クローズアップ2010:障害者郵便割引不正 村木元局長無罪 暴走した特捜部(毎日新聞)
一昨日の大阪地裁にて、実態がないにもかかわらず障害者団体を名乗りダイレクトメールの郵便料金割引を不正に受け取っていた「凛の会」の郵便不正事件において、この団体に障害者団体の証明書を偽造、発行したとして容疑がかけられていた厚生労働省所属の村木厚子元局長に対して無罪判決が下りました。この事件の私の感想はというと、首を吊るべき人間は二人、といった所です。
障害者団体向け割引郵便制度悪用事件(Wikipedia)
ちょっとこの事件はややこしいので、私の理解の範囲で簡単に概要を説明します。
まず事の起こりは「凛の会」が偽の障害者団体であったにもかかわらず郵便料金の障害者割引を受け取ってダイレクトメールを送っていた事がばれた事からでした。このダイレクトメールには「凛の会」を通してベスト電気など一部の業者が自社広告を混ぜていたことから、斡旋を行っていた広告代理店の博報堂子会社の関係者共々処罰を受けております。なおこの期末に博報堂では本来支払うべきであったにもかかわらず支払っていなかった郵便料金を「特別損失」として計上したことに一部でツッコミを受けてました。
こうして不正が明らかになった後、そもそもどうして実体がないにもかかわらず「凛の会」が障害者団体として郵便料金の割引が受けられたのかについて検察内で捜査が進められ、その結果、詳細は現在も続けられている厚生労働省元係長の上村勉氏の裁判が終わるまではっきりしませんが、厚生労働省が「凛の会」に対して発行した障害者団体証明書が割引を受ける決め手になったと結論付けられました。
このため捜査は厚生労働省へ焦点が向けられるようになり、先ほどの証明書発行を行った上村氏が逮捕され、その上村氏に上司として証明書発行の認可権限を持つ村木氏も捜査線上に浮かんだ事から逮捕されました。なお村木氏が逮捕された決め手となったのは発行された証明書が村木氏の名義で発行され、またその決済を行うための稟議書も見つかった事からでした。
しかし逮捕された村木氏は捜査段階から一貫として容疑を否認し、また先に逮捕された部下の上村氏も捜査段階で村木氏の指示を受けて証明書を発行したと供述したものの村木氏の裁判にて証人として立った上村氏はその供述は検察によって作られたもので、証明書は上村氏一人によって偽造されたもので(村木氏の名前を上村氏が勝手に入れた)村木氏の指示は一切受けていなかったと証言しました。
この後裁判では検察の杜撰な捜査内容が次々と明らかになり、なんと検察が提出した43通の調査書のうち34通が証拠として不採用となるという前代未聞の事態にまで発展し、下馬評どおりに一昨日に無事無罪判決が下りたというわけです。
私はこの事件で村木氏への捜査が起こったのが去年の参議院選挙直前で、しかも偽の障害者団体「凛の会」へ障害者団体証明を発行するよう厚生労働省に口利きを行った政治家として当時報道された(検察のリークだろうが)のが民主党の石井一議員だったことから、恐らくこの事件は自民党が選挙戦を考慮して行った国策捜査だろうと見立てて初めから村木氏は冤罪の可能性が高いと見ていました。ただこの公算は一部間違えていたようで、捜査内容の杜撰さを考えると恐らく自民党の人間は誰も糸を引いておらず、大阪地検特捜部が勝手な妄想から捜査を行って村木氏の大切な時間や生活を大いに奪った事件だったようです。
今月の文芸春秋にて村木氏本人が判決前の手記を載せておりますが、読んでみると改めてこの事件がどれだけ杜撰なものか見ていて呆れ返ってきます。
一から挙げたら切りがないので幾つかだけを紹介しますが、何年も前から村木氏がいつどのような場所で誰と会うのかを詳細につけていた手帳に証明書を手渡した(通常は郵送であるが、これも検察が「手渡した」ことにした)とされる「凛の会」の代表者の名前が載っていなかった事について聴取を担当した國井検事は、代表者がアポなしでやってきたということにしようと村木氏を説得したそうです。
さらにそもそもの発端である「凛の会」の代表者が石井一議員に口利きを依頼した日についても、当初検察が主張した日(代表者が聴取中に証言した日)に石井議員はゴルフに出かけており、ゴルフ場にもはっきりと記録が残っていて事実上会うことは不可能だったと石井氏本人が承認となって裁判に証言しました。すると検察は何を考えたのかすでに捜査が終わっている代表者に再度聴取を行い、「石井氏に会ったのはその日じゃなかったかもしれない」という証言を得た調書を裁判の途中にもかかわらず提出してきたそうです。さすがにこの調書は裁判所も受理しなかったそうですが、自分らが不利になるや証言を平然と変えるこの検察の行動には私も空いた口が塞がりません。
今回この村木氏の手記を読むにつけ、やはり村木氏自身が只者ではないと感じました。普通の人間ならば逮捕、拘禁されたら結構弱るものなのですが、検察の聴取に対しても私が見る限りだと村木氏は毅然と対応し、何度となく検察から自ら作り上げた妄想のようなストーリーの調書にサインするよう求められながらもきちんと拒絶してます。さらには拘置所内のラジオで阪神戦が放送される事から阪神の選手名鑑を差し入れてもらい、ちゃっかりイケメンの能美選手にファンになってたりと。
今回のこの事件で村木氏は実に163日も拘禁されております。拘禁される以前から多忙で知られ当時の桝添厚生労働大臣に「(逮捕が)非常に残念」とまで言わせたほどで、本人も手記で述べていますがやるべき仕事が残されていたにもかかわらずこのような事件に巻き込まれその失望たるや大きなものでしょう。
それだけに今回の杜撰な捜査内容といい聴取中の態度といい、検察の側からきちんと責任者を処罰する必要があると私はとみに思います。今回の文芸春秋の記事できちんと実名が挙げられているので私からも紹介しますが、まず村木氏を最初に聴取した遠藤裕介検事については村木氏も「常識的な取調べだった」と述べており、また村木氏の要請に応えて調書の訂正に応じるなどまだまともな人だと思えますが、遠藤検事の次に聴取を担当した國井弘樹検事については村木氏の証言が本当だとすれば公職につくべき人間ではないでしょう。
村木氏によると國井検事は村木氏が述べてもない内容をことごとく調書に盛り込んでは、関係のない会話同士を勝手に繋ぎ合わせて勝手な証言を作るなどしていたそうです。因みに上記の「凛の会」代表者がアポなしで村木氏から証明書を受け取ったという作文を作ったのも國井検事だそうです。
人間誰しも間違いはあります。しかしこの事件についてはあってはならない間違いを幾重にも起こし、またそれに気づくチャンスがいくつもあったにもかかわらず見逃している事から、私は上記の國井検事、並びに一連の事件の捜査で主任を務めた前田恒彦検事は早々に検察という職から離れるべきではないかと思います。何も辞めることが責任を取ることだというつもりはありませんが、少なくともこんな杜撰な捜査をする人間はこんな職に就いていてはいけないと強く思います。
最後に同じく国策捜査で巻き添え食った佐藤優氏がこの事件についてコラムを書いていますが村木氏について、無罪となったのは運がよかったからだ、と述べています。私もほぼ同感で、もし上村氏が供述を翻さなかったら、石井氏のスケジュールの確認が出来なければと考えると不安に思う案件でした。
その上で佐藤氏は、証明書の偽造がどうして行われたかについてまだはっきりしていないと指摘しており、私としても今後の上村氏の裁判での供述をしっかりと見守る必要を感じます。
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