最近現場から離れてめっきり中国経済をチェックしなかったのを反省して少し本腰入れてこれまでに出ている経済指標を細かくチェックし直しておりましたが、ほんと今まで全く気づいていなかったのですが私の知らないところで遼寧省のGDPがマイナス成長していました。
・一季度GDP排行出炉:东三省仍垫底 辽宁首现负增长(中国経済網)
・辽宁经济增速连续第二个季度负增长 短期转正无望(鳳凰網財経)
リンク先はどちらも中国語のニュース記事ですがその内容はというと、遼寧省の第1四半期GDP成長率が-1.3%、上半期も-1%というマイナス成長を記録したことが報じられています。なお地方別GDP成長率でマイナスを記録したのは遼寧省だけで、このニュースはメディアの反応を見る限りだとかなり衝撃的に受け止められているようです。
一体何故、遼寧省だけがマイナス成長となったのか。いくつか出ている報道の中には中央政府から派遣された査察官が厳しくチェックしたことによりこれまでのように成長率を水増しすることが出来ず、逆に今まで水増ししていた分が足かせとなってマイナスとなったという指摘が出ている辺りは中国らしいです。
ついでなので解説しておきますが、中国の全国GDP成長率は北京の中央政府によって測定されるのに対し、地方別のGDP成長率は各地方の統計局が測定して出されており、地方政府は自分たちの功績を高めるためにこの値を水増ししていることはほぼ間違いありません。根拠としては発表された地方別のGDPの合計を出すと全国のGDPを毎年上回っているためで、「これは俺が初めて指摘してやったんだぞ!」と、新聞社時代の上司が自慢げに言ってたのを「はいはい」って聞き流していました。逆を言えば、全国のGDPはある程度の誤差はもちろん存在するかもしれませんがそれほど大きくは弄られてはいない一方、地方別のGDPは弄られている可能性が高いと言え、よく中国の統計発表は信用できないと言われますが全国GDPはそこまで疑わなくてもいいのではと私は考えています。外資系シンクタンクも一応予測してるんだし。
話は本題に戻りますが、遼寧省がこれまで数字を弄っていたのがばれたから今回マイナス成長に陥ったと見ることもできますが、実態としても遼寧省を含む中国東北地方の経済状況は悪化しているように見えます。
その理由はいくつかの記事でも指摘されていますが、遼寧省は石炭や鉄鋼といった重厚長大な大規模重工業産業が中心の地域で、現在世界を覆っている製造業全体の不況の直撃を受けていることは疑いようもない事実です。特に、もはや「中国経済の癌」といってもいい鉄鋼業の業績悪化は大きく、中国国内でも屈指の鉄鋼メーカーである鞍山鉄鋼を始め財務諸表を見るだに胃が痛くなるような惨憺たる真っ赤な業績を各社揃って叩き出しています。
またこれは私の視点ですが、遼寧省を含む東北地方には政府が所有権を持つ国有企業が多いことも要因として大きいのではないかと思います。国有企業は現在、日本語で言えば親方日の丸体質が影響して非効率な経営や設備の老朽化によってどこも経営がおかしくなっており、中国政府も民営化を含めた国有企業改革が喫緊の課題だと述べ対策に乗り出していますが、今のところ大きな効果はまだ出ていません。
・经济负增长,东北人幸福感并不低(新京報)
上は今回調べている最中に見つけたニュースですが、マイナス成長ではあったものの東北地方居住者の平均収入、消費額は落ちるどころか上昇を続けており、幸福感も低くないということを報じています。この記事を見てどう思うかは人それぞれでしょうが私としては「あかんなぁ」と思える記事内容で、その理由はというと企業業績が落ちているにも関わらずリストラが全く行われていないのではと思えるからで、日本の「失われた十年」こと1990年代が頭をよぎったからです。
これらの報道を総合するに、遼寧省では経済の構造転換が進んでおらず国有企業改革もうまくいっていないからマイナス成長となったのではと私はみています。構造転換の必要性は中国メディアも厳しく指摘しており取り組むべき課題はしっかりと認識できているものの実行にはまだ至れておらず、端的に言えば非常によくない状況だという気がしてなりません。
一応、遼寧省大連市なんかはソフトウェアパークを作ってIT産業を盛り上げようと頑張ってはいますが、日本もかつて同じ失敗してますが二次産業の売上高を三次産業で埋めようったって規模が違うためそうは簡単にはいきません。なおそのソフトウェアパークには日系企業も数多く進出しており、旧満州に含まれる遼寧省全体は日本にとっても非常に重要な中国の進出先であるためこのGDPマイナス成長のニュースはもっと日本でも報じられてもいいと思うのですがあんまり報じられてなかったのか私もチェックしきれていませんでした。なんで報じひんねん。
なもんだから自戒を込めてこうして記事書いて紹介しようと思ったのですが、最後に中国の今の景況感について述べると実は掴み辛い環境に自分は置かれているなとこのところ思います。というのも今、サービス業界に身を置いていて製造業を始めとした不況の影響を全く受けない立場にあり、社内においてもそうした景況感が反映され辛くいまいちピンと来なかったりします。
一方で、自分のセンサーというか社会に対する感覚は年々その鋭さが増しており、内心やばいんじゃないかと思うくらい細かい核心的な情報をかっさらうかのように拾ってくる回数は増えています。なのでちょっと中国経済ニュースに対して勘は鈍っているもののすぐに追いつくだろうという妙な確信を持っており、今日書いたニュースもそういった方面の何かのきっかけだろうなと考えています。
補足
ふと疑問に感じて調べてみましたが、日本って都道府県別GDP成長率の四半期ごとの統計を出していないようですね。よく中国のデータが捏造だなんだいいますが、自分もデータ出してから言えよってちょっと思いました。アジア人は総じて統計に弱いとはいえ、頑張る努力位は見せてもらいたいものです。
2 件のコメント:
最近ハルピンに、汚水処理関係の仕事で、行ってまいりました。確かに東北三省は、今大転換を要するのかなという印象と、江蘇省や、広東省とは全く違い、未だ、日本への「出稼ぎ」希望者が多いという(それだけ貧しい)印象を受けました。中国は広い!!?
コメントありがとうございます。
東北三省は北京上海と比べるとまだまだ遅れている面もありごもっともで、日本に対する意欲なりモチベーションは高いのも自然でしょう。逆に、コメントを見て思いましたが最近の北京や上海では以前ほど日本語の需要が高くないように思え、中国の大都市の人間からしたら日本はもはや「稼ぎどころ」ではなくなってきているのかもしれません。
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