先日書いた記事で私は、中国人の同僚から最近中国人はあまり映画を見なくなったという話を聞いたことを書きました。この週末でも実際のところどうなのかと調べてみようと思った矢先、上記リンク先にある原文は英語の、恐らく米国発の記事でその詳しい実態が紹介されてました。
その内容によると、今年これまでの中国における映画興行収入は前年比で22%減と大幅ダウンしており、さらにコロナ前のピーク時に当たる2019年比では38%減にもなっていたそうです。この数値一つだけとっても中国人が最近映画を見なくなったと言い切ることができるでしょう。
この背景について記事では、長引く不況によって若者が失業するなどして所得が減り映画を見に行く機会が減った、中国当局による作品の検閲を主な理由として挙げています。また投資として見ても最近の不振ぶりから、二番目の検閲もあって中国国内制作のヒット作が不足しており、エイリアンとかクリーチャー系ばかり売れていることが書かれてあります。
上記の分析については私も特に異議はなく、要因としては確かに入ってくると思います。もっとも中国当局の検閲に関しては想像されているよりかは緩いという風にも思っており、以前にも書きましたが「非科学的なもの」が検閲対象だと言われていますが、実際のところは「中国共産党批判があるかないか」が検閲のポイントで、先ほどのエイリアンとかも「宇宙人」というカテゴリーに入れるなら全く問題なく通してくれます。ポケモンとかもどうも宇宙人カテゴリーで通してるらしいし、宇宙人便利すぎ。
その上で恐らく普通の人が指摘しない中国人の映画離れ理由を敢えて私の方から挙げると、一番大きいものとしてTikTokなどのネットでのショート動画の隆盛だと思います。またショート動画に限らず、中国人も映画を自宅でネット配信で見ることが増えており、映画館まで足を運ばなくなってきています。これは日本でも同じ傾向だと聞きますが、中国の方がその程度はさらに激しいとすら感じます。
上記原因は比較的はっきりと関連性があると言い切れるまともな原因ですが、さらに敢えてほかの人間は指摘しないだろうけど、見えないところでじわじわと中国人を映画から遠ざけている背景理由として、海賊版DVDの摘発も大きいのではないかと私は睨んでいます。
大体2018年くらいだったと思いますが、上海で国際映画祭が開かれるのに合わせて市内の海賊版DVD屋が一斉に摘発されました。当時は国際映画祭が終わればまた再開するだろうと思っていたのですが、その後も摘発は続き、当時摘発されて建物ごと破壊された海賊版DVD屋は今でもがれきがそのまま残されたままとなっており、その他の店も完全になくなっています。
ネットでの海賊版配信は恐らくまだあるのではないかと思いますが、少なくともDVD形態の海賊版は今や中国から、地方都市ならまだあるかもしれないけど、大都市においてはもはや絶滅した状態にあります。かつては中国土産として一番重宝されていた海賊版DVDでしたが、叩き潰されるのは本当に一瞬でした。
その海賊版ですがもちろん版権者からしたら噴飯物な行為だったでしょうけど、こと映画ファンの開拓という意味では見えないところで大きな役割を果たしていた気がします。最新作はまだしも、旧作品などはネットで意識して検索しなければまず目にかかることはないのに対し、DVDであれば棚にあれば目に入り、手に取り、視聴する機会も得られたでしょう。
特にマーブル映画をはじめとする続き物では、前作を見ているかどうかが非常に重要となります。そうした草の根的な映画ファンや、旧作の開拓という点で海賊版は違法行為ではあるものの、映画産業全体で見たらファン層開拓という下支え的な役割を果たしていたと私は考えています。
この点について実際に昔取材したバンダイとかソニーの人も、海賊版の動画やゲームについてソフトウェア部門ほど意外と寛容的な姿勢で、「無料で見られるからこそファンも作品に触れ、その後プラモや続編作品を買ってくれるようになる」と話していました。そのためバンダイなんかは、日本国内では無料配信しないガンダムのアニメを、中国ではあえて無料配信したりしていました。
映画に関しても、というよりコンテンツ作品故にその入り口を開けるという点でも海賊版は意外と重要だったという気がします。もしそうだとしたら非常に皮肉ですが、海外の映画業界が散々批判してきた中国の海賊版がいざ実際に取り締まられるや、逆に彼らの食い扶持を減らすこととなってしまったのが今の状態かもしれません。
無論、私は海賊版の氾濫を支持する立場ではないし、コンテンツに対してはやはりお金を払うべきだとも常々考えていますが、映画のように消費者に見る習慣をつけさせることが大事なコンテンツ作品においては、身を切るような感じでコンテンツをどこまで無料で開放するかが意外に重要だとも考えています。
この点、漫画なんかは最近だとウェブで3話くらいまでは無料公開することが当たり前のようになっており、私もその姿勢が正しいと考えています。映画も難しいでしょうが、旧作に関しては画質を落としたバージョンとかでもっと無料で公開するのも手かもしれません。
そういうわけで週末となる明日には、また朝から映画見に行く予定です。そろそろ受け付けのおばちゃんに顔覚えられてきたかもしれない。
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