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2010年11月9日火曜日

北方領土問題に対する中国の反応

 留学中もそうでしたが中国の街中を歩いてて何が一番気になるこというと、やけに中国人が自分に道を聞いてくることです。周りにも人はたくさんいるにもかかわらず何故か外国人の自分に道を聞いてきて、「あの、中国人じゃないんで……」といつも断っていますが、友人いわく顔が中国人そっくりでやさしそうに見えるからみんな声かけてくるんだそうです。

 話は本題に移りますが、先週の金曜日に私が中国に滞在中住む予定の部屋にインターネットを引きました。それほどヘビーユーザーというわけじゃないですが一応高速回線に越したことはないのでADSLを引きましたが、中国のADSLは日本のADSLと比べて回線速度はちょっと低いのが難点ですが工事も無事終わり、これでブログも安心してかけるぞとほっとしていたらこんな会話がありました。

「最近、日本はロシアと揉めてるよね」

 工事に来た中国電信の作業員の方が、不意に中国語でこんな風に話しかけてきました。
 恐らく先のメドベーチェフロシア大統領が北方領土に足を下ろしたことに日本側が抗議した事件についてですが、尖閣諸島の問題ならいざ知らず、いきなり北方領土について話しかけたことにやや驚きを感じました。
 しかもその次の日にテレビでニュースを見ているとまさにこの問題について特集が組まれており、日本側、ロシア側のそれぞれの対応を逐一報道していました。

 今回のこの北方領土問題に対する中国の反応ですが、私の感想は驚き半分納得半分、あとおまけが安心ちょっとといったところでした。
 驚き半分は先に書いた通りに思ってた以上に中国側が関心を寄せていたという事実ですが、納得半分というのは中国側が関心を寄せるのも決して土台違いな話じゃないと判断したからです。その理由はいくつかありまず一つ目は先の尖閣諸島沖での漁船衝突事故から起きた日中の領土問題で、日本の他の領土問題についてもこの事件の影響から気になるようになったという理由です。ただこれは自分で書いておきながら無理やりにでっち上げたもので、中国側がなんでこの問題に関心を寄せたかという本命の理由は相手がロシアだったからだと私は睨んでいます。

 ちょっとこの辺を説明するに当たって、中国とロシアの関係史を軽く紐解く必要があります。中国は蒋介石率いる国民党を台湾に追い出した後、同じ共産主義国の旧ソ連とは深い親交で結ばれてしばらくは蜜月関係が続きました。何気に私が留学のため初めて北京で住んだ学生寮はこの旧ソ連との蜜月時代にソ連の設計士や技術者が作った建物でしたが、この蜜月時代はそれほど長くなく、スターリンの死とともに終わりを迎えます。

 スターリンの死後のソ連はフルシチョフが書記長となっていわゆる雪解けことデタントが始まり、アメリカとの冷戦も一時和らぎます。ただこれに反発したというかフルシチョフの路線に反を唱えたのは何を隠そう毛沢東で、共産主義の路線対立から中国とソ連の外交関係は一気に冷えました。
 その後ソ連が共産圏から離脱しようとする東欧諸国に対してプラハの春など武力を以ってしてでも強行に従わせようとする行動を見て、中国こと毛沢東は非常に焦りを感じるようになります。というのも当時の中国の人民解放軍はお粗末なくらいに弱く、ソ連軍が攻めてこようものならあっという間に制圧される可能性が強かったからです。

 そのために毛沢東が取った選択はというと、「敵の敵は味方」ことソ連と対抗するアメリカと手を結ぶことでした。俗に言うパンダ外交を展開して日本とも田中角栄政権時に国交を開くなど世界外交に劇的な変化が起こったわけですが、この外交転換のそもそもの原因は中国が抱いたソ連への脅威においてほかなりません。こうして形だけでも米国と手を結んだ中国ですがその後もソ連への恐怖は拭えず、国境も直に接していることもあって事実上2000年に入るまでは最大の仮想敵国はソ連ことロシアであったでしょう。これに限るわけじゃないですが、行くところまで行った同属嫌悪というのは始末が悪いです。
 ちなみに大友克弘氏の「気分はもう戦争」という漫画は、ソ連がアメリカの許諾を得て中国(ウイグル自治区のあたりへ)に侵攻するという仮想のお話です。

 中国は日本に限らず韓国、ベトナム、インドネシアなどたくさんの国々と国境問題を抱えていますが、その中でもこれまで一番中国が深刻視してきたのはロシアとの国境問題でした。ただこれは種明かしをするとすでに解決済みの問題で、確か去年か一昨年くらいに中国とロシアはきちんと国境線を定めてようやくこの領土問題はケリがつきました。私はこの中露の領土問題が終わったと報道された際に内心、中国とロシアがお互いの問題が片付いたのを機に揃って日本へ尖閣諸島、北方領土の問題で圧力をかけてくるのではないかと懸念してまずいことになったと思ったのですが、幸いというか今の今までそんなことは起こりませんでした。

 今回、九月に尖閣諸島の問題であれだけ揺れたのに続いて今度はまたロシアが突然北方領土に対して強気の姿勢を見せてきました。尖閣諸島の問題についてはまだともかくとして今回のメドベーチェフ大統領の北方領土訪問は、確実とは言い切れませんが尖閣諸島の日本側の対応が影響してとの可能性も考えられます。それだけに漁船衝突事故の政府の対応がやや悔やまれるのですが、幸いというか私の見立てだとこのロシアの行動に対して中国側は関心を持ったものの、ロシアの行動をあまり支持していないのではないかと思います。

 元々中国はソ連と対立していたという歴史上、これまでの世界地図でも北方領土については「日本領(ロシア占領中)」と書くなど、うれしいことしてくれるじゃないのと言いたくなるような態度を取っていました。現時点でもそれは変わらず、私が見たテレビ番組中でも同じような説明で、まだ両者の立場を説明するような中立的な報道でしたが端々に日本、ロシアそれぞれへの警戒感を感じる内容でした。

 中国としても大連港を始めとする東北地域はロシアの国境とも近く、軍事的な観点から言えば北方領土までロシアが出張って来るのはあまりうれしくはないでしょう。ただそれは日本にとって都合のいい考え方で、状況が変われば先ほど私が言ったようにそれぞれの抱える日本との領土問題に対して中露が共同歩調を取ってくる可能性もまだあります。そういう意味ではこれらの領土問題を相手を一国と考えず、別の相手も意識しつつ毅然とした態度を取ることが今後必要となってくるかもしれません。

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