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2023年9月17日日曜日

自分の本質を見極める困難

 友人からとある自称進学校のプロモビデオが送られてきたので見ましたが、冒頭から生徒が「この学校では自己実現できます」と如何にも言わされているような感じで言っているのが痛々しい映像だなと正直感じました。それ以前に、自己実現という言葉を軽々に使用していることに強い違和感があります。っていうかカルト系サークルや新興宗教以外でも自己実現って言葉使う連中っているんだな。

 このように考えるのも、そもそもの話として実現以前として自分の本質を見極めることは非常に困難であると私は考えています。自分が何者であるか以前に、自分が何を求めているのか、それをはっきり自覚している人間というのはごく少数であるし、真に限られた存在であるとも考えています。

 こうした見方はいろいろな作品でも取り入れられており、ひとつ例を挙げると漫画「へうげもの」の中で秀吉から無理な命令を強要された際に主人公の古田織部が、「ああこんなことなら、もっと自分の本質を早く見極めておればよかった」と後悔するシーンがあります。少し解説すると、武士としては秀吉の命令を聞かざるを得ないのですが、風流人(数寄者)としてはその命令は絶対に受け入れられないものであり、齢40を超えながらも自分の将来を武士として生きるか、数寄者として生きるかを決めあぐねていたことからこの時に織部は大いに逡巡する羽目となります。この点、先に武士としての役目を降りていた織田有楽斎や荒木村重に対し、織部が羨む心情を見せることで対極的に動いています。
 もっとも最終的に織部は、秀吉から理解者になってほしいという懇願を受けてその命令を受けていますが。

 またもう一つの例として漫画の「ナポレオン」でもこうした自分の本質を見極めることの困難さを描いたシーンがあります。ナポレオンのロシア遠征の際、妻に不倫され人生の希望を失ったあるロシア人男性のセルゲイはほぼ自殺目的で志願兵となりますが、一次大戦以前の会戦としては最も戦傷者が多かったボロジノの戦いでも死なずに生き延びてしまいます。生き延びたセルゲイは不倫した妻と偶然出会い、最初はなじられるものの復縁を求められ受け入れるのですが、翌日にその妻は何か病気や怪我をしたわけでもなく、何故か亡くなっていました。
 この顛末についてセルゲイから話を聞いた老人は、ボロジノの戦いを生き抜いたセルゲイは本当は死にたいとは思っておらず、逆に復縁を求めた妻は後悔から死にたいと思っていたのが本音だったのではと述べ、「人の心というのは本人でもわからない、ましてや他人に至っては」と言ってセルゲイを慰めるのでした。

 このナポレオンの中のエピソードは小さいながらも非常に目を引くエピソードで、へうげもののエピソードと絡めると、自分の本心を理解することは本当に難しいと気づかされます。それを踏まえて言うと、自分の本心を理解しようとする努力を経ずに自己実現なんて言うのは、やはりおこがましいというか人生苦労していない人間の考えや発言だなと思え、軽々にいう言葉ではないと思います。

 などと自称進学校への批判をかましましたが、先ほど引用したナポレオンの最新巻ではこの自己の本質について再び振れる場面が出てきます。

 先月末に発売した最新巻は、一つ前の巻がワーテルローの戦いの前半であったことから今回で最終巻になるかと思っていましたが、敗戦後のナポレオンの退位までが描かれ、まだ物語は続いていました。この巻ではワーテルローの戦いの後半が描かれており、如何にナポレオンが凡ミスを連続して敗戦に至ったかが描かれていてこの点だけでも非常に読みごたえがありましたが、敗戦後に前線を指揮したフランス軍元帥のネイとナポレオンの会話がまた短いながらも見ごたえがありました。

 ナポレオンに会うなり敗戦の責を謝罪するネイでしたが、ナポレオンまずネイを労い、指揮官として不足する点はあったかもしれないが、敗戦の責にはそんなネイに指揮を任せた自分にあると語り掛けます。ただこの敗戦によって勢いづいた連合軍や王党派は自分たちからすべて奪い取っていくだろうと述べ、それには地位も、財産も、称号も、そして命すらも含まれるかもしれないと話します。
 ここで作者の長谷川哲也氏の見せ方のうまさというか、惹きつけるセリフが描かれています。

ナポレオン「だが奪えないものもある。
君がロシアで生還したとき、俺は君を『勇者の中の勇者』と呼んだ。
勇敢さは奪えない、それが君の本質だから
ネイ、お前は今でも勇者だろ」

 解説によると、これがナポレオンとネイの最後の会話だそうです。この後、歴史でネイはナポレオンの加担を理由に銃殺刑となりますが、執行の際に目隠しの布を渡された際に拒否し、「俺がこれまで銃弾の中を駆け巡っていたことを知らないのか」と述べたとされており、この場面が漫画でどのように描かれるのか今から楽しみです。

2 件のコメント:

上海熊 さんのコメント...

昭和秀英は進学校なので自己実現できる子は多そうな気がします。

花園祐 さんのコメント...

 自分の頃は素材のいい子だけ受験テストで集め、落ちこぼれた子はガチで放置する学校でした。まぁ今は違うかわからんけど。