3年目も一向に止むことなく続いているウクライナ戦争ですが、先日ウクライナ側が開戦前からロシア領だった地域に突如進軍して大きな話題となっています。これまで戦火はロシアが侵略してきたウクライナ領土とクリミア半島に限られており、これはロシア領への攻撃によってエスカレートすることを恐れた米国などが、武器支援の代わりにロシア領への攻撃は控えるよう指示していたためと言われています。
しかし一向に停戦の兆しが見えないことから、昨年秋ごろよりはロシア領へのミサイル攻撃に関しては米英も承認したとされ、実際にウクライナも兵站を中心にロシア領へのミサイルやドローン攻撃は活発化させていきました。
それがここにきてミサイルではなく兵隊によるロシア領への進軍が始まりました。端的に言えばタイミング的にも妙手だったと思え、これまで「ミサイル攻撃はあっても進軍はない」と油断し切っていたロシア軍の裏を大きくかき、戦闘が続けられている既存地域でウクライナにかかる圧力もこれで確実に薄まると言い切れます。
無論、戦線が拡大することとなるためウクライナ側もその戦線を維持するため兵員の確保などがこれまで以上に重くなることは間違いないでしょうが、これまで攻められっぱなしだったのがある程度イニシアチブを握ることとなり、また殴られる覚悟のなかったロシア国民の厭戦気分を高めた上、今後の停戦交渉において領土交換という手段を手に入れられることからも、奪える領土は今のうちに奪っておくことがやはり最善手であるように思えます。
・ロシア軍を苦しめるプリゴジンの亡霊、戦死者と火砲損失急増の理由(JBpress)
概要を私の方で簡単にまとめると、開戦直後にキーウ攻略に失敗したロシア軍は戦線を縮小し、戦力を突破可能な地域に絞って攻めるという方針に切り替えました。これ以降、ロシアは負けはしないものの勝ちもしない状態が続きましたが、バフムトでプリコジン率いるワグネルが損害を気にしない大量投入作戦で戦果を挙げると、これを戦訓とばかりにロシア軍は他の戦線でも効率を無視した大量投入作戦を導入したばかりか、一度は縮めた戦線を再び拡大させ兵員の犠牲が急拡大するようになったとの分析です。
実際にここ数ヶ月のロシア軍の損害は、戦術の拙かった開戦当初よりもひどいと言われています。それでいて目立った戦果も挙げられず、ウクライナ側も防戦に苦しいものの、仮に限界があるとしたらロシアは自らその限界に近づくだけの始末となっています。
そんな風にロシア軍を犠牲に駆り立てたのは西村氏によると今は亡きプリコジンですが、この分析を踏まえて生前のプリコジンの発言を振り返ると、彼自身はバフムト占領を機に停戦を考えていたのかもしれないと思いました。
というのも誰がどう考えたってああした無秩序な突撃戦術は短期的な効果はあるものの長くは続かず、戦術の通りどこかで限界を迎えます。そうしたことをプリコジン自身も理解していたように思え、バフムト占領後は度々「ウクライナ軍は大した連中だ」などと自嘲めいた言葉も口にしていました。
その後、彼は知っての通りにロシア国防部に反乱を起こしましたが、恐らくそれはもうあんな戦術は今後も使えるわけないし、これ以上は戦っても得るものがなく、停戦しなければかえってロシアがやられることになるという風に考えたのではないかと思う節があります。というのもプリコジンの乱のときに、「このままではロシアは滅びる」という言葉を何度も口にしており、それはロシアの戦術よりも、戦争継続能力について向けられていたように今となっては思うからです。
実際に、あの北朝鮮に頭を下げるほど今のロシアの地位は低下しています。以前の記事にも書きましたが、ロシアは仮に今停戦したら戦争中以上の苦境に立たされる可能性が高く、これは停戦が遅れれれば遅れるほどより顕著となるきらいすらあります。普通に考えたって、現代において3年以上も1ヶ国で戦争を継続すること自体が経済的にあり得ず、このツケはロシア自身が払うこととなるでしょう。
まぁウクライナに関しても同様で、だからこそ戦後の復興支援が本当に大事だと思うし、それがロシアに再戦をあきらめさせる上でも重要なってくるのですが。
以上を踏まえて改めて西村氏の記事見出しを見ると、まさに今のロシアの現状はプリコジンの亡霊に悩まされている状態のように見えます。仮にあの時、もしかしたらプリコジンが考えていたかもしれないように適当なところで停戦しておけば、ロシアは戦後の破滅的状況をいくらか緩和できたかもしれません。
それが今回のウクライナによるロシア領への進軍によって、戦略的にも外交的にも内政的にも、ロシアは以前に比べかなり弱い立場に落とされたという気がします。こういうのを見ていると、やはり民主主義でない国は一人の独裁者によって、払う必要のない犠牲を払って落ちていくものだと思えてきます。