九月に日本に帰国した際にふと気が付いたのですが、駅のコンコース内で一番大手を振って歩いているのは女子高生な気がします。これは女子高生が生意気だからとかそういう意味ではなく、一般成人、特に男性が暗い色の服着てうつむきながら歩いていることが日本では多いため、相対的にかつ人生でハッピーなお年頃であることから横に広がって歩いてても全く気にしないような素振りになるのではと見ています。宮台真司は正直言って大嫌いですが彼が着目した日本の女子高生文化は真冬でも短いスカートをはくなど一種独特で、日本の風俗史としてみるなら研究対象として価値ある存在ではないかとこの頃よく思います。まあ自分はやらんけどね。
話は本筋に戻しますが、どうして日本では女子高生が大手を振って歩いていると気が付いたのかですが、それはやはり中国での生活体験があるからに尽きます。そもそものファーストステップが、「日本は中高生がいっぱい歩いているなぁ」という印象で、何故そう思うのかというと中国では誇張ではなく中高生が休日でもそんなに街中を歩いていないからで、なんで出歩かないのかというとリアルに勉強漬けとなっているからです。
先に申しておくと中国では一人っ子政策が継続(一部都市では既に緩和)されてはいるものの子供の数は人口比で言っても日本よりは確実に多いですし、結婚した世帯の出産意欲も非常に高いです。実際に街中を歩くと小学校低学年くらいの子供が本気で拳骨加えてやりたいくらいにきゃーきゃー騒いでて(日本の子供の比ではない)、日本と比べると社会の平均年齢は本当に若いと常々感じます。
しかし大体小学校高学年から高校生くらいの年代の子となると不気味なくらいに街中で見かけません。地方の中学校を出てすぐ都市部に出稼ぎにきたであろう訛りの汚い中国語を話す15~18歳くらいの子であればレストランとか行けばいくらでも見かけますが、その都市で生まれ育ってきたような中高生となると平日はおろか休日でもあまり見かけないし、日本の女子高生みたいに「マジウケルー」みたいな声も耳にしません。前々からこの疑問は持っていていくつか知り合いの中国人などにも話を聞いたりしてきた結果、現代の中国の中高生は朝から晩まで休日も含めてずっと勉強漬け、もしくは習い事をやっているため街中にそんなに繰り出してこないのだろうという結論に私は至りました。
知ってる人には早いですが数年前の国際学力テストで全世界でトップを取ったのは上海市の子供でした。中国は国単位ではこの学力テストに参加せず一部都市だけが参加したのですが、上海を含む主要都市の子供であれば確実にトップ句クラスの順位を取ってもおかしくないほど近年の中国の子供は勉強漬けとなっています。何故勉強漬けになっているのかというといくつか理由はあり、一つは生活が豊かになって子供の教育に親がお金をかけられるようになったことと、もう一つは現代中国は日本、下手したら韓国以上に学歴社会化が進んでおりいい大学を出ないとまともな職業に就けられなくなっているためです。
中国は日本と比べれば明らかに景気はいいですが、それでも1人当たり可処分所得で言えばまだまだ低いです。また仕事による賃金の差が非常に大きく、底辺の仕事はきついわりに給与はほとんどないのに対して大手企業、特に外資系であれば日本の会社員よりもいい給与も得られる可能性もあり、いい大学でないとまともな生活が出来ないという圧迫感は日本と比べて遥かに高いです。
そうした事情を知っている親からすれば子供にはまともな大学に受かってほしいと思うのは当たり前で、自然と教育熱は高まります。ただその教育熱は尋常じゃないレベルで、私の周りで見聞きするレベルでも小学校入学前に英語塾に入るのは当たり前で、小学校側も入学前にアルファベットの読み書きができるようにしておくことを親に要求してきます。そして中学校になると学校教師は正規の授業とは別に放課後などに費用を払った生徒にのみ補講授業を行うため、肝心なことは正規の授業で教えずに補講で稼ぐ教師も少なくないそうです。
万事が万事こんなレベルで、親の側も子供に勉強を教えるために必死で勉強して仕事が終わった夜に一緒に問題集を解くのも当たり前です。むしろ学校側が親に宿題の採点、並びに翌日の授業の予習を求めてくるのでそのプレッシャーは半端じゃありません。
こういう具合でなおかつ中国の中学、高校には日本のような部活動もないため、休日でも中高生は自宅で勉強し続けるという有様だそうです。例の上海忍者にこの辺の話を聞いてみると、彼が子供だった頃はまだ日本の中高生同様にプレステで遊んだりバスケットしてたりしてたそうで、「今の子供は勉強ばっかで本当にかわいそうだ」と述べながら時代の変化を指摘しています。なお彼は「鉄拳」か「バーチャファイター」かで悩み、「鉄拳」があるからサターンではなくプレステを親に買ってもらったそうです。
以上のような理由から中国では中高生、というよりは十代の少年少女が街中にあまりいないという妙な状態になっていると私は推測しています。正直に言って私の目から見ても中国の中高生は勉強漬けで不憫に感じると共に、最近では日本同様にいい大学でても就職戦線が激しくてまともな仕事に就けない若者が中国でも増えているので、変な形で社会問題にならなければと懸念しています。現実に中高生の自殺が中国では増えており、メディアなどでも勉強ばかりで倫理観の指導が疎かになっているのではないかとよく取り上げられています。それと同時に、こんだけ教育に熱が入っているのだから国際学力テストでトップ取るのもさもありなんってところです。
最後にどうでもいい話ですが、先日帰宅途中に中学生らしき女の子が道路の上で自転車を止めてなんかくるくるペダルを回している所に出くわしました。一見して自転車のチェーンが外れて走らなくなったのだろうとわかり自分から声をかけて外れたチェーンをつなぎ直してやったところ、お礼を言いながらその自転車に乗って去っていきましたが、この記事で述べているように街中で中学生を見ることなんてほとんどなく、また会話することも全くないので妙にレアな体験だなと心に残ると共に、チェーンが外れていたその自転車は前輪三段、後輪七段の計二十一段変速の自転車であったため、「え?なに?中国の女子中学生ってこんないい自転車乗ってんの?」と思いつつ家路へとつきました。