さてそのアンダースローですが、日本プロ野球史上で最高のアンダースロー投手と言ったら間違いなく元阪急の山田久志氏をおいてほかにいないでしょう。通算284勝という記録もさることながら、引退後も監督としてはしょっちゅう球団の人間と喧嘩して揉めることが多かったものの、投手コーチとしては多くの名プレイヤーを育てるなど地味に大きな功績を上げています。また彼がアンダースロー投手として大成したことにより、このフォームで勝負する後進投手が少なからず生まれており、その点で持っても重要な役割を果たしています。
逆に、史上「最低」のアンダースロー投手ときたらこちらも間違いなく、元ロッテの渡辺俊介氏が挙がってくるでしょう。何故かというと、彼のボールのリリースポイントは地上約3㎝という超スレスレだからです。
谷繁(Tanishige)氏も言ってますが、渡辺氏のアンダースローは普通のアンダースローと言っていいかとなると、やはり異なっています。というのも渡辺氏の場合、足を大きく地面につけるように広げた上に、前述の通り地面スレスレでボールを投げつけるという投げ方で、他のフォームと違ってアンダースローのリリースポイントは確かに低いものの、渡辺氏のリリースポイントはそれを遥かに下回るくらい低くく、真似しようと思っても実はほとんどだれにも真似できない特殊なフォームだからです。
その渡辺氏がなんでこんなフォームになったのかというと、中学時代に投手として同じチームでも三番手と芳しくなかったことから、父親より特殊なフォームに逃げるしかないと言われて始めたのがきっかけです。また渡辺氏は体が柔らかかったことから、ああいう風にべたっとした投げ方に至ったそうです。
ただフォームを変えたからと言ってすぐ成功したというわけではく、高校でもエースになれず、大学でもそこまで目立つ選手出なかったのですが、ある日の試合で好投していたところ、たまたま来ていた新日鉄君津の監督が興味を持ったことから、社会人野球へと進むことになりました。
なお新日鉄君津の監督が興味を以って大学の監督に話を持ち掛けたところ、「あいつは今日たまたま好投しただけだ」と、なんか否定的な評価されたそうです。もっとも本人も著書で、「確かにたまたま好投していた」と認めていますが。
その新日鉄君津の監督は「たまたま」という言葉を受けても、そのまま渡辺氏を獲得するに至っています。なんでも、矯正すべきポイントを見抜いており、そこを直せばよくなると当時から考えていたそうで、実際にその指導を受けたことで渡辺氏は社会人時代にメキメキと実力を高め、当時ジャイアンツにいた清原氏からもいつかプロに上がってくると思わせるようになりました。
その後見事ロッテに入団したものの、入団から数年は目立った成績を上げられず、このままならクビというところまで一時追い込まれたそうです。ただラストチャンスとまで脅された試合で、キャッチャーは二軍時代から付き合いのあったザキこと里崎氏だったこともあって好投し、それ以降は緊張が解けたのかその特殊なフォームと相まって安定した成績を残すようになっていきました。
もっとも一時期はムエンゴ病にかかり、好投すればするほど野手が点取ってくれない時期がありましたが。
この渡辺氏については冒頭の山田氏も同じアンダースロー投手としてやはり気になったのか、折に触れてアドバイスし、特に「外角高めスレスレに落ちるシンカー」を身に着けるようアドバイスしたことは、渡辺氏も決め球になったと述懐しています。なお渡辺氏のシンカーはそのフォームと投げ方からガチでジャイロ回転していたとされ、実際にその試合で投げるストレートよりも速い球速を出すこともあって、打者からしたらストレートと区別つかなかったと思います。
なんでこんな記事書いたのかというと上のアエラの記事で久々に渡辺氏の名前を見たからです。何気に現役時代、自分も凄い好きな選手で、その著書の「アンダースロー論」も何度も読み返しています。
個人的に渡辺氏の経歴を見ていて、彼はいわゆる野球エリートではなく、むしろ落ちこぼれに近い経歴を経た上で球界を代表するアンダースロー投手となっていることに興味を覚えました。その上で、要所要所で選手生命の危機ともいうべきピンチに迫られていますが、その度に何らかのテコ入れをして実力を高めている節があり、彼を見ていると困難は人を強くするものだというのをまざまざと感じます。
もし元プロ野球選手の誰かに会うことができるとしたら、自分は恐らく渡辺氏に会ってみたいというでしょう。私自身も彼の生き様を見ていろいろ影響を受けたと感じたし、そのアンダースローに賭けた人生について伺ってみたいこともたくさんあります。
なお他にも会って話をしてみたい選手ときたら、やっぱり赤星氏かなぁ。個人的には同じ野村監督の教え子で一番打者同士である飯田氏と赤星氏の対談とかも見てみたいんだけど。
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