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2014年5月19日月曜日

誰もが読むベストセラー無き時代

 先日に小説家の渡辺淳一氏が亡くなられたことは読者の方々にとっても記憶に新しいと思います。渡辺氏の代表作でもある失楽園は中国でも大ヒットしていただけになんか中国でも騒がれたようですが、以前に渡辺氏は中国の書籍市場について、

「失楽園が大ヒットしたらすぐ海賊版が出回ってきたので版元を追って行ったら、正規に契約を結んで出版している会社の子会社に行きついた」

 という、中国らしいオチを付けてコメントしてくれていました。それにしてもその出版社、一体何がしたいのかよくわからん。

 話は戻りますが私は渡辺氏の作品だと「鈍感力」を出版後すぐに読み、その内容の面白さには素直に感銘を受けました。なもんだから当時は「ねえねえ鈍感力読んだ?」なんて話を振っては、読んだ人間とは書かれている内容で盛り上がり、読んでない人間には本を貸して読ませた後で盛り上がったりしていたのですが、ふと思い返すとこういう行為をしなくなってどれくらい経つんだとつい先日に覚えました。

 「鈍感力」に限らずとも、2000年代の前半であれば「相手が既に読んでいることを期待できる、または読んでなくてもタイトルは知っているであろう書籍」というのがいくらかあったと思います。具体名を挙げれば「国家の品格」とか「バカの壁」、「ハリーポッターシリーズ」などですが、ここ数年はこれらのタイトルの様に世の中で影響力の高いベストセラーがあったかとなるとついぞ浮かんできません。
 ではいったいどんな本がベストセラーになっているのか調べてみたところ、日本出版販売株式会社が以下のような統計をまとめてくれておりました。

順位 書名 著者
1 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹
2 医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法 近藤 誠
3 聞く力 心をひらく35のヒント 阿川佐和子
4 海賊とよばれた男(上・下) 百田尚樹
5 とびだせどうぶつの森 かんぺきガイドブック 週刊ファミ通編集部
6 ロスジェネの逆襲 池井戸 潤
7 できる大人のモノの言い方大全 話題の達人倶楽部
8 新・人間革命(25) 池田大作
9 人間にとって成熟とは何か 曽野綾子
10 置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子
11 世界のなめこ図鑑 金谷 泉
12 スタンフォードの自分を変える教室 ケリー・マクゴニガル
13 謎解きはディナーのあとで(3) 東川篤哉
14 とびだせどうぶつの森 ザ・コンプリートガイド  電撃攻略本編集部
15 ホテルローヤル 桜木紫乃
16 未来の法 新たなる地球世紀へ 大川隆法
17 とびだせどうぶつの森 超完全カタログ Nintendo DREAM編集部
18 伝え方が9割 佐々木圭一
19 野心のすすめ 林 真理子
20 雑談力が上がる話し方 30秒でうちとける会話のルール 齋藤 孝

 1位は村上春樹作品ということで、村上春木氏の作品があまり好きでない自分だからピンとこなかったのも理解できます。どうでもいいですが「村上春樹的桃太郎」は読んでて面白いです。ほかの作品について所見を述べると、さりげなく池田大作氏の本が入ってたりゲームの攻略本(全部「どうぶつの森」だし)が入ってたりしてそこそこ面白いのですが、先ほど私が述べたように「相手が読んでいることを期待できる書籍」というか話題にできそうな本となると全くないように見えます。

 このような現状はどうして生まれたのか。第一に挙がってくる仮説としては日本人が本を読まなくなったからというのが挙がってきそうですが、私個人の仮説としては単純に誰もが手に取るような面白い本が出ていないということに尽きる気がします。あくまで仮説ですが、2012年のランキングを見てもこんな本あったのかよと思えてくるし……。

 こうした現状について口やかましいことを述べると、共有体験というものが減ってよないんじゃないかと個人的に思います。共有体験というのはコミュニケーションを円滑する上で欠かせないし、また書籍に関しては意識や世論をまとめていく上でも大事ですし、率直に言って悪い方向に向かっている気がします。それだけに、渡辺淳一氏の死去はやはり残念極まりなく、非常に悔やむべき事件だったというのが今日の私の意見です。

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