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2021年1月5日火曜日

ハゲタカファンドはもはや死語?

 自分でもかなり不思議なのですが一昨日歩いている最中に突然、「そういえばトービン税って最近聞かないな」と思いつきました。

トービン税(Wikipedia)

 トービン税とは国境を越えた資金の移動に対する課税案のことで、現在のFX取引のような投機的な投資や野放図な資金運用を抑制するためになんとかトービンって人が考えたものです。イメージとしては他国の通貨を買うたびに税金が課せられるので、売買を繰り返す行為を抑制するとともに、腰の据えた長期投資に誘導する狙いがあります。
 このトービン税は00年代中盤くらいにグローバル化に抵抗するアンチグローバリゼーション運動の中でよく唱えられていました。当時は欧米の巨大資本が新興市場に大量の資金を突然投入する一方、これまた突然引き上げる行為が数多くみられ、それによって各地の金融相場が混乱するという一幕もみられたことから、そうした仕手筋ともいえる連中の行動を抑制するためにもトービン税の導入が唱えられていました。

 で、このトービン税がどれくらい影が薄くなっているのか確かめるため、さっそくこうしたワードの検索で意外と重宝するYahooニュース検索に「トービン税」とかけたところ、2件のニュースしかヒットしませんでした。しかもそのうち一つは山本太郎だし。
 と、ここまできてこれまた思いついたのですが、「ハゲタカファンドって最近聞かなくね?」と自分に問いかけるような感じでゴーストがささやきました。

 ハゲタカファンドとは先ほどのトービン税という言葉が流行った00年代中盤くらい、「ハゲタカ」と言われたらすぐ「ファンド」と忍者の符号っぽく答えなきゃいけないくらい当時流行した言葉です。意味としては破綻間際の会社の債権を購入してその支配権を握り、その会社が保有する資産を売却して現金を回収した後にバイチャッチャするようなファンドを指します。
 ただ途中から上記定義が拡大解釈されるようになり、村上ファンドなど普通の優良な会社に対し敵対的買収を仕掛け支配権を握ろうとするファンドも画一的に「ハゲタカファンド」と呼ばれるようになっていきました。当時の感覚で言えば、現経営陣と敵対するファンドすべてがハゲタカファンドとされていた気がします。

 そういうわけで再びこのハゲタカファンドという言葉でYahooニュース検索をしたところ、ヒット数はなんと9件もありました。トービン税より多い!ちなみに「ハゲ」なら538件ヒットします。

 マジな話、自分の肌感覚でもそうだし先ほどのYahooニュース検索の結果といい、ハゲタカファンドという言葉自体がもはや死語化していると言っても過言じゃないと思います。少なくともこの言葉を日常で耳にすることはこの5年間は確実に一度もなく、メディアの記事とかで目にすることもほぼありませんでした。でもって私ですらそうなのですから、他の人もほとんどないのではないかと推測されます。

 ここで記事を終えてもいいのですが、では一体何故作家の真山仁氏が小説書いて一時は定着させたハゲタカファンドという言葉は現代において消え失せたのか。その推測される理由を挙げてくと以下の通りです。

1、かつてはファンドの存在や活動が物珍しかったが今や一般化したから
2、アンチグローバリゼーション運動自体が消え失せたから

 1については先ほども書いた通り、00年代中盤はあらゆるファンドのことを一時ハゲタカファンドと呼んでいた時代がありました。当時はファンドの存在がまだ一般的でなく、どちらかと言えば怪しい職業だと思われメディアもそのように報じていたことから悪者扱いされていましたが、現代においてファンドの存在が一般化したことで「ハゲタカ」などと批判めいて呼ばれることもなくなったからという説です。

 次に真打の2についてですが、最初のトービン税にも関わりますが、アンチグローバリゼーション運動自体が消え失せ、ある意味その運動の最大の敵対者であったファンドを悪く言う人もいなくなったためというのがこの説です。
 何気にこの点は自分も先週くらいに気が付いたのですが、00年代は繰り返し述べているように、大量の資金が国境を越えた投機的な投資活動が各地の金融を混乱させていると激しく批判されていました。しかし現代、仮想通過への批判や規制は未だ強いものの、国境を越えた投資やファンドの存在は是認されているというか何も批判されなくなっています。それどころか、存在の必要性すら認められている節があります。

 こうした世論の転換が起きたターニングポイントは言うまでもなく2008年のリーマンショックでしょう。ある意味、それ以前のアンチグローバリゼーション運動が批判しつつ危惧していた状況というのがまさにリーマンショックで、そういう意味ではリーマンショックの発生はアンチグローバリゼーション運動の大願を果たしたとも言えます。
 しかしリーマンショック後、金余りの時代から金なし芳一ともいうべき時代に突入し、世界中どこもかしこも現金資金が足りなくなります。そこで飛び出たのがいわゆるヘリコプターマネー政策で、現在の日銀や米国のFRBのように、無制限に市場へ現金を供給することが世界各国で定石の如く運用されることとなります。現在各国の株価自体は現在、リーマンショック前よりも高い水準にあるものの、それでも「まだ足りない」という声が大多数であり、コロナ流行もあるしヘリコプターマネーは今後まだしばらく続けられるでしょう。

 こうした状況、具体的にはどれだけ現金が市場にばらまかれてもまだ足りないと餓鬼みたく叫ばれる状況において、「国際間の投機的な取引を制限しよう!」みたいなアンチグローバリゼーションの思想なぞ「宇宙人と仲良くしよう」的なトンデモ意見に見えなくもないです。
 ちょっと調べたところ、なんかコロナ流行に紛れてまたアンチグローバリゼーションを叫び出した人もいるようですが、はっきり言えばコロナとアンチグローバリゼーションは無関係もいいところだし、何もしなくたって国境を越えた資金や人の移動は今制限されるのだから、便乗もいいところでしょう。

 むしろコロナの影響から世界各国で景気、経済刺激策がどこでも求められていることから、投資があればどこも歓迎するだろうし、ハゲタカだろうがフサタカだろうがファンドが金を出してくれるなら誰も拒否しないでしょう。国家も含め。
 そうした背景を考慮すると、現代世界はヘリコプターマネーが定石と化し、国境を越えた資金移動に誰も制限を加えない、むしろ加速させようとしている時代にあるのではないかと思います。最近めっきりこういう国際情勢分析をやらなかったため久々に頭を動かす羽目となり、いまいち稼働の遅さを感じるのですが、00年代中盤の流行と比べるとまさに真逆の思想が大きく広がり、当然視されるようになったという印象を覚えます。

 その上で、ヘリコプターマネー政策の一般化によって、ようやく一部で事態が指摘されるようになってきましたが、現象としては知らず知らずのうちに経済の統制化がどんどん進んできているように思います。この一文で意味が分かる人は次に書く記事は読まなくても大丈夫です。自分もここまで書けば書く必要はないと思うけど、そのネタはJBpressでも使えそうなので一応書く予定です。

2 件のコメント:

ルロイ さんのコメント...

日本も買収される側だけでなく、中国や東南アジアなどで買収する側になるようになったのも1つのターニングポイントかなーと思います。
中国が急成長してインバウンドが日本に利益をもたらしたことで、更に認識が変わっていったようにも思います。
損得勘定で敵味方も変わるってことなのかなーと。

花園祐 さんのコメント...

 いつもながら見事なご指摘です。実際、リーマンショック以降から日系企業の海外企業買収が一気に増えた感じが自分もします。ただ郵政といい野村證券といい、大型買収は割とこけてて、当たりひき続けたのはソフトバンクくらいな気もします。電通なんか買収相手に逆に乗っ取られ始めてきてるし。