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2018年1月11日木曜日

日東電工の中国蘇州工場に関する騒動について

 結論から書くと、日系メディアはほとんど報じていませんが今中国では日東電工の蘇州工場が何やら騒がしくなっています。最初に書いとくと、取材もしてないので報道以上の内容は私もわかりません。

中国江蘇省の日東電工工場で従業員デモ(時事通信)

 今週初めから突然従業員に対し工場を閉鎖するため雇止め(解雇)を申し渡したとして、これに反発した従業員がデモを起こしたとこっちでは報じられています。しかしこの件について日東電工本社は、これまでのところ何の発表もしていません。
 奇妙なのは日東電工は黙して語らないのに、何故か中国商務部(経済産業省のような省庁)がこの件に関して言及していることです。報道官によると、日東電工は一部部門の事業譲渡を行うだけで蘇州工場は存続するとのことですが、具体的にどこへ譲渡するのか、日東電工の他の系列会社なのか無関係な会社なのか、日系なのか中国系なのかについては何も語っていません。

 また一番よく取材できてると思う澎湃新聞の記事では、直接現地の工場に行っていろいろ書いています。この記事によると同工場ではプリント基板と液晶用偏光板を生産しているとのことで、今回槍玉に挙がっているのは偏光板部門だそうです。この分野で日東電工は世界トップシェアを持っており、記事ではそれだけに一体何故このまま生産を続けないのかと疑問を投げかけています。私自身も、液晶の世界最大の消費市場である中国の工場なのだから、事業譲渡や事業再編のどちらであるとしても実行する必要性について何故なのかという疑問がもたげます。

 現場の状況としては偏光板部門らしき工場棟こそ閉まっていたものの、プリント基板部門の従業員は普通に勤務しており、出入りも自由な感じだったそうです。今週初めに出た記事では「恥知らずの小日本、従業員をだますな!」的なでかい横断幕とともに入り口付近に多くの従業員がたむろする写真が出ていたのですが、こうしたデモは最初の時事通信の報道通りに既に終息済みだと思われます。
 事業部門の譲渡に伴い解雇される従業員についてもこの記事では書かれてあり、当日に退職手続きを行った従業員にも話を聞いています。対象となる従業員には通常以上の退職金が提示されており、納得した人間は既にサインしているものの、リストを見る限りではまだ多くの従業員は応じていないそうです。

 あと気になることとしては労働保障局関係者が、持分譲渡交渉がまだ完了していない、と話していることが報じられています。この持分というのはこの工場、つまり日東電工(蘇州)有限公司の持分だと思われ、その譲渡を巡って交渉が行われているとのことになります。しかも上の関係者の話が事実であれば、交渉が完了していないにもかかわらず従業員の整理手続きが始まっているということにもなり、やはりこの動きには奇妙さを感じます。仮に系列会社同士の事業再編であれば、果たしてこうなるのかなと不思議に思えてなりません。
 まぁ澎湃新聞によるとさ、偏光板の生産設備は日東電工の新しい深圳工場に移して、残ったプリント基板部門は同業大手の日本メクトロンの、同じ蘇州の工業園区にある生産会社へ売る方針だと従業員らが話しているそうです。よく調べてるよなぁここの記者。
 報道が真実となるかどうかは今後のお楽しみですが、現状としては確かに怪しさ満点の動きをしていることは間違いありません。そして旧正月を目前に控えていきなり解雇通知っていうのも、もう少し考えてあげてほしいなと一個人としては思います。

2018年1月10日水曜日

上杉謙信は何故大勢力にならなかったのか

 先週末に今年の新大河ドラマ「西郷どん」(最初の変換は「最後うどん」でした)が放送されたようですが、生憎私は見ていないのでこちらの評価はしませんが、大河ドラマで個人的に強く印象に残っているのは「風林火山」のオープニングです。実際にこちらは評価が高いようで、BGMだけで見れば歴代大河最高傑作と言われるのも納得できます。
 この「風林火山」の主人公は武田信玄の軍師だった山本勘助で、ドラマ自体は武田家の視点がメインに置かれたものの、ドラマ中で脚光を浴びたのはその宿敵ともいうべき上杉謙信でした。この上杉謙信訳はミュージシャンのGackt氏が演じており、Gackt氏自身がその役作りについて監督らに自ら意見を述べるなど積極的に関わったこともあり、非常に異彩な風貌はもとよりどこからいっちゃってるようなやや狂信めいた演技は各方面からも高く評価されました。私自身も、ほかのどの上杉謙信よりも伝承や資料などから伺う像としてはこの時のGackt氏が一番近いように感じます。

 そんな上杉謙信ですが、世界的に見れば非常に珍しい人間だなと私は考えています。機関銃が登場する以前の時代で誰が最も戦争指揮がうまいのかという議論はどの国でも白熱するものですが、こと日本に関しては「戦国最強」はもとより「日本史上最強」の軍指揮官の呼び声が上杉謙信にあることを疑う声はほとんど聞かれません。実際に彼が指揮した戦いは実質百戦百勝で、敵城を攻め落とし切れずに撤退することこそ多かったもの戦場で会敵しさえすればほぼ確実に敵軍を粉砕し、また私が知る限り窮地に追い込まれたという状況に至っては一度としてありません。
 強いて彼に次ぐ人物を挙げるとしたら治承・寿永期の源義経くらいが浮かびますが、それでも私の中では上杉謙信に軍配が上がります。

 しかしそれほど戦に強かったにもかかわらず、上杉謙信が拡大した領土は実質的には越後・上越の統一くらいなもので、同時代の織田信長と比べると非常に狭いもので終わっています。一体何故この程度に留まったのか、ありそうであまりない議論なのでいくつか私の仮説をここで述べます。

1、本拠地を移さなかったから
 上杉謙信の主戦場は川中島と思われがちですが実際には北関東で、その生涯で計七回も関東への遠征を行っています。これらの遠征は北関東各地の豪族の要請を受けたり、争乱鎮圧という謙信自身の目的などが主な要因ですが、出陣の度に関東の雄こと北条家の領土を奥深く浸食しながら、止めを刺し切れずいつも撤退する羽目となります。
 撤退に至った背景としては雪によって道が閉ざされるなどといった天候的な理由や、兵糧などの補給の問題、北条家の同盟相手である武田家の背後を突く牽制などがあり、毎回これらの理由で本拠地である越後・春日山城へ帰っています。そしてそのたびに一旦は服属させた北関東の豪族らはまた離反し、出撃しさえすれば平らげられるもののその勢力を北関東で維持することはほとんどありませんでした。
 実質的には後述の理由により不可能であるものの、仮に織田信長のように前線に近い場所へ本拠地を移していたら北条家を排除し、関東の制覇自体は望めたかもしれません。もっともその場合、確実に越後は失っていたと思いますが。

2、雪深い北国
 上記でも少し触れましたが、謙信の本拠地の越後は非常に雪深い地域で、最近では世界でも屈指の降雪量を誇ると報じられています。こうした地域では言うまでもなく冬季における軍の移動や補給となり、まさにこれが原因となって撤退に至った関東遠征も少なくありません。
 もし仮にもっと雪のない地域が本拠地であれば、勢力拡大は確実に容易となっていたことでしょう。武田信玄も山深い甲斐、信濃という地勢に足を引っ張られましたが、それでも越後の謙信よりはマシだったと私には思えるほどこの地的条件は不利なものだったと思います。

3、火種燻ぶる家中
 上杉家、もとい長尾家はいくつもの分家に分かれていたことから一族間の争いも非常に激しいものでした。謙信自身も、周囲からの要請もあったとはいえ兄を追放するような形で家督を継いでおり、家督継承後も上田長尾家、古志長尾家の分家同士の争いには悩まされ、実際にこの両家は謙信亡き後の上杉家相続をめぐって御館の乱を興しています。
 また長尾家内の争いだけでなく越後や上越国内の豪族らも不穏な人間が多く、北条高広に至っては謙信を二度も裏切っています(そして二度も許されている)。領土支配としては越後統一こそ果たしたものの、その地盤は盤客とは言えず現実に謙信亡き後は一気に分裂しました。そのため謙信自身もおちおち越後を留守にすることもできず、本拠地移転はもとより長期の遠征もそうそう行えなかったのではと想像されます。

4、加賀・越中の一向宗
 謙信から見て東側には北条家、南には武田家、北には日本海が存在しましたが、西には何がいたかというと泣く子も黙る驚異の鉄砲軍団こと加賀・越中の一向宗でした。同時代の加賀・越中はフランス革命に先立つこと数百年も前に支配していた領主を追い出し、一向宗門徒らにより自治政権が成立しており、この地を狙う朝倉家などの侵攻も悉く跳ね返していました。後の時代でも織田家の柴田勝家もこの地の平定で非常に苦戦し、最終的には勝家傘下だった前田利家がどうにか支配に成功して加賀百万石(ミリオネア)が成立することとなります。
 この時代、実際に謙信は「西進」を図り越中には計八度も侵攻しています。しかし最後の侵攻で越中平定こそ達成するものの、それまでの七回は北条家や武田家の干渉、また家臣の裏切りによって毎回戦闘に勝ちながら撤退する羽目となっており、その度に越中の大名であった神保氏や椎名氏と結びついた一向宗勢力に奪った領地を奪い返されています。八度目の侵攻で成功したのも、織田家の対決を優先した一向宗が謙信との和睦に応じたことが最大の要因でした。
 織田家信長にとってもそうですが、謙信にとっても一向宗は最大の敵勢力の一つだったと言えるでしょう。なまじっかこんな強敵をすぐ隣に抱えていたことも、勢力拡大がその実力に比して狭い範囲にとどまった要因と言えるでしょう。

 久々にまともな歴史記事書いた気がします。それにしても謙信の戦ぶりを見ていると、なんとなく英仏百年戦争のジャンヌ・ダルクを彷彿させられます。戦争においては半狂信的な指揮官の方がなんとなく強そうです。

2018年1月8日月曜日

米海軍の戦力分析記事に関する疑問

 iPhoneXと聞くと「富士通テン」が頭に浮かんでくるのですが、今日同僚がこれを持ってきていて顔認証などについて話していましたが、「デーモン小暮はどっちの顔で認識させてるのだろうか?」と空気の読まない発言をしていました。
 さて話は本題に入りますが、ネットでいろいろ記事を見ていて媒体ごとに思うこととしては、

・毎日新聞:記事内容から文章技術を含め総じてクソ。
・産経新聞:ノリが週刊誌っぽくなってきた。
・ダイヤモンド:極たまにいい記事もあるが、基本的にどの記事も信用してはならないレベル。
・東洋経済:参考になるものばかり。記事構成にもいつも工夫を感じる。
・Yahoo編集部:伝えようとすることを何も考えずに書いている。結果、読む価値のないレベル。
・サイゾー系列:すべてクズ。どれも誤報を疑うべき。
・サーチナ:ダメというわけではないものの、爆発ネタで鳴らしたかつてほどの勢いは感じない。
・BuzzFeed Japan:読んでてのけぞるくらいいい記事や取材ばかり。
・JBpress:最近いいライター増えてきて、前みたいにアクセストップが取れなくなった(´;ω;`)

 私の中の評価としては大体こんなものなのですが、時期としては去年くらいから文春オンラインの記事もYahooやMSNなどのポータルサイトに配信されるのを見るようになってきました。ただ、この文春オンラインの記事はどれもつまらなく、特に野球関連の記事をよく見かけるのですがどれも非常につまらなく、なぜわざわざこんなひどい記事を配信するのかと疑問に思うことが多いです。
 そんな風に見ていたところ、今日ちょっと気になる記事を見かけました。

繰り返される「アメリカは北朝鮮を攻撃する」論の嘘(文春オンライン)

 内容は見てもらえばわかりますが、私が気になったのは2ページ目の以下の記述です。

「もう一つの理由は、空母艦載機が果たして6隻分あるのか、という点である。軍事専門紙「ディフェンスニュース」が昨年2月に報じたところによれば、全海軍の航空機の53%が予算不足による整備及び部品不足により稼働不能に追い込まれている。とりわけ空母艦載機の主力を担うF/A-18戦闘機は62%が稼働不能になっており、パイロットの技量保持も難しくなっている。」

 この記述と「62%」という数字を見て、「前のあれじゃないか?」と思うところがありました。

厚木のFA18、6割飛べず? 在日米軍、東京新聞の「憶測」記事に遺憾表明(日本報道検証機構)

 上の記事は昨年2月に出されたもので、その少し前に出された私が蛇蝎の如く嫌って止まない中日東京新聞が掲載した「厚木の米軍機FA18 6割飛べず? 部品なし修理不能 米専門紙惨状掲載」が誤報であることを検証した記事です。検証内容については是非リンク先の記事を読んでもらいたいのですが、検証内容とその後の中日東京新聞の反応を見る限り、やはりこれは中日東京新聞の誤報としか言いようがなく、またまともな取材すらせず、それどころか基本的な軍事知識も持たずに記事を書いていたとしか判断できません。第一、厚木基地に取材せずに厚木基地のこと書くってどうよ。

 この検証でポイントとなっているのは「米軍機FA18の6割が稼働状態にない」の根拠となるデータソースです。大本の記事はこちらのDefence Newsの記事なのですが、私から見てこの記事自体が何らかの意図を持って書かれた記事、はっきり言えば、米海軍に予算が不足していることをアピールして議会に予算を増やすよう促そうとする記事に見えます。何故そう思うのかというと米軍機のFA18について、わざと2機種を曖昧にごっちゃにして62%が稼働状態にないと書いているからです。

F/A-18 (航空機)
F/A-18E/F (航空機)(どちらもWikipedia)

 一般に、「FA18」と呼ばれる機体は2種類あり、一つは上の「F/A-18」こと通称「ホーネット」、もう一つは下の「F/A-18E/F」こと通称「スーパーホーネット」です。スーパーホーネットはその名からもわかる通りにホーネットの設計をベースに開発された機体ですが、この2機種は実質別種の機体で、部品の共通割合もわずか1割程度、サイズもスーパーホーネットの方が一回りでかいです。
 敢えて例えるなら二次大戦中の「F4Fワイルドキャット」と「F6Fヘルキャット」くらいこの2機種は異なっています。ちなみにF6FもF4Fより一回りでかいという点でも共通していますが、零戦にやられっぱなしだったF4Fに対し、零戦を悉く駆逐して終戦後はまるでその役目を果たしたかのようにすぐ退役となったF6Fの生涯は、まさに零戦を打ち倒すためだけに世に出てきたような戦闘機で大好きです。

 話は戻りますが、ホーネットの方は1970年代に開発された機体で既にかなりガタが来ており、飛行時間の長いものから現在順次退役させられています。一方、スーパーホーネットの方は1990年代に開発されたもので、現在の米海軍の主力機と言ったらこっちとなります。
 上記のような経緯からこの2機種をごっちゃにしようものなら、スーパーホーネットの単独での稼働率に比べ、ごっちゃでの稼働率は著しく低くなるのは当然の帰結です。本来ならこの2機種は分けて考えなければならない機体にもかかわらず、ごっちゃにした上で「低い稼働率」と書くのは果たして現実的かと言えば私には疑問です。
 第一、あんま知識ないのに適当なこと言うと、スーパーホーネットなくても「F-22ラプター」を10機くらい持ってくれば十分では、スーパーホーネットの100機分以上の戦闘力が確保できるのではと密かに考えてます。スペック見るだけでもラプターの性能は反則過ぎる。

 話は最初に戻ります。中日東京新聞の記事は「62%」の数字だけを取って厚木基地の戦闘機は3分の2が飛ばないと書きましたが、厚木にあるのは基本スーパーホーネットで、「んなこたーない」と厚木基地から公式に否定されています。
 続いて文春オンラインの記事についてです。データ自体は間違いでないとしても、やはりこの「62%」という稼働率に関する数字を引用することは、米海軍の現況を見る上で適切かと言えば疑問です。勝手に厚木基地の稼働率を計算した中日東京新聞のように誤報ではないかもしれませんが、変なバイアスをかけかねないという点ではミスリードを起こさせる可能性があるように思います。

 またこれまた適当なことを述べると、北朝鮮有事の際に対応するのは米海軍だけではないでしょう。それこそ「殴り込み部隊」の海兵隊が沖縄にいることもありますし、主力はむしろこちらになってくる気がします。まぁそもそも北朝鮮相手なら空戦もそれほど多くないだろうし、空爆と対地ミサイルによる攻撃がメインとなるだろうから空母いるのかなって気がしますけど。
 それにしても中日東京新聞はホーネットとスーパーホーネットの区別すらつかずによくあんな記事書いたなと思います。まぁ私も、J-20J-31の性能差とかあんまわかんないけど(わかってたらむしろすごいかもしれない)。

2018年1月6日土曜日

タイキックより……

人権派ジャーナリスト 「ガキ使のベッキーへのタイキックは国連への反逆!憲法違反!醜悪で不謹慎!」(痛いニュース)

 ひとつ前の記事をアップロードしたばかりですが、こちらの件についても言及しておきます。
 上のベッキーへのタイキックについてですが、正直言えば見ていて私が一番面白かったところで、ネタ的には最高な場面でした。もちろんベッキーには大変だなと思いましたし、よく頑張ったとも思いました。

 このベッキーへのタイキックが差別だとか不謹慎だとかという点についてですが、結論から言えば「こいつちゃんと番組見てないだろ」というのが私の意見です。なんでかっていうと同じ番組内でで男性芸人同士が、帯電した状態で手押し相撲をやらされるミニゲームがあり、これは帯電するだけなら何ともないですが手押し相撲で体が触れあうとバチっと静電気が走るという内容で、これ普通にCIAとかが拷問に使える何かだろうと私は見ていて思いました。
 正直これに比べると、ベッキーへのタイキックなんかいくら女性だからと言っても、電気ショックと比べたらずっと生温い気がします。しかもこの手押し相撲、誰だったかは忘れましたが実際のゲーム開始前にスタッフが持つ機器が芸人に当たって電気ショック浴びたり、痛いことわかっているから、「おい触るな、触るな!」とお互い手押し相撲をせずに上体をそらし合ったら、ふとした偶然から股間が触れ合いそこに電気ショックが走るという場面もありました。芸人が大変だってのは見ていてよくわかりますが、面白かったです。でもってあの番組の暴力を批判するなら、むしろこっちやろうというのが私の意見です。

ダウンタウンの黒人メイク騒動についての見解

 昨日後輩と夕食食べておごったところ、「すいません、ありがとうございます。おいしかったです」とか言われましたが、「いやそれ作った人にゆえや。俺にゆうてもしゃあないで」とクールな切り返ししました。

 話は本題に入りますが、説明するまでもなく年末の「ガキの使いやあらへんで」冒頭でダウンタウンの浜田氏がやってみせたエディ・マーフィーの物まね、もとい黒人メイクは差別なのかどうかでやたら盛り上がっています。本来、こういう議論にはあまり関わりたくないと思って無視しているのですが、先ほどコメント欄にも書いたように日本の論壇の議論が非常に物足りない、具体的には「差別とは思わない」、「米国では差別になる」などと印象論や他国の事情しか引き合いに出さないような低レベルさに物足りなさを感じるので、私の考える論点をいくつか出そうと思います。
 なお先に結論を述べると、今回の浜田氏の物まねは差別には当たらないし、ここまで大騒ぎすること自体むなしいくらい低レベルな議論だという見方を持っています。

1、ロバート・ダウニー・Jrなら許されるのか?
 ロバート・ダウニー(めんどいのでJrは以下省略)と言ったら、映画「アイアンマン」でお馴染みの今現在最も評価の高いハリウッド俳優の一人です。一体なんでこの議論で彼の名前を出すのかというと、かつて出演した「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」で、「役作りのために整形手術で黒人になってしまうオーストラリア人のメソッド俳優」を演じているからです。
 実際にこの映画の中でロバート・ダウニーは黒塗りメイクで登場し、仲間が「奴ら」というセリフを言うや、「奴ら?奴ら(黒人)とは何だ!」と黒人になりきったキャラを演じています。聞いててわかんないですが、話す英語も黒人訛りを完璧にコピーしてたそうです。

 この映画は「アイアンマン」の公開前に撮影されたこともあって、今だと絶対無理だと思えるほどロバート・ダウニーがコメディな演技を見せています。今回のダウンタウンの騒動が起きた時が私が真っ先に思い出したのはこのロバート・ダウニーの演技で、「え、あれに比べたら……」という気持ちを覚えました。
 そうはいっても映画だし、また「黒人になりきっている俳優」なのだからと言う人もいるかもしれませんが、この映画は完全なコメディ映画、それもかなり下品なもので、作中劇について「ただの知的障害者を演じるだけでは誰も評価しない。『フォレスト・ガンプ』はただの知的障害者ではなかったから売れた」などというメタな発言も飛び出てきます。ロバート・ダウニーの役もなんかいろいろ問題抱えたキャラで、何より白人が肌を黒く塗ってます。なのにダウンタウンの浜田氏は非難されて、ロバート・ダウニーには何もないってのはそれはちょっと違うのでは言いたくなってくるわけです。

 もっとも、仮に今ロバート・ダウニーを批判しようものなら、米国のエンタメ界ではまず生きてはいけないでしょう。そういう意味では、彼なら許されちゃうでしょうね。
 なお「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」に興味を持ったのならば、ぜひ前情報なしでスタッフロールの最後まで見ることをお勧めします。最後の最後でとんでもない大どんでん返しがあるし。

2、保毛尾田保毛男との違いは?
 次に私がなんで今回の議論で触れられないのかと思う点として、昨年に「とんねるずのみなさんのおかげでした」で騒動となった保毛尾田保毛男の件との違いです。この時の騒動の詳細については省略しますが、私は騒動の一方を見た直後に「ああ、これは差別だしアウトだ」と思いました。

 このように判断した基準は、このキャラが自身が同性愛者であることについては否定もしくは曖昧な態度を取っているにもかかわらず、一般的な男性と比べて女性っぽい、普通ではない仕草や振舞い方をして笑いを取っているからです。私の解釈では、これは同性愛者が蔑視される対象であることを認識した上で敢えてそうした振舞い方やふざけた見かけをしているとしか見えず、根底には見ている人を含め馬鹿にしたような意識が存在するように感じました。
 そして現実問題でも、このキャラが放映されていた時期には、このキャラの名前を使ったからかいが学校現場などでも起きていたともいい、これらを考慮するとこのキャラは差別を助長する可能性が高く、差別抑止の観点から言えばアウトだと私は考えました。

 この保毛尾田保毛男と今回のエディ・マーフィーの物まねの違いは、その属性に対し肯定か否定かです。浜田氏は当時の格好について黒人のエディ・マーフィーであることを否定していないのに対し、保毛尾田保毛男は前述の通り否定もしくは曖昧な態度を取りました。また浜田氏が「黒人らしい行動」、それこそ先ほどのロバート・ダウニーのように黒人訛りの英語を話したり(話せたらそれはそれですごい気がするが)はしていない一方、保毛尾田保毛男は同性愛者らしいと思われる行動(現実かどうかは問わず)を敢えて強調して行って見ている人間を笑わせようとしています。
 この差こそ差別の有無ではないかと私には思います。またこれは一部でも言われていますがエディ・マーフィーの格好をしたら黒人差別となるのであれば、エディ・マーフィー自体が黒人差別の象徴みたいになるようにも見え、逆にエディ・マーフィーに対してものすごく失礼ではないかとも思えてきます。

3、黒塗りがダメなら白塗りはいいのか?
 今回の騒動で差別だと主張する人間は、「元々違う色の肌をした人が肌を黒く塗るのが問題」だと主張していますが、じゃあ逆ならどうなのかということです。黒人が白人の物まねで肌を白く塗るのも差別なのか、それを言ったら「イエローモンキー」と言われる我々東洋人はどうなのか、そもそもイエローちゃうわ肌色やと私は個人的には言いたいです。
 先ほどの保毛尾田保毛男のように、蔑視対象であることを自認しながらそれを隠そうとする態度を取るならばともかく、物まね程度であれば最初のロバート・ダウニーのように「成りきる」ためにはとことん追求して姿形を似せようとするのが当然でしょう。

 なお、「肌を白く塗った物まね」というところまで考えた時、真っ先に下の動画を思い出しました。



 もし元々の肌の色が違う人間が、白い肌の悪魔の物まねをしたら差別に当たるのでしょうか?っていうか悪魔相手に差別とかどうこうというのも自分でもどうかという気がしますが……。
 それにしても上の動画、久々に見たけど相変わらず面白い。ぐっさんも歌めちゃうまいし、歌い出し間違えるし。

2018年1月3日水曜日

紅白に対する評価の分かれる記事

 日本にいる人は今日まで休みでしょうが、中国では元旦だけがお休みで、既に昨日今日と出勤しています。といっても、まだ今年は12月30、31日が土日だった分マシでしたが。

NHK、紅白大成功の裏で今年のしかかる重圧
紅白視聴率、2年ぶり40%割れ 安室&桑田出ても歴代ワースト3位 民放1位は「ガキ使」(どっちもスポーツ報知)

 さて出勤しながら見ていた日本のニュースで気になったのがこちら。どちらもスポーツ報知ですが上の1月1日に出た記事の見出しを読んで、「えっ、あんな紅白で大成功だったの?」と疑問符を持っていたところ、翌々日に出た下の記事では視聴率はワーストすれすれで大物効果もなくと書かれてあり、なんやねんと正直思いました。視聴率がこんだけわんさか悪いというのに、「これだけ盛り上がってしまうと次回へのプレッシャーになる」なんてセリフがよく出てくるな。

 恐らくですが、上の記事はあらかじめしたためていた準備稿をほとんどそのまま出した記事だったんじゃないかと思いまうs。紅白が大成功したという前提で準備稿を書いていたため、後半になって視聴率はワースト近かったと見出しと真逆の内容を書くという、かなりおかしな構成になっています。まぁだったら書き直せよな。

 なお私は31日に友人と上海にある居酒屋で最初の方だけ紅白を見ていましたが、はっきり言って非常につまらなく感じました。一部だけ見ておいて言うのもなんですが、出場予定の歌手がほぼみんな「誰それ?」という感じで、楽曲に至っては一度も聞いたこともないようなものばかりでした。ずっと中国にいるということも大きいでしょうが、単純にスターや大物が不在過ぎる構成に思え、だからこそ最初の記事で「大成功」と書かれていたことに違和感を覚えたのでしょう。
 一緒にいた友人も、「これなら過去の大物とか、流行歌を出した方がいいのに」と言っていましたが、全く以って同感です。逆を言えば、誰もが知るような流行歌が近年はほとんど生まれず、この紅白の低迷する視聴率はNHKの番組編集というより、ヒットソングの生まれない日本の音楽界不況が主犯であるように思えます。この点について、ネットで見る記事では誰も指摘していないのがやや不思議です。

 なお居酒屋ではあとからやってきた親子によってチャンネルを「ガキの使いやあらへんで」に変えられてしまいました。個人的には、ベッキーがタイキックされたところが一番面白かったです。

2018年1月1日月曜日

アイドル会計論 その二、償却

 今朝目を覚ますと、中二病患者のように「ぐっ……静まれ、この右手!」と言いたくなるほど右手首が痛かったです。原因は昨日に「THE IDOLM@STER MUST SONGS 青盤」遊び過ぎたせいだと思われます。知らない人ように説明すると、このゲームはいわゆる「太鼓の達人」のアイマス版で、PSVitaで遊ぶとどうしても手首を変に曲げながらLRボタンを連打するため手の健を痛めやすいです。
 なお「中二病」という単語は中国でも深く認知、浸透されており、そろそろ思春期の男子特有の精神疾患として国際学会とかで正式に病名として入れるべきだと思います。さらに言えば、自らの中二病体験をきちんと語れるようになって初めて男は一人前で、未だに過去を隠そうとするような奴は未熟者だとも思います。私の友人は中二病の際、「クーロンズゲート」というゲームの影響で風水師になろうと一時考えたそうです。

 話は本題に入りますが、何故年末年始にかけてアイドルを資産扱いしたらどうなるのかというわけのわからない会計論を展開しているのか私にもわかりませんが、前回「アイドルは資産なのか?」という命題について書きましたが、今回はある意味本題の「償却」の概念と方法について思いのたけを書いていきます。

 そもそも償却とは何かですが、会計に関わった人間ならみんな分かってて当然であるもののいまいちよく知らない人に向けて説明すると、発生した費用を複数期間に分割して計上するという概念を指します。これによってどうなるのかというと、費用発生以降に得られる収益と時期を合わせることによって税効果(課税額の減少)が得られることになります。
 なお不要かもしれませんが書いておくと、有形資産に対する費用分割を「減価償却」、無形資産に対する費用分割を「償却」と呼びます。英語だと減価償却は「depreciation」、償却は「amortization」なのですが、日本語だと言い方が似てるからややこしいです。

 実際の運用についてモデルケースを一つ出すと、例えば取得時に一括で費用(100万円)を支払わなければならない無形資産によって、取得から5年間にかけて毎年20万円の収益(売上げ)が得られるとします。仮にこの無形資産の取得費用を取得した年度(第1年目)に一括計上するとこうなります。

  取得費用を一括計上した場合
<第1年目>
・計上費用(経費):100万円
・収益(売上げ):20万円
・差し引き(純損益):-80万円
・法人税費用:0円

 純損益が-80万円という赤字のため、この場合この会社は第1年目には法人税が課税されることはありません。しかし、第2年目になると、

<第2年目>
・収益(売上げ):20万円
・差し引き(純損益):20万円
・法人税費用:6.76万円

以上のように純損益が20万円となってこれが課税額となることから、日本の現行一般実行法人税率(地方法人税を含む)33.8%を適用すると、6.76万円の法人税が課されることとなります。
 一方、費用を取得時に一括で計上するのではなく、そのリターンに合わせて5年間にわたり償却するとしたらどうなるのかが以下の表です。

  取得費用を5年にわたり償却した場合
<第1年目>
・計上費用(償却費用):20万円
・収益(売上げ):20万円
・差し引き(純損益):0円
・法人税費用:0円

<第2年目>
・計上費用(償却費用):20万円
・収益(売上げ):20万円
・差し引き(純損益):0円
・法人税費用:0円

 このように毎年の売上げに相当する金額の償却費用(税控除額)を計上できるため、一括で計上する場合と違って2年目に6.76万円の法人税を支払わなくて済みます。これは実質、6.76万円の収入を得るも同然で、こうした帳簿上の節税メリットのことを税効果と呼びます。

 前置きが長くなりましたが、アイドルとは前回にも書いた通りにいざ実際にデビューするまでには歌唱やダンスのレッスンや、プロモーションや売り込み活動を長きにわたり受け続けなければなりません。そうしたいわゆる初期投資費用を費用が発生するそばからいちいち計上していては、デビュー後に入ってくる収益と期間がどんどんずれていき、収益費用対応一致の原則から外れるだけでなく投資という観点から言っても不利です。
 ならばどうするかということで、無形資産の研究開発プロジェクトのようにアイドルも償却したらこの辺のバランスが取れて、経営上も税制上も割かしすっとするのではないのかなと考えたのがそもそものきっかけでした。なお研究開発プロジェクトのこの辺の会計処理の違いでは、日本会計基準は中国や欧米と比べて非常に不利で、現状では日本国外で研究開発した方がメリットが高くなっています。後々、この差は大きくなってくるでしょう。

 話はアイドルに戻しますが具体的にはスカウト後、アイドルを一つの資産と見なして大まかに育成プロジェクト予算を立て、それを実際の発生費用に合わせて徐々に償却していく形にしてはどうかなと考えています。これによってバラエティ系かドラマ系かなどと売り出し方や方針に合わせて育成方針も固めやすく、その経営見通しもしやすくなるのではないかと期待しています。
 ひとつ例を出すと、15歳のアイドルの卵を発掘後、ドラマ系アイドルとして売り出す方針を決め、演技レッスンや改造手術(整形、豊胸)を最初の5年で行い、次の5年間でそれを回収するという計画を立てます。この場合、償却期間はアイドルの卵が15歳から25歳になるまでの10年ということとなり、最初の5年間に発生すると見込まれる予算を10分割して毎年償却費用として計上することで、発生のそばから費用を計上していくケースと比べれば売り出し成功後に得た収益に対しても税額控除が可能となるため、プロダクション側は後半5年間にも税効果が得られるということになります。

 ここで一つ問題となるのが、償却期間の設定です。償却期間の設定自体は恣意性がある程度認められているものの、15歳のレッスン生と25歳のレッスン生に同じ償却期間を設定するのは誰がどう見ても無理があるでしょう。一つの目安としては「この年までにデビューできなかったら目がない」とする年齢で、15歳のレッスン生なら25歳まで(10年)、25歳のレッスン生なら28歳まで(3年)にデビューできなかったら事務所を辞めてもらうといった計画方針ならありかなとか勝手に考えています。
 もっともこれを言ったら、子役とかどうすんだろう。

 先にも述べましたが、仮にこうした会計処理ができるのであればプロダクションとしては税効果が得られるとともに、「いついつまでにアイドルを訓練し、デビューさせる」という計画が立てやすくなり、グループ単位でもそれ一つでプロジェクトを組めば、こうした処理法が行けるのではないかと思います。さらに言えば、こうした会計処理を行うことでアイドル単体に投資を募集しやすくなるのではないかと思え、それこそクラウドファウンディングみたいにデビューさせたい子にファンがみんなでお金を投資し、デビューの暁にはリターンを公正に分配することも可能になるのではないかと考えています。まぁ机上の空論ではありますが。