サンプル対象を大幅に増やした2015年1月時の調査データを下記記事にアップロードしました。
・人材派遣業界のマージン率 2015年版
記事本文
今週は一昨日の水曜日にこのブログの更新をサボりましたが、サボった理由は「真・三國無双7」で関銀屏を使い遊んでいたからではなく(むしろ王元姫)、ちょっと仕込みというか孤独に取材を行っておりました。その取材内容というのも見出しに掲げた、派遣企業各社のマージン率についてです。
2008年のリーマンショック直前は日本の全体景気も上向いていた頃で格差議論もかまびすしく、人材派遣会社のマージン率を欧米の様にきちんと公開するよう義務付けるべきだという主張が派遣労働者による団体などによって叫ばれていました。もっともその後にリーマンショックが起こって派遣もへったくれもないほど雇用が減ったことから降雨言った格差議論は急速にしぼんだわけなのですが、結局あの議論はどうなったのかと、「全共闘の時代であれば大活躍していた」と、リアクションに困る誉められ方をリアルにされた私なだけに、先週のあるに日ふとこの件がどうなったのかと気になったわけです。
気になったが最後、大人しそうな見た目と裏腹に行動力とバイタリティが半端ない自分なだけに早速調査に入ったのですが、調べてみたところ下記のサイトで説明されているように一応公開が義務付けられていたようです。
・派遣労働者・労働者の皆様(厚生労働省)
上記サイトの情報によると派遣労働法が改正されて、人材派遣企業各社は事業年度ごと、各事業所別にその年の派遣マージン率の合計平均を算出、公開するよう定められております。この場合の派遣マージン率の定義は下記の通りです。
・派遣料金:人材派遣を受ける企業が人材派遣会社に支払う額
・賃金:人材派遣会社が派遣社員に支払う額(=派遣社員の実質受取額)
・マージン額:派遣料金から賃金を差し引いた額(=派遣会社の受け取り分)
・マージン率:マージン額÷派遣料金
この中で注意が必要なのは「マージン額」で、イコールで派遣会社の受け取り分と説明こそしていますが、派遣会社はこの中から派遣社員の有給取得費用や研修費といった経費を捻出するため丸々派遣会社の粗利となるわけではありません。
以上を踏まえてモデルケースを出すと、派遣料金が月額30万円でマージン率が30%だとこうなります。
・派遣料金:30万円
・マージン率:30%
・マージン額:9万円
・賃金:21万円
我ながらくどい気もするけど、一応こういうことも説明しておかないとフェアなじゃない気がするので簡単にまとめました。まぁ後述する皮肉の為でもあるんだけど。
というわけで本題に戻りますが、じゃあ人材派遣のマージン率は具体的にどのくらいで行われているのか、実際に調べてみました。調査方法はランダムサンプリングも兼ねてネットでマージン率を公開している人材派遣会社を片っ端から調べて記録し、その結果を下記のリストにまとめました。
サンプル数は50件。テンプスタッフとインテリジェンスの2社は大手であるため全国各地に営業所を構えており、ぶっちゃけ全部調べるのが面倒だったので首都圏の事業所のみをピックアップして調べました。それでは。早速その結果をお見せしましょう。
<事業所別マージン率調査結果>
派遣事業所 | マージン率 | 派遣人数 (1日平均) |
派遣先 |
宇部情報システム | 50.4% | 23 | 3 |
ビット | 49.4% | 19 | 5 |
インフォテック | 46.6% | 3 | 5 |
セゾン情報システム | 45.5% | 非公開 | 非公開 |
富士通エフサス・クリエ | 35.3% | 427 | 376 |
AGS | 34.1% | 7 | 3 |
インテリジェンス新宿第二オフィス | 33.5% | 459 | 33 |
インテリジェンス新宿オフィス | 33.0% | 3401 | 2205 |
エスエス産業 | 31.6% | 50 | 25 |
クレスコ | 30.9% | 非公開 | 非公開 |
NCI | 30.7% | 102 | 14 |
富士ソフト | 30.2% | 345 | 122 |
ガレネット | 29.9% | 144 | 11 |
APAユアーズ | 29.8% | 非公開 | 非公開 |
インテリジェンス横浜オフィス | 29.4% | 238 | 237 |
テンプスタッフ西新宿オフィス | 29.0% | 43 | 37 |
スタッフクリエイティブ東京営業所 | 28.6% | 99 | 42 |
スタッフブレーン | 28.6% | 非公開 | 非公開 |
ケービックス大阪支社 | 28.4% | 115 | 26 |
日本アシスト | 28.3% | 165 | 37 |
ブライズ | 27.9% | 391 | 151 |
三井住友トラスト・ビジネスサービス | 27.1% | 1205 | 227 |
ジョブコム本社 | 26.4% | 519 | 360 |
ATアクト | 26.1% | 非公開 | 非公開 |
テンプスタッフ昭島オフィス | 26.1% | 137 | 79 |
テンプスタッフ吉祥寺オフィス | 25.5% | 270 | 128 |
テンプスタッフ調布オフィス | 25.0% | 646 | 495 |
スタッフクリエイティブ野田営業所 | 24.8% | 63 | 24 |
ケービックス本社 | 24.8% | 347 | 256 |
テンプスタッフ町田オフィス | 24.8% | 152 | 106 |
テンプスタッフ立川オフィス | 24.7% | 499 | 238 |
ジョブコム東京支社 | 24.7% | 430 | 281 |
ジョブコム福岡支社 | 24.6% | 58 | 35 |
テンプスタッフ八王子オフィス | 24.1% | 203 | 114 |
テンプスタッフ自由が丘オフィス | 24.1% | 171 | 120 |
テンプスタッフ新宿オフィス | 23.6% | 3555 | 3402 |
テンプスタッフ北千住オフィス | 23.6% | 78 | 59 |
テンプスタッフ板橋オフィス | 23.5% | 162 | 89 |
テンプスタッフ池袋オフィス | 23.5% | 1199 | 627 |
テンプスタッフ渋谷オフィス | 22.8% | 1823 | 1024 |
テンプスタッフ上野オフィス | 22.5% | 505 | 322 |
テンプスタッフ大森オフィス | 22.5% | 235 | 136 |
テンプスタッフ錦糸町オフィス | 22.6% | 283 | 163 |
テンプスタッフ品川オフィス | 22.4% | 2189 | 1107 |
テンプスタッフ丸の内オフィス | 22.2% | 4492 | 2560 |
テンプスタッフ世田谷オフィス | 22.2% | 107 | 39 |
スタッフクリエイティブ京葉センター | 20.9% | 105 | 25 |
スタッフクリエイティブ新松戸営業所 | 19.4% | 10 | 4 |
キャリアコントラクト | 18.8% | 34 | 8 |
ケービックス東京支店 | 18.6% | 238 | 74 |
インテリジェンス丸の内本社 | 0.0% | 59 | 1 |
インテリジェンス八重洲三義ビルオフィス | 0.0% | 35 | 49 |
・最大マージン率:50.4%(宇部情報システム)
・最低マージン率:18.6%(ケービックス東京支店)
・マージン率平均値:27.9%
注1:各社が公開しているデータは最新のものであるものの、各事業年度ごとに公開しているため統計時期に関しては各社で異なっている
注2:末尾のインテリジェンス系列の2事業所はマージン率が「0%」と発表していた。恐らく社内とかグループ内での派遣などではないかと思うが、今回の調査目的上からして例外的な対象と考え、平均値などには含めず別枠に置いてある。サンプル数はこの2つを除いて合計50件。
<解説>
以上が今回の簡単な調査結果です。姉妹サイトの「企業居点」を見てもらえば感じ取ってもらえるでしょうが、この手のデータ調査や収集に関して私は文字通り鬼のような執念と集中力を発揮するものの、今回はちょっと思うところがあってサンプル数は幾分控え目です。本気でやれば最低でも200件は集めたでしょう。
<マージン率の平均値>
データの解説に移りますがまず一番重要な指標と言えるのはほかでもなくマージン率の平均値で、これは27.9%という結果が出ました。実際に自分でも調べていた実感では20%代に数値が集中しており、派遣会社や派遣業種によってばらつきはあるものの20%代であればまだ一般的な水準にあると言え、大まかに言って逆に30%を超えるとなるとややマージンが高く、20%未満だと良心的と言えるかと思えます。ちなみに今回調べた大手2社ことテンプスタッフとインテリジェンスでは、前者がすべての営業所で22.2~29.0%内の範囲に収まったのに対し、後者の3営業所は29.4%、33.0%、33.5と前者を上回る結果となりました。ここまで有意に差が出てくれると比較のしようもある。
<事業所別のマージン率の差>
次に気になるのはマージン率の最大値と最低値と言いたいところですが、実際はあんま比較する価値はないと見ています。既にそれぞれの数値は上に記してありますが、マージン率が上位の派遣事業所は企業名からしてどこもITエンジニアを専門としてそうな業者が多く、こうした業種だと派遣社員への研修に金と時間がかりそうなのでマージン率もほかよりやや高めとなるのもまだ理解できます。更に言えば、派遣業種別にマージン率を細かく見なければこの手の実態というのはあんま見えてこないでしょう。私の勘ではITエンジニア、介護系、工場作業の三業種でそれぞれ比較できたら楽しくなる気がします。
あと事業所の規模の大きさはマージン率に影響するかどうかですが、1日当たりの平均派遣人数を比較する限りだと大きかろうが小さかろうがそんなに相関してなさそうです。それよりもやっぱり派遣業種と派遣する地域の方が影響がありそうで、さすがにそこまでの細かいデータはどこも公開していないのでまた法改正でもしてくれないかななどと内心思ってます。
<雑感>
以上が簡単ではあるものの私の調べた派遣マージン率に関する調査結果です。今回調べてていくつか気になった点を述べると、どことは書きませんがリストに載せたある1社がマージン率と賃金率を逆にして書いており、「マージン率:71%」みたいな書き方をしていました。最低限の国語力すらもっていない人間にこういう資料を作らせた上に公開するなんて、まぁあまり見られた会社ではありませんね。
次にこれは真面目な話ですが、今回の調査では人材派遣会社大手としてテンプスタッフとインテリジェンスの2社のデータを引用しておりますが、これは逆を言えば大手ではこの2社しかまともなデータの公開をしていなかったということです。ここは遠慮なく書いてくと、具体的には以下の大手企業は少なくとも私が調べた限りだとネット上でマージン率を公開しておりません。
<マージン率を公開していない大手企業>
・フルキャスト
・メイテック
・ニチイ学館
・リクルートスタッフィング
・毎日コミュニケーションズ
・アデコ
・パソナ
・スタッフサービス
こういってはなんですが、小さい派遣会社なんかはまだこの手のデータを公開しない不手際も多少は許されると私は思います。しかし実際には上記リストにあるように割と小さい会社もちゃんと公開してますし、そもそもマージン率の公開は法律できちんと定められた義務であるし厚生労働省の指針でも「ネット上で誰でも閲覧できるように」と書かれてあります。にもかかわらず、ここに挙げた大手企業はその責任を果たさずにマージン率を公開せず、私の様に調査をする人間の妨害をするなど非常に腹立たしく無礼極まりないことを平気でやらかしてています。ご丁寧なことに、スタッフサービスに至っては「最寄りの営業所に電話でご確認ください」なんて書いててネット上で公開する気なんてまるでないし。
マージン率の公開は業界の競争を促す上でも、派遣労働者の保護の観点からも重要極まりない情報公開だと私は考えます。しかしこのように大手企業ほど公開しないという姿勢は不自然極まりなく、本気で言いますがここに挙げた企業は恥を知るべきでしょうし、グッドウィルみたいにこの際政府は潰した方がいいと本気で思います。逆に、ネットで検索したらすぐに引っかかるなどきちんと情報を細かいところまで出しているテンプスタッフとインテリジェンスの2社に関しては素直に誉めてあげたいですし、派遣労働者の方々ももし使うとしたらこの2社を経由することを企業姿勢から言ってお勧めしたいです。
最後となりますが、今回この調査をしていて非常に不愉快というか、何故自分がこんなことをしなければならないのかという点で強く疑問に感じました。正直に言うと、「派遣 マージン率」で検索したら大手企業を含め大概の企業をまとめたリストみたいなのがすぐ出てくるべきだと思ってて、何故どこもやってないのか不思議でしょうがありません。
私は、あくまで一個人であってこのブログも労働組合とかそっち系の団体から支援を受けてるわけでもなく、中国共産党からの指令を受けて書いてるわけでもありません。今日の記事もただ単に興味を持って、実際のマージン率はどの程度なのかを知りたいから調べて書いただけです。
恐らく、派遣労働者を対象とした労働組合とかユニオン、そういう団体は少なからず存在するでしょう。では何故そうした団体の職員、運動員らはこの手の重要となるデータをまとめないのか。このマージン率は最重要と言ってもいいデータであって派遣労働者の保護や団体交渉をする上では絶対に欠かすことのできないデータだと私は思うにもかかわらず、最低限の統計すらどこも取らず、一体その手の団体は何を活動しているのか、本気でやる気あるのかとこの点で強く問いたいです。同時に派遣労働者の方々に対しても、自らの待遇改善のために何か活動をしているのか、聞くだけ無駄かなとは思いますが。
自分はこのブログを始めた当初、それなりに熱意を持って派遣労働の問題性とか待遇の改善案とかをいろいろ書いてきたつもりです。しかしそれらが何になったのか、また当の派遣労働者たちはなにか格差改善のために動いたか、というか日本の労働組合は正社員ばかり相手して一体何やってるんだとこのところ疑問に感じてきております。また非常に攻撃的な文章となってしまいましたが、もういい加減こういうことはやめようかなと考えており、この記事もそうした考え方の変化を受けて派遣労働者保護というよりは情報公開という点に軸足を置いて書いた次第です。