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2015年11月8日日曜日

漫画レビュー「飯田橋のふたばちゃん」

 先日、冷凍たこ焼き好きの友人から、「これは是非読んだ方がいい」と、イーロン・マスクの本に続いてある漫画を紹介されました。

飯田橋のふたばちゃん(Wikipedia)

 この漫画はどんな漫画家というと、ごくありふれた女子高を舞台にした女子高生四コマ漫画です。ただ一つ他のゆるふわ系四コマと違うのは、登場人物全てが漫画出版社を擬人化したキャラクターであるということです。
 具体的にいうと、主人公のふたばちゃんは双葉社がモチーフになっており良くも悪くも全く特徴のないキャラで、そのほか集英社、講談社、小学館、秋田書店など有名漫画出版社がモチーフで、それぞれが発行する雑誌の性格や連載漫画の特徴をもっているという設定です。こう説明していてもピンとこないでしょうからいくつか特徴をあげると、集英ちゃんは万能でなんでもそつなくこなすがビジネスライクな性格で芽がないと思ったら10回で打ち切ろうとしたり、講談ちゃんはスポ魂な性格で他人の作文課題にもやたら介入しようとし、小学ちゃんは書類や配布物をしょっちゅう紛失するラブコメ体質ののんびり屋さんで、わかる人にはわかるツボを確実に抑えられて作られています。あ、あと秋田書店はヤンキー。

 そうした各キャラの特徴が一番うまく比較できてるネタとして「鳴かぬなら」で始まるホトトギスの俳句をどう読むかというお題があって各キャラがセリフ言うのですが、折角なので下記に引用します。

「根性で鳴かせろホトトギス」(講談ちゃん)
「ゆるりと待とうホトトギス」(小学ちゃん)
「一年半待とう冨が…いやホトトギス」(集英ちゃん)
「タイマンはろうぜホトトギス」(画報ちゃん←少年画報社)
「喰らってしまえホトトギス」(秋田ちゃん)
「平和(ピンフ)狙いだホトトギス」(竹書ちゃん←竹書房、麻雀漫画多いから)

 わからない人にはちょっと厳しいネタですが、よくもまぁ見事に各出版社の特徴を掴んだネタだと読んでて唸らされました。特に麻雀ネタだと竹書房のキャラがスクウェア・エニックスのキャラに対して、「てめぇのファンタジー麻雀に今日は勝つ」というセリフもあったりして、よく無事に出版できたなぁと思えるくらいきわどいネタが飛び交ったりします。
 もっともきわどいネタ関連で言うと各キャラクターの姉妹関連の方がいろいろとヤバかったです。姉妹誌を妹キャラとして出してくるのですが、スクウェア・エニックスに関してはお家騒動で一部編集者と作家が独立したことから「生き別れの姉妹がいる」と描くのはまだいいとしても、秋田書店に至っては「赤い核実験場」と呼ばれる「チャンピオンREDいちご」をモチーフとした「いちごちゃん」という妹キャラが出てきて、都条例関連でしょっちゅう問題起こしているが大丈夫かという問いかけに、「大丈夫ですよ、本番はNGですから」という、わかる人からしたら本当に恐ろしいセリフを吐かせたりしています。

 書評に戻ると、非常に各キャラクターと出版社の特徴をうまく組み合わせてあり正直に面白い漫画だと太鼓判を押せます。難点としては漫画業界の事件やネタに詳しくないとややわかり辛い所があり大衆向けかというとそうではないですが、なるべくネタ元がわかりやすいようにして作者も描いており、ネットで調べるなどすればまだわかる範囲なのでまだ許容できるレベルだとは思います。
 あとコンセプトだけでなく単純に四コマ漫画としてみても良質で、地味にギャグのテンポが素晴らしかったりします。ボケやツッコミの切れが鋭く、なおかつ三コマ目にボケとツッコみのセリフを入れた上で、四コマ目でさらにボケを入れる畳み掛けのような手法がいくつか見受けられ、作者のギャグセンスとコマ回しには文字通り脱帽しました。仮に出版社を擬人化しただけではこれほどの面白さは得られなかったと思うだけに、コンセプトの発想といいこのテンポの良さ一つとっても大した作家だと思えます。

 なお上記にも書いてる通り読んでて大丈夫かと思うくらいきわどい業界ネタが多いのですが、あとがきによるとこれは作者も気にしたものの、普通に出版してくれた双葉社はすげぇと思ったそうです。また作者は双葉社の担当者(「うち妻に出てくる人だ」と作者は言及)から、「体力ないから一発当てたいんだけど」と言われた上で女子高生四コマを提示され、出版社を擬人化することで了解を得たものの、女の子を書くのは苦手で作画は別の人に任せようと捜したところ、「アタシが描く」と言って同じく漫画家の嫁さんが手をあげてくれ、何気に漫画か夫婦の合作だったりします。


  

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