を一時切るなど私の職場でもリアルに悲鳴が出ました。でもって給料を人民元で受け取る現地採用の我々も、「何もしていないのに給料が下がるなんて……(´・ω・`)」と呟くのでした。まぁ私はあんま気にしないですけど。

めいろま 「イギリスがEUを離脱した本当の理由」(アルファルファモザイク)

 英国は一体何故今回EUから離脱したのかという背景については上のまとめ記事に書かれている内容が大まかな背景で間違いないと思うので、今回の解説については省略し、今後どうなっていくか今回の選挙結果の影響を中心に解説します。

<英国自身への影響>
 真っ先に起きることとしてはポンド下落に伴う経済的打撃で、ポンドは事実上、米ドル、ユーロに続く世界第三位とされる基軸通貨の地位を失うことになるとみてほぼ間違いないでしょう。代わりに世界第二位に上がるのは日本円でそれについては後述しますが、近年の産業が金融を中心で、なおかつ不況が続いていることもあって深刻な状況に陥ることもあり得ます。

 ただそれ以上にダメージが大きいのは政治面での打撃で、既に今回の選挙結果を受けてキャメロン英首相は辞意を表明しており後継を巡ってしばらくごたごたが続くでしょう。また地区投票ではEU残留派が上回ったスコットランド地方では今回の選挙結果を受けて英国からの独立議論が再燃しており、それに続く形でウェールズや北アイルランドも同じような議論が起きていると報じられています。スコットランドに関しては以前も独立可否を問う選挙を故行っているだけに笑い話ではなく、下手したら英国連邦解体の一石となる可能性は否定できないだけに今後の情勢は荒れたまま続くだろうというのが私の見方です。

<EUへの影響>
 こちらも英国同様にその影響は甚大で、真っ先に考えられるものとしてはドミノ倒しの様に英国に続いて離脱を検討する国が出てくるという事でしょう。一部のEU参加国は通貨がユーロに固定されているがゆえに市場に現金を供給するなどと言った金融政策が打てず景気が打開できないと考えている節があり、言うなればEUにいるからこそ不景気だと考え、これを機に決別したいという国は決して少なくない気がします。
 もっとも、そういった国々はEUから離脱して独自通貨に切り替えたとしても景気打開はできないと思え、上記の考えは幻想であると私は考えていますが。

 また、ギリシャは以前にも離脱を検討しましたが、恐らくギリシャとしてはEU離脱、ユーロから独自通貨に切り替えることによってドイツ等からの借款を踏み倒したいというのが本音であるように見えます。逆を言えばユーロから離脱するついでにあれこれ理由をつけて借金を踏み倒そうとする国はほかにもいるように思え、そうなったら事実上のEUの長でありさりげなくユーロの金融政策で独り勝ちしているドイツとしては気が気ではないでしょう。

<世界経済への影響>
 今回の英国のEU離脱が2008年のリーマンショックに並ぶ経済危機となるか友人と昨夜議論し、そうなるのではという私に対して友人はそこまではいかないという見解でした。ただどちらにしろ、リーマンショック以降としては世界経済に最も大きな影響を与える一打になることは間違いなく、来週は首吊るトレーダーが後を絶つことがないでしょう。真面目にあの選挙結果が出たのが金曜日で良かったと思う。
 株価もそうですが今回の場合は通貨の変動の方が明らかに大きく、今回の結果を受けて上記で説明したようにユーロ、ポンド共に不安が高まりその国際基軸通貨としての信用を大きく落とし、成り行き上、日本円が第四位から一気に第二位に駆け上がることになると思います。位置的には米ドルがもちろん中心ですがリスクヘッジ用の第一位の通貨となるわけで、来週以降は延々と円高が続くこととなり連動する形で日本の株価も下がり続けることでしょう。もっともそれ言ったら世界中で株価下がるわけだから日本だけってわけでもありませんが。

<日本への影響>
 上記で述べた通りに巻き込まれる形で円高になり経済的には大打撃を受けるでしょう。ただ皮肉なことですが、伊勢志摩サミットで無駄に「リーマンショック前の状況だ」と声高に叫んで消費税増税延期に安倍首相は持ってこうとしまししたが、実際にそれに近い状況になっており消費税増税を延期して結果的には正解となりました。逆にもし強行していた場合は次の参院選で批判のやり玉に挙がっていたことは間違いなく、そういう意味では安倍首相もなかなかいい幸運を拾っています。
 その上で今後の日本の課題としては、これから起こる円高を何が何でも抑えなければなりません。ではどうすれば抑えられるかですが、実現性は無視して何でも言っていいという前提で述べるならば、敢えて中国の人民元を推したりバックアップして、その国際基軸通貨としての地位を高めるよう工作するのもありではないかと密かに考えています。中国としては人民元の国際基軸通貨化に対する野心が高く、上手くそれを利用出来て日本に来る衝撃をいくらか緩和できればなと期待してます。

<中国への影響>
 EUは中国にとっても有力な貿易相手地域であるだけに経済的な打撃で言えばもちろんおっきいです。ただ景気が減速傾向とはいえ世界全体で見ればまだ勢いがあるだけに、あれこれ言う人がいるでしょうが多分平常運転でしょう。仮に上記で述べた通り、ここで人民元を前に押し出してくるってんなら色々面白いですが。

<世界のパワーバランスへの影響>
 今回の結果を受けて私が真っ先に考えたこととしては、世界のパワーバランスにおけるEUという一角が崩れ、それに伴って必然的にロシアのプレゼンスが高まるだろうという事でした。余計な説明抜きで続けると、仮にそうなればかつての米ソ冷戦構造よろしく米露の二極構造化が進むのではと思う一方で、「一帯一路」という方針を掲げ海洋政策では強気を維持する一方で陸上の中央アジア各国に対しては融和政策を取る中国がますます力をつけ、三極構造に発展していくのかなという仮定も浮かびます。
 これまでは米国、EU、最近になって尖がってきたロシアの三極構造+イスラムグループみたいな感じでしたが、この構造からEUがまるごと脱落することになるのは確実で、世界のパワーバランスは大きく変化すると断言できます。まぁこの辺は状況を見ながらおいおい判断していくしかないでしょう。

2016年6月23日木曜日

平野母子殺害事件の控訴審再開について

平野母子殺害 差し戻し控訴審3年ぶり再開(関西テレビ)

 先程速報が出たこのニュースですが、内容を見てすぐにどういう事件だったかも思い出せました。

平野母子殺害事件(Wikipedia)

 詳細は上のWikipediaの記事でまとめられていますが、この事件は2002年に起きた主婦、幼児に対する放火殺人事件で、犯人として当時逮捕されたのは主婦の義父に当たる刑務官の男性でした。この事件は発生当初から冤罪の疑いが強くまさか有罪判決は出るまいなと思っていたら一審は無期懲役判決、続く二審に至っては死刑判決が下りて、大阪は警察もそうだが司法も信用できないなと思わせられたのをまだ覚えています。
 ただ、最後の関門である最高裁は合理的な疑いが残るとしてこれらの判決を棄却した上、審理を差し戻すよう命令しました。死刑判決が下りた裁判で審理が差し戻されること自体異例なのですが、差戻審が直近の高裁ではなく地裁となったのも過去にあったかどうかと疑わしいくらい異例中の異例の判断でした。

 そうして差し戻された二回目の大阪地裁の判決は2012年に下り、被告に対し無罪判決が下されました。しかし検察側はこれに納得せず控訴したことにより、控訴審が開かれることとなったのです。

 そもそもこの事件で何故男性が犯人だと疑われたのかというと、直接的な証拠はなくよくある状況証拠からでした。特に一番大きな証拠となったのは犯行現場のマンション階段にあった灰皿に残された煙草の吸殻72本の中から、この男性のDNAが検出されたことが決め手となりました。男性はそれ以前に現場のマンションに行ったことがないと話していたことから供述と矛盾するとして裁判では有力な証拠として扱われたものの、そもそもそのDNAは男性の物で合っているのかという疑問は最初の審理時からありました。
 足利事件然り、DNAが決め手だと言われながら再鑑定してみたら実は違ってたということが実際にはよくあるだけに弁護側は警察に対して再三証拠となった吸殻を提出して再鑑定させるよう要求し続けていましたがこれに対して警察はずっと拒否し続け、事件発生から約二年経って初めて72本中71本を誤廃棄していたという事実を認めました

 誤廃棄の事実自体は裁判が始まってすぐの段階で把握していたもの不祥事の多い大阪府警なだけに知らぬ存ぜぬで黙り通し、証拠開示請求が来るまで公表することはありませんでした。まぁ誤廃棄って言っているけど、大阪府警なだけにそもそもDNA鑑定すらしていなかったという事実を隠蔽するために敢えて捨てておいたんじゃないかと勘繰りたくもなりますが。
 この時点で実質的に男性が犯人であるという証拠は存在しないのですがその後の判決では既に述べた通り一審二審で有罪判決が出るというミラクルぶりで、真面目に裁判官の頭を疑うレベルの判決でしたが、幸運なことに最高裁はまだまともな判断を出して死刑執行という取り返しのつかない事態はまだ避けられました。

 でもって今回、差戻審で無罪判決が出たのに検察が粘って開いた控訴審ですが何故だか三年間も中断していてようやく開いたかと思ったら、遺体の首に巻かれていた凶器と思われる紐に付着していたDNAが男性とは全く別のDNAだったという鑑定結果が出されました。そもそもこの鑑定、検察側からの請求によって行われたそうですが、一体全体何がしたくて請求したのか理解に苦しむ内容です。それ以前に、どうして事件発生直後に証拠価値が感じられないたばこの吸い殻は鑑定しているのに直接的な凶器の紐は鑑定していなかったのか、構造的に考えると、当時鑑定していたものの男性のDNAとは異なっていたため、男性を犯人にしたいから敢えて無視していたとしか思えません。大阪府警なだけに。

 自分が小学生だった頃、日本は検挙率が9割超えてて殺人などをやらかした犯人はほぼ捕まると言われていましたが、その検挙率の背景にはこうした事情が深く存在していたというのが事実でしょう。この前もドラマでタイトルにもされていましたが、日本の刑事裁判における有罪率は99.9%という旧ソ連ですら成し得なかった(佐藤優氏曰く)という神がかった数字してますし。

2016年6月21日火曜日

中国で日本のミステリー作品が流行るわけ

 先日またツッコミの厳しい後輩と上海を歩きながら共通の友人がハネムーンに出かけたことを伝えた際、以下のやり取りがありました。

花園「ちなみにハネムーンと聞いてすぐハゲムーンって単語が思い浮かんだんだけど、働き過ぎで俺疲れてるのかな(ヽ´ω`)」
後輩「疲れてるか、めちゃくちゃ元気余ってるかのどっちかでしょう( ・`ω・´)」

 話しは本題に入りますが、日本でも一部報じられているように中国では日本のミステリー作品が幅広く受け入れられています。作家の東野圭吾氏の作品は認知度も高く実際によく読まれており、また漫画とアニメの「名探偵コナン」に至っては真面目に知らない中国人は存在しないくらい浸透しています。
 それこそ中国に来る前の私は、ナルトやワンピースは冒険活劇だから中国でも売れると思っていたものの、そこそこロジックが複雑でやや小難しく感じるようなコナンや金田一(少年)はややハードルが高いと思っていたらむしろ先の二つに負けないくらいに人気で、「金田一とか知っている?」とリアルで中国人に聞かれることも少なくありません。

 一体何故こうした日本のミステリー作品が中国人に受け入れられ流行るのか。この理由について友人の嫁さん曰く、「中国人にはああいうロジックのある作品を作ることが出来ない」とのことで、単純に珍しいからだと説明されました。言われてみて納得というか、出来ないことはないだろうが中国人があれこれロジックをめぐらして作品作るなんて想像し辛く、間違いなく苦手な分野でしょう。一方で漢字の国だけって活字を読んで想像を働かす方面にはなれており、案外読書文化も強いだけあって想像をかきたてるミステリー作品に対する憧憬も強いのでしょう。
 この話を先日同僚にも話してみたのですが、

「そもそも着実に証拠をかき集めて犯人を追いつめるという過程が中国にはないよね(・∀)(∀・)ネー」

 という話になり、証拠なんかなくったってとりあえず怪しい奴をとっ捕まえて、拷問して自白させるのが中国の犯罪捜査なもんだから推理するプロセスがそもそもないというのが中国でミステリーが育たない土壌かも知れないという意見も出てきました。
 また中国事情に詳しい同僚からは、

「あと中国人だったら水滸伝みたいに、犯罪者を追う側よりも犯罪者に共感してしまう

 という指摘も飛んできました。

 これは実際その通りで、割と中国人は昔から今に至るまで正義の味方より悪者、それもどっちかっていうと小悪党に肩入れする傾向が強く、日本人の感覚的には石川五右衛門を応援するような感じだと思うのですが、貧しい生い立ちから犯罪に走ってしまった、それでも粋な心意気は失わないっていうようなキャラクターが本当に大好きです

 一応、アルセーヌ・ルパンのように犯罪者の側が主人公のミステリーもなくはないですが、やっぱり犯人を追う探偵や刑事なんてキャラに中国人はあんま共感しないというか応援しない気がするし、そういうキャラを主人公にする作品もあんまないでしょう。刑事物ドラマは中国でもたくさんありますが、どっちかっていうと濃いおっさんが麻薬組織とかの凶悪犯罪と戦う系だしなぁ。

 逆を言えば日本人はミステリー作品をこれだけ発達させていることからもロジックをあれこれ考えるのが得意な民族ともいえるかもしれません。ミステリーの本場といったら友人のハネムーン先であるイギリス(メシがマズイとは警告しておいた)ですが、日本人もイギリス人もやっぱりこの辺の思考なり興味なりが共通する点はあるのだと思います。中国人はミステリーを受け入れる素養は高いものの、生憎作品を作り出す素養と土壌には欠けているというのが私の分析です。

 最後にどうでもいいことですが蘭姉ちゃんの声優は京都出身なだけあって別作品で京都弁使うこともあるのですが、自分の知る限り最もきれいな京都弁です。この人も蘭姉ちゃん演じてもう20年くらい経つのか……。

シチズン子会社の解散に伴うリストラについて

 このほど以前に書いた「シチズンの広州工場閉鎖について」の記事に、以下のようなコメントが寄せられました。あまりにも長すぎてスパムと認定されたため表示されてないのですが、折角寄せてもらったのでここで紹介します。
 非常に長い文章なので体調絶好調につき一つ私の手で簡単に要約すると、以下の通りとなります。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 精密機械大手シチズンホールディングスは今年3月、連結子会社であるシルバー電研を日本金銭機械に事業譲渡すると発表しました。事業譲渡に合わせシルバー電研社員は譲渡先の日本金銭機械の求人募集に応募し、採用されたものはそのまま移籍し、それ以外の社員は人材会社リクル ートキャリアコンサルティングに登録してシチズングループからの求人に直接応募し、採用された者はそのままグループ企業へと移籍するようにと告知されました。しかし実際にはシチズングループからの求人はほとんど行われず、その後も追加の説明や告知はなくシルバー電研社員は解散に伴って規定された退職日の来週6月30日を迎え、半自動的に退職へと追い込まれかねないという状況になっています。
 なお、一般企業へ転職する場合は既定(最大12ヶ月、年齢によっては最小6ヶ月)の特別退職金が支払われます。
 こうしたシチズンのやり方についてコメント投稿者は、業績も好調に推移しているにもかかわらずグループ内移籍等の雇用対策手段を講じず、シルバー電研の社員を無理矢理解雇させるようなやり方は不当だとし、方々へ同じような投稿を行って主張を展開している模様です。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 正直、この投稿をこのブログで取り上げるか否かは少し悩み、直前に友人にも相談しております。
 念のためシチズンが3月に出したシルバー電研解散のプレスリリースを目に通してみて一段落目末尾に、「なお、シルバー電研は事業譲渡後、解散及び清算を行う予定です。」と書かれてあるのを見て、通常であれば「吸収合併」という言葉を使うのが適当と思われるのに「事業譲渡後、解散及び清算」という妙な表現にしていることから語られている内容は恐らく事実だとは思います。
 その上で今回こうしてブログ記事に仕立てたのは私個人からの意見を表明するためで、「悲しいことだがこれが日本流の強制解雇手段である」、というのが嘘偽りのない私の回答です

 今国会でも議論されましたが従業員の解雇規制についてもっと緩和するよう意見が出ており、一定額の退職手当などを条件に企業側が従業員を強制的に解雇できるよう法改正すべきだという案も出てきました。私はかねてより派遣行政を始めとして様々な労働問題をこのブログで扱ってきましたがその際の結論は一貫して、「日本にはもっと労働流動性が必要だ」という意見に終着しており、その立場から述べると解雇規制の緩和にも賛成する立場にあります。
 もしかしたら、「そんなこと言ったってお前も解雇される立場になったら嫌だろう?」なんて反論が来るかもしれませんが、そもそも私は日本の労働法に守られた期間(二年ちょい?)なんてほとんどなく、今も元気に中国で現地採用で働いておりこと労働に関してあらゆる日本の法的保護を受けていません。でもって中国での就労も色々な制限付きで、日本政府が中国と社会保障協定やってないので年金も払ったことにならないし、何よりもこちらでの採用は契約制のため戦力外通告を受けた時点で即解雇であぼーんです。そんな私から見れば、ちょっと日本の労働者は法律に守られ過ぎだろうと内心思っています。

 話しは戻りますが、今回シチズンが取ったこの手法は言ってはなんですが日本でよく見られる強制解雇手段の一つです。事業部または子会社を他社へ売却譲渡合併するに当たって行う人員整理にかこつけ不要な社員をまとめて切るというのは90年代からよく見られたリストラ手法であり、ここだけの話、JDIは要らない社員をまとめて荼毘に付すため三社合同で作ったんじゃないかと発足当初に私は思ってました。
 この手法が不当かどうかとなると舛添っぽいですが、「不適切ではあるが違法ではない」というのが私の見方で、直接解雇し辛い(と言われる)日本の現況を鑑みるとまだ比較的定式化した手法であるように思え、抵抗するのも難しいような気がします。ましてや各社で「追い出し部屋」が氾濫する今の世の中、嫌らしいっちゃ嫌らしいし誉められた手段ではないですがここよりひどいやり方で解雇へと追い込む会社はほかにいくらでもあります。

 仮に今回社員をまとめて切るに当たり何のプレミアムもつけないというのであれば話は別でそれだったら私も全力で応援しますが、投稿によると6~12ヶ月分の特別退職金が出されるようだし、正直言ってまだマシな方なんじゃないかなと思ってしまいました。
 というのもまた不幸自慢になってしまいますが私なんて前の会社で問題のある行動を取った中国人ローカルスタッフを叱った所、スチール棒で殴られて顔面出血したにもかかわらず病院に連れていってもらえなかったばかりか、「叱ったお前の方が悪い」などと逆に怒られ、問題のローカルスタッフはお咎めなしになりました。さすがにふざけるなと会社上層部に言ったところ特に引き止められることなく退職を促されたのでそのまま辞めましたが、退職に当たりプレミアムは何もつけられなかったばかりか、日本にも帰らず中国現地で退職したため確認してませんが勝手に自己都合退職にさせられたことでしょう。有給消化についても何も言われませんでしたが、どうせ暴行してもお咎めなしになるなら目玉の一個でも抉り取っておけばよかった。

 多分一般の感覚からしたら私の体験の方が異次元なので比較対象はよくないでしょうが、日本国内の現状を考慮してもこの件に関してはシチズンは広州の件といい嫌らしいと感じはするものの特段かばい立てするような案件には思えません。個人的には同情はするものの、会社に用済みとされたら捨てられるのが社会であり厳しい現実であると私は考えており、頑張って這い上がってこいとしか言えません。
 まぁ死んだら死んだでそれはそれで楽なんだけどね。

2016年6月19日日曜日

広島で被爆死した米兵捕虜を追った郷土史家

 漫画「はだしのゲン」の原爆投下直後のワンシーンに、原爆によって亡くなったと思われる米兵捕虜に老婆が石を投げつつ、「アメリカめ、自国民まで巻き添えにしおって!」というような内容のセリフを述べるシーンがあるのですが、このシーンが事実に基づいた内容であったということをつい最近知り、非常に強い衝撃を覚えました。

広島原爆で被爆したアメリカ人(Wikipedia)

 私がこの事実を知ったのは今月の文芸春秋(七月号)にて、広島で被爆死した米兵捕虜を追った郷土史家の森重昭氏の手記を読んだことからです。私は知らなかったのですが森氏は先日行われたオバマ大統領の広島訪問時の式典に招かれ、直接オバマ大統領から抱擁されて翌日の新聞ではどこもオバマ氏と森氏の2ショットが一面に載せられてたいようなので、もしかしたらこのブログを読んでいる方は既に森氏の事はご存じであったかもしれません。
 なおこの時のことについて森氏は直後のインタビューにも答えた通りに「頭が真っ白になった」と書いておりますが、それもそのはずというか式典への招待自体は前もって電話で連絡を受けていったものでしたがてっきり会場の遠くからオバマ大統領を見ることになるだろうと思っていたところ、なんと広島知事らを押しのけて最前列の席に案内され、そのまま上記の通りにオバマ大統領から直接声をかけてもらった上にハグしてもらったとのことです。逆を言えば他の人間を差し置いて森氏にこうした対応を取る辺りはさすがはオバマ大統領だと思うとともに、こうした歓待を受けるほど森氏の功績が高く評価されたのだと思います。

 手記によると森氏は8歳の頃に広島で被爆しています。その後成人して会社勤めをする傍ら地元広島で原爆投下時に米兵捕虜が亡くなっていたということを知ってから、後世のためにきちんとした記録を残したい、そして国籍など関係なく被爆死した人間を弔いたいという考えから調査を始めたと語っています。なお森氏の勤め先は山一證券、次いでヤマハだったとのことで、何気にエリートサラリーマンだったようです。

 調査を始めた森氏は休日を使って当時の資料やまだ生きていた原爆体験者らから話を聞き集めるという地道な活動を行っていきました。そんな折、同じく米兵捕虜を追っていた広島大学研究所の宇吹暁氏が、戦後に外務省がGHQへ提出したとされる被爆死した米兵捕虜20人のリストを発見したことによって手がかりをつかみ、このリストに書かれてあった人名から詳細な確認作業へと着手していくこととなりました。
 最終的にこのリスト内容は完全には正しくなく、実際に被爆死した米兵捕虜は12人だったということが森氏の調査で明らかとなっております。その大半は撃墜された爆撃機B24(リベレーター)のロンサム・レディー号とタロア号の乗組員たちで、彼らの氏名、所属、そして被爆死した状況についても様々な角度から検証されて事実が確認されています。

 特に驚いたのはこの時の森氏の調査に対する熱意で、インターネットもなかった時代に国際電話をかけ、リストにあった米兵捕虜と同姓の家庭へしらみつぶしに電話をかけて親族を探したそうです。そんなことするもんだから電話代はかさんで月7万円を超えた月もあり奥さんからは白い目で見られたそうですが、それにもめげずに努力し続け実際に親族と連絡を取り合うことに成功しています。もっとも最初は胡散臭い詐欺師のように思われて相手にしてもらえなかったこともあったそうですが森氏の熱意を受けて情報を提供してくれる親族らも段々と増えていき、そして幸運なことに撃墜されたB24ロンサム・レディー号の機長であったトーマス・カートライト(2015年1月死去)が当時まだ存命しており、森氏の調査に協力してくれました。
 トーマス機長は尋問のため一人だけ広島市から東京へ移送されていたことから難を逃れ、戦後に解放されて米国へ帰国した後も上層部からは部下が広島で被爆死したことを言明するなと指示されていたそうです。実際、GHQは占領してすぐに原爆で米兵捕虜が亡くなっていたことを把握していたもののその事実は「不都合な真実」として公表せず、被爆死した米兵捕虜の家族らにも当初「行方不明」としか説明していませんでした。実際、ロンサム・レディー号の乗組員だったジェームズ・ライアンの家族には終戦二年後になって初めて、「広島の原爆投下時に死亡」とだけ通知され、原爆との因果関係も何も説明されていなかったようで被爆後に虐待死されたのではという疑念を家族らは持っていたそうです。

 そして、冒頭の石を投げつけられていたという米兵捕虜についてですが、この捕虜はロンサム・レディー号の乗組員ヒュー・アトキンソンだったということが種々の調査などから明らかとなっております。その死の状況については原爆投下地点(原爆ドーム)から400メートル離れた捕虜収容所で他の捕虜ともども被爆したものの、即死してはおらず重傷ではありましたが当初はまだ生きていたそうです。そして被爆直後の混乱の中、移送することもままならず処遇に困った憲兵が一旦相生橋欄干につないだところしばらくしたら死亡しており、そのまま現場に放置したというのが実態だったそうです。
 この死亡時の状況について当初は、「橋に繋がれた米兵捕虜が投石されて殺された」などとも言われており当時現場にいた証言者もそのように述べたそうですが、森氏曰く往々にして記憶というのは変わりやすいもので、以前そのように述べた証言者もその後確認を進めた上で聞き直すと、「既に死亡していて、死体に石を投げつけていた」と証言が変わったりすることも多かったそうです。この一回限りの証言で完結させない辺り、歴史のリサーチャーとして森氏が格段に優れていると思わせられる手腕です。

 また同じくロンサム・レディー号の乗組員であったラルフ・ニールについてですが、彼の家族らは戦後生まれた彼の甥に同じ「ラルフ」という名前を付けたそうです。その甥であるラルフ・ニール氏は森氏をテーマにしたドキュメンタリー映画「ペーパーランタン」の撮影で広島を訪れ、資料館にある叔父の写真を15分間も無言で眺めつづけたそうです。森氏は一連の調査を進める傍らで彼ら米兵捕虜にも日本人と同じく墓碑に名を刻むべきだと考え、既に定年退職した身であったことからアルバイトで貯めた約65万円を投じてわざわざ米兵捕虜の慰霊碑を打ち建てるとともにまだ存命していたカートライト機長を案内したとのことで、重ね重ね森氏の行動には頭が下がります。

 正直な感想を述べると、今までこのような事実があったということを知らなかったこと自体が恥ずかしく感じるとともに、冒頭で述べた「はだしのゲン」のワンシーンにこんな背景があり、そしてそれを事実として確認するために膨大な労力が払われたのだということを考えると森氏には強い尊敬の念を覚えます。そしてそれをきちんと評価してその努力を労ったオバマ大統領をはじめとする米国政府の面々も改めて大した連中だと思うと共に、公式に米兵捕虜が一緒に被爆死していたという事実を明らかにしたその対応はなかなか真似できるものではないとばかりに、米国の底力というものを覚えさせられます。
 逆を言えば、どうして今まで日本はこうした森氏のような人物を取り上げてこなかったのか。先程の映画「ペーパーランタン」も日本では未公開とのことで、「プロジェクトX」ではないですが「地上の星」に対し目が向けられていないのではという気持ちにさせられます。

 最後に余談というかなんというか広島で被爆死した捕虜の中にいたタロア号の乗組員たちですが、彼らはどうも、広島に新型爆弾が落とされる予定であるという事実を知っていたそうです。余計なことは書かず素直な心情を述べると、この事実を知って私はゾッとした感情を覚え、被爆時の彼らの胸中は如何なるものだったのかと慮りました。