中国は明日が中秋節でお休みなため三連休の真っただ中にあります。ちょうど自分の毎年における繁忙期が先週に完全に終わりをつげ、またJBpress記事も先週に出して(明日配信)今週は書く必要がないため、かなりリラックスした気持ちになれているのですが、緊張感がなくなって疲れが出たのか今日は割と重めの頭痛をして頭痛薬を先ほど飲んでテンション上げています。
先月の段階ではそれこそ土日返上でずっと働いててキーボードの叩き過ぎで常に手が痛む状な状況だったのですが、DMMの電子書籍が半額セールしていて、ストレスが溜まってたこともあってか割と目につく漫画を片っ端からやけ買いしてました。そうして買っていた漫画の中に、ことぶきつかさ氏の「機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―」が含まれていました。
この漫画はアニメのガンダムに登場するカイ・シデンというキャラクターを主人公に置き、彼の目から見たガンダム本編の裏側を見る、言い方を変えると作品設定の行間というか隙間を埋めるような作品となっています。最初に発表されたのはZガンダムを舞台にした「カイ・シデンのレポート」、通称「カイ・レポ」でしたが、非常に評価が高かったこともあり続編が期待されていました。
その後、数年のインターバルを挟んで、「逆襲のシャア」の後の時代にいるカイが、初代ガンダムの1年戦争を振り返るという切り口で描かれたのが「カイ・シデンのメモリー」こと「カイ・メモ」でした。
結論から言うと非常によく面白く、その作品構成上からセリフが異常に多い漫画なのですが、漫画の描き方が非常に巧みなこともあって読んでて文字の多さが気にならないほど滑らかに進行されています。またガンダムのキャラデザを元祖である安彦良和氏が推薦したというだけあって、ことぶき氏の描くガンダムキャラクターはどれも非常に原作に近く、雰囲気からして他の作家と一線を画すなど、再現性の高い作画となっています。
特に圧巻なのが、主人公であるカイのセリフです。読んでて全くキャラに違和感がないというか、原作のカイだったら間違いなくこんな風に話すだろうと思わせる語り口で、ことぶき氏もカイが非常に好きなキャラだと話していますが、その本質を完全に掴み、カイというキャラの新たな姿をものの見事に生み出しているとすら感じます。
なお自分の世代からすると、あの「セイバーマリオネット」のキャラデザをやって、「いけいけぼくらのVガンダム」を描いてたことぶき氏なだけに、こんな骨太な作品とのギャップを激しく感じます。まぁセイバーのキャラデザは確かに一時代を築いたけどさ。
話を本題に戻しますが、二つの作品のうち「カイ・レポ」に関してはまだ、ジャーナリストであるカイから見たZガンダムの裏側的な物語で、面白くはあるけどよくあるガンダム系派生作品という印象でした。一方、「カイ・メモ」に関しては圧巻というべきか、安彦氏も述べているように「戦後」をはっきりと実感させられる唯一のガンダム作品といえ、その構成の妙は群を抜いていると感じます。
具体的なあらすじを述べると、「逆襲のシャア」の戦後の時代において、かつてのジオン公国であるコロニー(サイド3)で、1年戦争展が行われることとなり、その監修としてカイが招かれます。案内役のコンパニオンのロゼを伴いながら、かつて自分が戦ったホワイトベースの企画展を回るカイですが、その見学中に自分の記憶とは異なる点をいくつか発見します。
具体的には、第三者の介添えのあった戦果が当時のエースであったアムロや自分の戦果としてカウントされていたり、短いながらも一緒に戦った戦友が存在ごとなかったことにされたりしていました。
どれも戦争全体からすれば些細な違いでしかなく、この企画展の目的(連邦が正義的)から察するに戦争の英雄であるアムロの存在を際立たせるための措置と考え、コンパニオンすら抗議するも、カイ自身は展示内容の修正を要求せず見なかったことにします。また「ジオンは悪、連邦は正義」という図式の展示内容と、次の戦争ビジネスのために元ジオン国民をやや煽るような展示に対して会場周辺では反対運動が起きており、それに対してもカイは他人事として見て見ぬふりを決め込もうとするのですが、展示会場内で自分のジャーナリストの原点ともいうべきあるものを見つけ、その初心を取り戻すと、一つの決心を行うというお話となっています。
この作品のテーマは、上記にも書いた「記憶と記録のズレ」で、作中でも何度か言及されています。具体的には、「記憶は感情によって変化し、記録は情勢によって改竄される」と言明し、同じ過去の出来事であっても記憶と記録の間にはしばしばスレが生じるという事実をはっきり指摘しています。これは歴史学においても非常に重要な概念であり、まさにその通りというべきポイントです。
その上でカイは作中にて、こうして記憶と記録を折に触れて比較することに価値があるとし、記録を見た上で、各自がそれぞれ異なる記憶を持ち合うことが大事であるということを口にします。暗に、記録は必ずしも絶対的なものではないというような意見であると自分には感じました。
このくだりを読んで、自分は始めて映画の「父親たちの星条旗」の意味を理解することが出来ました。この点については、また次回に掘り下げます。