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2022年3月11日金曜日

時の行者

 先月はやたら購読している漫画の新刊が一斉に発売されたために多大な出費に見舞われましたが、中でも半年に1冊のペースで出ている長谷川哲也氏の「ナポレオン」の新刊は読んでていろいろと感慨深いものがありました。

 この漫画は自分が学生だった頃に連載が始められ、実に20年近くも連載が続けられています。それだけ時間かけられていることもあって、ナポレオンの生涯をつぶさに描いており、自分もこの漫画を通じて、ナポレオンのみならず彼を支えた元帥たち(あとフーシェ)がどういう人物だったのかを知りました。
 そんな漫画「ナポレオン」もいよいよ終盤に迫ってきており、今回出た新刊ではロシア遠征に失敗後、ロシアやドイツに追い立てられる形で首都パリを陥落させられ、皇帝を退位してエルバ島に流された後の彼の姿を描いています。エルバ島でナポレオンは学校や病院を建てたりするなど、意外とまともに領主生活をやってたようです。

 この巻ではそうしたエルバ島におけるナポレオン(ポーランド人の愛人とイチャイチャなど)の姿、それに「会議は踊る、されど進まず」で有名なウィーン会議の情景を描いており、戦闘シーンはほとんどないのですが、唯一の戦闘シーンがドイツ・ハンブルグにおける戦闘でした。
 この時、ハンブルグはナポレオンの義弟であり最優秀とも言われる元帥のダヴーが守っていたのですが、なんと彼はフランスが降伏し、ナポレオンが皇帝を退位した後もこの町を占領し、守り続けていました。降伏を促されても「信用できない」と突っぱね続け、包囲軍が何度攻めても追い返すもんだから、最後は彼が信頼するフランス軍の将軍を差し向けて「任務交代」という形で引き下げたそうです。

 主君が既に負けていながらも、彼自身は負けずに戦い続けたこのエピソードなどからも、「不敗のダヴー」と呼ばれています。
 そんなダヴーについて巻末のあとがきで作者は、「まるで全人類が滅んだ後も戦いを続ける機械のような男だ。『時の行者』みたい」という風な感想を述べています。

時の行者(Wikiepedia)

 ここで出てくる「時の行者」ですが、これは「三国志」でお馴染みの横山光輝による歴史漫画です。何気に自分が初めて触れた横山作品でもあり強く覚えているのですが、この漫画は上記の説明の通り、人類が死に絶えながらも機械同士が戦いを続ける未来で、人類のほぼ唯一の生き残りである主人公の少年がタイムトラベルをして、安土桃山から江戸中期までの歴史事件に遭遇するという漫画でした。
 具体的に遭遇する事件は多岐にわたり、由比正雪の乱から天一坊事件、さらには紀伊国屋文左衛門とも接触する話もあります。漫画界のストーリーテラーとして名高い横山光輝なだけあって非常に読みやすいこともさることながら、歴史を特定の人物や国を中心に追いかけるのではなく、事件単位で追いかけるという展開が今思うとよくできている気がします。

 前述の通り主人公は未来人で、タイムトラベルを繰り返して諸々の事件に遭遇します。何度もタイムトラベルしていることから日本国内では「浦島太郎みたく時間を越えて現れる時の行者」と認識されており、実際に各話ごとに年代やステージが一新され、共通して出てくる登場人物は非常に限られてきます。
 前述の通り、この漫画は唯一共通する登場人物である主人公を通して、歴史を事件単位で追いかけています。そのため全体の歴史の流れこそ把握し辛いものの、印象的な事件などが深く掘り下げられて紹介しており、自分の歴史好きもある意味ここから始まっています。

 こうした話の手法は自分が知る限りは他にはなく、改めて見て凄い構成の仕方だったと思えてなりません。でもって、長谷川哲也氏もこの漫画好きだったんだなという事実にいろいろ感じるところがあります。

 漫画の「ナポレオン」の話に戻ると、残りはいよいよ皇帝復位、そしてワーテルローだけとなってきました。どういう風にこの過程を長谷川氏が描くのか、既に今の時点でかなり楽しみです。

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