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2015年10月30日金曜日

一人っ子政策の廃止について

 昨夜突然発表されて今朝はどこの新聞やネットも報じていたので皆さんも知っておられるかと思いますが、中国が人口制限のために過去36年間にもわたってこれまで実施してきた一人っ子政策を中国政府は昨夜、廃止することを発表しました。この一報は新華社電で一行だけ、「一人っ子政策を今後廃止する」という文字だけで告知されたとのことですが、これだけ長期に渡って行われてきた中国の政策なだけに文字通り歴史が変わった瞬間に立ち会えたと喜びたいのが偽らざる私の心情です。

<一人っ子政策の背景>
 説明するまでもないですが中国は世界最大の人口を保有する国で、その多すぎる人口は様々な面で歪みを生むことから36年前、一人の夫婦に対して出産は一人しか認めないという一人っ子政策が打ち出されました。二人目以上の子供を産んだ夫婦に対しては罰金を科すなどして厳格に人口制限を行い続けてきましたが、それが今回廃止に至った背景は何なのかというのが誰もが気になる所でしょう。
 大方の所はほかのメディアでも解説されているようにこれ以上の人口制限は国家運営に当たってマイナスになると政府が判断したためと見て間違いないでしょう。私の記憶が確かならそれまでずっと増え続けてきた16~60歳までの中国の労働人口は2011年か2012年に初めてマイナスへと転じ、このまま一人っ子政策が続けば極端な少子高齢化社会を生んで社会の混乱を招くという指摘は以前からありました。

<どうして廃止したのか>
 中国は現時点で10年前ほど労働人口が余っておらず人件費も大分上がってきており、目下人件費という面では他の東南アジア諸国と比べてもそれほどアドバンテージはなく、もはや輸出を中心とした経済成長は前みたいに上手くいかない状態にはあります。しかし、だからと言って労働人口はこれ以上増やさなくていいかとなるとまた話は別で、今後は国内需要、特にサービス産業を振興するためにも労働人口の確保が重要となってくるため、それこそ都市部での3K労働の担い手が依然と必要であるため今回の一人っ子政策廃止に動いたと私は見ています。

<緩和策では効果少なく>
 なお一人っ子政策自体は以前からも緩和され続けており、特に上海を始めとした大都市部では一人っ子同士の夫婦には二人目の出産を許容するというか、むしろ二人目を生んでくれと市職員が回って伝えるほどでした。しかしそうした緩和策はどうやらほとんど機能していなかったようです。
 理由は簡単に、中国でも育児費用が激しく高騰し続けているからです。小学校入学前の幼稚園費用などの面では既に日本の水準を上回っているんじゃないかというくらい高騰しており、また大学進学までを考えるととても二人以上は育ててられないというのが都市部中国人の考え方で、恐らくこう言った背景からこれまで大都市限定で行われていた緩和策はほとんど効果を生まなかったのではと思います。

<二人目以降を産む夫婦は増えるのか>
 では今回の完全廃止で二人目以降を生む夫婦は増えるのか?私の考えとしては「YES」で、大都市部においては先ほど述べたように育児費用、学費の問題からそれほど増えないでしょうが農村部では未だに子沢山信仰が強いように思え、こういった地方でも二人目出産がOKとなれば生もうとする夫婦はたくさんいるのではと思えます。
 更に言えば中国政府として一番求めているのは、先ほど挙げたような都市部で3K労働を担う底辺労働者でしょう。現在この層を埋めているのは地方からの出稼ぎ者で、そういう意味では地方で出産が増えるのは願ったりかなったりだし、都市部の人はそれほど産もうとしないから政策廃止したって劇的に、爆発的には増えないだろうという見込みもあったのではと推測しています。

<無戸籍者の扱い>
 最後にもう一つ、他のメディアが全く触れていなくてやや不満に感じた点として、今回の一人っ子政策廃止と共に今後どうなっていくのかが気になるカテゴリーとして無戸籍者の扱いがあります。
 これまでは一人っ子政策によって二人目意向を産むと罰金が科せられ、特に収入の少ない農民は大きな打撃となっていました。そのためもし二人目以降が生まれた場合、その子供はきちんと認知せず戸籍上存在しないまま育てられ、そのまま義務教育を始め何の行政サービスも受けられない大人となってその地域で細々と生きていくしかありませんでした、生きているのに戸籍上は存在しない人たちで、正直に言って同情に余りあります。

 変な話ですがこちら中国にいてもこういった無戸籍者の話はあまり目につかないというか、普段生活していて話題に上がることはほとんどありません。むしろ日本にいる時の方がこの問題に触れる機会が多く、以前訪れた飲食店の店長から、「この近くに立っている外国人娼婦はみんな中国の地方からきている女性で、本国には何人も子供がいるそうですが一人目しか戸籍がないそうです」などと、ダイレクトな事情を聞くことが出来ました。
 その店長によるとたまにその飲食店に来て身の上話をする娼婦がいるそうなのですが、日本で街に立って数ヶ月我慢して働けば本国で数年暮らせるお金が手に入るだけに、そういったわけありの中国人女性が日本へ来るのに後が絶たないそうです。また街に立つにはちょっと年齢行ってしまった女性になると、今度は手配屋になって後から来る女性をまとめて仕切り屋となってお金を稼ぐなどと、時間あれば直接インタビューして社会学の論文に使いたい内容を教えてもらいました。

 正直な所、無戸籍者というのはどれくらいいるのか、本当にいるのかそれまではピンときませんでしたが、やはり大都市部ではなく地方では未だにたくさんいるような感じがします。今回の一人っ子政策廃止によって二人目までは無許可で産めるので少しは減るかもしれませんが、それでも今いる人たち、また三人目以降に生まれてくる人たちがまだまだ戸籍がないままの存在でいるでしょう。
 ここで私が何を言いたいのかというと、中国は統計以上に労働人口を抱えているということです。一見すると少子高齢化に見えますが実体的には統計で出ているほど歪ではなく、労働人口層はもっと太いというか多くいるでしょう。それこそこういった無戸籍者救済のため正式な戸籍登録を罰則なしで認めてやれば、人口バランスは一気にとまではいかなくとも多少の改善が期待できるかもしれません。まぁきちんと実態調査がされていないのでどれくらいかはわかりかねますが。

 私個人としては一人っ子政策を廃止するのであればこうした無戸籍者に対しても目を向けてほしいものです。政策がなくなるのだからもうそこに存在する人はしょうがないと割り切って、少しでも救済に動くのであればまだ評価できるのですが。

  おまけ
 本日、日本のゴム製品メーカー大手のオカモトの株価が10.14%も下落しました。例の上海人が教えてくれたのですが最初は何のことがわからずなんやねんと聞き返したら、「一人っ子政策が廃止され中国という巨大なコンドーム市場の需要が落ちると見られたからだろう」という回答を聞き、日本も全く部外者ではなかったのかとちょっと驚きました。実際、日本製ということもあって中国でも人気だそうだし、どこのスーパーやコンビニ行ってもオカモトの名前を見たりします。

4 件のコメント:

片倉(焼くとタイプ) さんのコメント...

私は中国の男女の人数の正確な比率が知りたいですね。  後継・肉体労働力となるため男の子を
欲しがった結果、女の子より男の子のほうが多くなったと聞いています。  聞いた話なので本当か
どうかはわかりませんが、もし本当なら、近い将来結婚もできない中高年男性が続出することになり
ます。  
ちょっと前、中国でバレンタインをボイコットせよというデモがありました。 あれはもしかしたら、
彼女・結婚もできず、に老いていく恐怖・残り少ない女の子もイケメンや金持ちに取られてしまう
という もてない男の怒り・負の感情が爆発した結果かもしれません 

花園祐 さんのコメント...

 中国の男女比については十年前から問題となっており、留学中に読んだ記事だとある地方の幼稚園で男女比が8:2にもなったそうです。こちらもしっかりとした調査がなされていないので実態がわからないのですが、最近で見た記事だと大きくて7:3くらいじゃないかという話です。
 こっちの交際事情は社会同様非常に激しく、今男は家と車と貯金がなければ結婚できないとまで言われています。一方で女性の方は男を選り好みでき、最近だと玉の輿を狙って女の子を欲しがる夫婦も出てきていますが、まだしばらくはこの問題は続くことでしょう。

上海熊 さんのコメント...

いつも興味深い内容ありがとうございます。中国語だと「全面两孩政策」となので、廃止というより「来年から二人っ子政策へ移行」のほうが書き方として正しいかもしれません。

個人的には一人っ子政策を推進してきた国家衛生与計画生育委員会がどうなるのかと、地方政府の財源の一つである二人目を産んだ時の罰金がどうなるのかが気になりました。

花園祐 さんのコメント...

 三人目以降は制限をするというのが建前でしょうが、果たして上手く制限できるのかがまだ未知数ですね。育児費用が掛かる懸念から派手に制限しなくても極端な子沢山は生まれないと思われ、ここら辺は地方政府の裁量に任せられるかもしれません。