以前にも一度言及しておりますがメディアというのは大衆の注目を集めることで成り立つ存在であるため、必然的に他人の関心を引くような報道の仕方を行います。そのため大きなニュースがない時などは小さなニュースを殊更重大であるかのように大きく報道する傾向があり、一例をあげると2011年の2月頃などはYahooの知恵袋を使ったカンニング事件を、果たしてそこまでしつこく食い下がる必要があったのかと思うくらいに執拗な報道がなされました。
しかし、中には本当に重要なニュースであるにもかかわらずあまり大きく取り扱われないニュースもあります。記者の関心を引かなかったのか、もしくはその重要性が理解されなかったのか理由は様々でしょうが、京大のIPS細胞も発表当初は日系メディアはほぼ無視して海外での報道が高まってからようやく報じる有様でした(STAP細胞は早かったが)。今日ここで紹介するニュースも個人的にもうちょっと大きく報じられてもいいんじゃないのかと思えるニュースです。
・ジャパンディスプレイ、消費電力99%減の液晶パネル(日経新聞)
上記ニュースの概要を簡単に説明すると、液晶パネル大手のジャパンディスプレイは19日、新規開発した液晶パネルの生産工場を建設し、2016年夏にも量産を開始すると発表しました。日本国内での工場建設を含む大型投資案件が近年ほとんどなかった中で、投資額は2000億円強にも上るというこの発表自体が相当な内容ですが真に驚くべきはその新規開発した液晶パネルで、なんと従来の液晶パネルに比べ消費電力は百分の一以下となり、映像を映すバックライトも不要になるそうです。米アップルも次期調達品として視野に入れており投資額の一部を負担する姿勢だとの報道も出ています。
このニュースを見て最初に思ったのは、「ガセネタでは?」という身も蓋もない疑問でしたが最初に日刊工業新聞が報じたのを皮切りに海外を含む他のメディアも一斉に後追いしており、ジャパンディスプレイ側による発表もあったと出ていることから恐らく事実でしょう。何よりも投資額、そして工場建設地と量産時期がはっきりと出ていることから計画はほぼ出来上がっており、満を持しての発表であると見て間違いありません。
先ほどにも述べたように投資額もさることながらその新たな液晶性能の凄まじさは文字通り、従来の常識が根本からひっくり返るかのようなインパクトがありました。消費電力が百分の一以下になれば携帯電話の電池持ち時間は飛躍的に向上するし、これまで消費電力がネックで液晶が搭載しきれなかったデバイスも一気に花開く可能性もあります。下手したら太陽電池でも動いたりしないかこれ?
このようにいろんな意味でサプライズを受けると同時にもう一つ思ったこととして、「シャープはこれで終わるかもな……」という一つの予想でした。
シャープの苦境についてはいちいち説明するまでもありませんが、消息筋によると近年のシャープの液晶事業はトントン、もしくはやや赤字で、他の事業で必死に業績を支えている状態だそうです。しかも今の受注は台湾のホンハイ精密との協業、そしてアップルからのiPhone向け受注があって成り立っているようなもので、上記のジャパンディスプレイの新液晶が流れ始めたら一気に受注がなくなる可能性もあり、まぁ要するに液晶事業は赤字慣れ流しのまま誰にもいらない子扱いになるのではと思えてくるわけです。
別に隠すことでもないから一気に書いちゃいますけど、実はシャープには仲のいい(と私は思ってるんだけど?)友人が勤務しており、そこそこ内輪の話とかをこれまで聞いてきました。ただ彼の話を聞いてて違和感を感じることも多く、特に彼の主張する根拠のない予想に関しては真正面から何度も否定してきました。
それはどんな予想かというと確か2012年くらいに聞いた話でしたが、「IGZOは必ず売れる」という話しです。IGZOとはシャープが独自技術だと主張する半導体製造の技術でこれで作った液晶は従来型の物と比べ消費電力が大幅に減少するとシャープは宣伝していました。しかしあちこちの報道を見ているとその消費電力の差はせいぜい数十パーセント程度で利用者も電池の持ちが良いと実感するレベルではないと私は判断し、友人にはその予想は甘い、消費電力が従来型と二倍程度変わらないと消費者が優先的に選ぶことはなく人気にはならないと否定しました。
しかし友人は私の意見を真っ向から否定し、スマホユーザーの要望で一番大きいのは消費電力だ、IGZOはきっと実感できるレベルだと意見を変えず、液晶事業がこれで一気に持ち直すことはないと言いながらも少なくとも一つの切り札となる技術だと結構頑なに主張し続けました。
それからもう3年くらい経ちますが少なくとも私の周辺では、「このスマホはIGZOの液晶使っているからこれを選んだんだ」という人は皆無でした。そして、「IGZO携帯」みたいにこの商標がブランド化することはとうとうなかったと考えています。
別に自分の意見がやっぱり正しかったなんて主張する気はさらさらありませんが、あの時の友人の主張を思い起こすにつけシャープ内部では客観的な視点がもうなくなってしまってたのではとこの頃よく思います。他の面では分別のある友人なんだけど、自社の事では距離を置いた視点が持てなくなってしまってたのかな。
そのIGZOとは対照的に、今度のジャパンディスプレイの液晶に関しては私からも強く太鼓判を押します。仮に消費電力が百分の一になる代わりに生産コストが他のと比べ高いとしても、これほどの性能差があれば製品メーカーも消費者もこの液晶を使用した製品を優先的に選ぶレベルでしょう。もっともこうした半導体や液晶部品製造はいわゆる設備産業なので、生産コストは導入する設備で決まるので生産コストが従来品と比べ極端に高くなることはまずあり得ませんが。
それにしてもジャパンディスプレイがまさかここまで凄い会社になるとは発足当初は思いもよりませんでした。ジャパンディスプレイは東芝、日立、ソニーの三社の液晶部門が統合して設立された会社でしたが、発足当初は「液晶の敗者連合」と私も思ってましたし実際にそういう報道もありました。そして私は「0がいくつ集まっても0は0のまま」と周りにも吹聴して、体よく液晶部門を本体から切り離してリストラするためだけに作った会社じゃないか、なんて結構ひどいことも口にしてましたが、そうした私の予想に反して業績はそこそこ上向き、昨年には株式市場にも情報を果たして自分の不見識ぶりを反省していたところでした。
真面目に話すと、今回の新液晶をきっかけにジャパンディスプレイが中・小型液晶の世界シェアを大きく握ることとなるでしょう。その一方でサムスン、シャープの液晶部門は一撃死に近い打撃を受けかねず、それだけに今回のこのニュースはただ事ではないと思うわけでした。
2 件のコメント:
同社の株を購入したら如何でしょうか?
もうかなり上がってるからね。先に買っとけばよかった。
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