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2023年7月10日月曜日

懸念される中国の商業不動産市況


 上の写真は上海市の中山公園駅近くにある、ニトリが入っている商業施設のロビーです。昨日、臭くなったハンガーの代わりとなる新たなハンガーを買おうとニトリを訪れた際に撮影したものですが、見ての通り中央ロビーは広々とした空間が広がっており、中国のダイナミックな設計が活かされています……と言えればよかったのに。

 このロビーですが、かつては常になにがしかの催し物や即売会が開かれており、ロビーわきにはカウンターを設けた携帯電話ショップも常設されていました。しかし見ての通り、コロナに入る直前辺りから空間が広くなり、1階右奥にあったスーパーも閉まって常にシャッターが下ろされるようになりました。2階正面にあるモニターもずっと黒いまんまだし。
 また撮影の仕方が悪く見えづらいですが、1階右手にはかつて家電売場が広がっていて、今年春に自分もその中にあった携帯ショップで新しいスマホを買っているのですが、5月ごろからフロア丸ごと閉鎖され、今も新たなテナントが入らないままとなっています。面積でいえば、ワンフロアの半分くらいを占めるほどのエリアなのに。

 こうした商業施設はここだけに限らず、上海市内各地でかなり見受けられます。実際に見に行ってはいないものの、人口と消費の密集地である上海ですらこの有様であることから、地方都市の商業施設に至っては今どんな状況なのか、ちょっと想像するのが怖いです。

 去年にも自分はJBpressのコラムにて、中国の不動産市場は住宅ばかり取り上げられるが本当に深刻なのは商業不動産だと主張する記事を書いていますが、現在の状況は当時よりもさらに深刻化しているという気がします。
 実際はどうなのか先ほど中国のシンクタンクがつい先日に出した商業不動産に関するレポートの解説記事を読んだところ、一部メディアは「去年に比べて賃料が上昇している!」などと強がりを書いていましたが、冷静な記事は「去年のロックダウン時に不動産賃料は劇的に下落しており、その低い基数に対して今年は上昇しているに過ぎない」と分析しており、自分の見立ても同じです。むしろ、あれだけロックダウンをかました去年と比べるのであれば大幅に上昇していなければおかしく、平均でプラスと言っても微増にとどまっている現状はやはり芳しくはないでしょう。

 そのほか空き室率も上昇傾向にあり、深圳のAクラスオフィスビル賃料に至っては10年前の水準まで落ちていると書かれた記事も見られました。詳しく数字を検証していませんが、肌実感的に今の中国の商業不動産市場が好調なはずはなく、新規市場投入面積が減っているのに需要や賃料が上がっていない現状を踏まえると、本当に大丈夫かと言いたくなります。

 一方、日本人がやたら問題にしたがる住宅に関しては私はあまり懸念していません。現状においても家を買いたいのに買えない層が非常に多く、価格が少し下落したらすぐに買手が出てきて下支えするとみられることから、住宅不動産市場はデベロッパーの資金繰り難は続くものの、劇的に日本人が期待するようなバブル崩壊はまだまだ起きないと思います。
 ただ商業不動産に関しては何度も言うとおり、市場がかなり歪になっていると強く感じ、それこそ古くなった施設を無理やり破壊するなど市場淘汰政策を強行しない限り、今後ずるずると賃料が下がっていってデベロッパーの財政を圧迫する懸念が高い気がします。少なくとも、ゼロコロナ政策放棄によって中国政府は景気が回復すると期待していた節がありますが、商業不動産に関してはその予測を現在大幅に下回る状態になっているように見えます。

 なおこうした商業不動産の不振はやはり実態小売(オフライン小売)からオンライン小売、つまりネットショッピングに買い物の比重が移っている影響が大きく、中国全体での消費規模に関しては大きく落ち込んでおらず、むしろ今も拡大しています。金の流れ的に言えば、これまで商業施設を運営するデベロッパーに回っていたお金が、物流業者やショッピングサイトの運営業者に回るようになったと言えるかもしれません。
 ただやはり実態不動産にお金が回る場合は工事業者や設備業者、そして交通機関などにもお金が回って波及効果が大きいほか、不動産そのものの価値上昇によるプレミアムも得られただけに、そういった効果がなくなると経済全体への影響は小さくない気がします。何より、資金繰りに窮するデベロッパーが破綻した場合のダメージが大きいだけに、今後適切な対策を中国が打てなければ意外とツケがでかくなるかもしれません。

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