ページ

2008年8月9日土曜日

核廃棄物の地下貯蔵について

 今日は私の住んでいる関東は比較的涼しく、久しぶりにロマンシングサガミンストレルソングとかをやっててゆっくり過ごしました。
 さて唐突ですが、私はアニメ作品のガンダムが好きです。どのシリーズも大抵見ているのですが、つい最近まで「ターンエーガンダム」は見ていませんでした。理由は例の、あの前衛的過ぎたメカニカルデザインです。結構面食いだったのかな、アニメ放映当時の私って。

 それがつい最近、映画で公開された総集編のようなリメイクバージョンを見る機会があったのですが、見てみるとこれがまた非常に面白い。ストーリー自体はゲームの「スーパーロボット大戦」や「Gジェネレーション」などで知っていたのですが、改めて映像で見てみると舌を巻くほどのいい出来で、主演声優の朴路美氏なんて、早くから監督の富野氏に見出されていただけあって主人公キャラを見事に演じきっていました。

 実はこれを書いている時点で、映画公開版は前後編ある中で前編しか見ていないんですが、その前編ではラストシーンが一番よかったと私は思っています。そのラストシーンの内容と言うのは、新たな武器を探そうとして前時代の遺跡の発掘をしているところ、なんと核弾頭を見つけてしまい、さらに運の悪いことにその発掘現場で戦闘が起こってしまうのです。核弾頭がどんなものか分かっている技術者は必死で先頭をやめさせようとするのですが、最悪なことに戦闘の余波を受けて核弾頭は起動してしまいます。

 核弾頭が起動したために、その兵器としての恐ろしさを知る主人公のロラン・セアックらは戦闘をやめて現場を離脱しようとしますが、現場にはまだ自力で脱出不能となった味方がまだ残っていました。しかしそのほかにも離脱の援助が必要な味方がおり、ロランはやむなくその味方を見捨て現場を離れます。

 そしてロランらが現場から相当の距離を離れた段階で核弾頭は爆発し、暗闇だった夜空が一瞬にして昼のように明るくなります。光がようやく収まったところで命拾いしたロランが、
「なんでこんなもの、作ったんですよっ!!」
 と、絶叫するシーンが最も印象に残りました。

 現在、日本政府は貯まり続ける核廃棄物の処理について、海底の地下深くに埋めることを検討しています。詳しい年数までは分かりませんが、核廃棄物が無害化するまで、恐ろしく長い時間がかかるらしく、場合によっては数千年単位の時間が必要とも聞きます。
 核廃棄物が無害化するまで、私たちの子孫は何代生まれ変わるのか。また海底深い地形が地上に隆起することは全くないのか。何も知らない子孫が、そんな核廃棄物を掘り返ししまわないとは限らないのか。

 この地下埋葬処理については、将来的にはこの前補助金を得るがために受け入れでもめた高知県の地域みたいに、力のない国へと押し付けられる可能性があります。私は原子力を否定するつもりはありませんし、今後のエネルギー事情を考えるなら必須の手段だと考えています。しかし、その負債を誰が背負うのかと言うならば、私はやはり一番電力を使用している東京が背負うべきで、この地下処理も東京の、誰もが目に見える場所ですべきだと思います。

2008年8月8日金曜日

冷凍餃子事件の日中の対応について

 もうどこでも報道されていますが、中国から輸入された冷凍餃子に農薬が混入されていた事件について、七月の日中首脳会談時に、回収した餃子を中国国内に流通させたところ中国でも中毒者が出たことから、中国国内で毒物が混入されていたことがほぼ確実と中国側から日本へすでに伝えられていたにもかかわらず、日本政府はこの事実を国民に全く公開しようとしていませんでした。いくら私が中国びいきだからといって、今回のこの事件への日中の対応には強い憤りを感じます。

 まず中国政府に対してですが、初めから中国国内で混入した可能性が高く、案の定今回の報道の通りにそれが確実視されたと言うのなら、何故その段階で公表しなかったのでしょうか。どうせいつまでも隠し通せていられるわけないのだから、誠実に判明したところで捜査情報を公表していればいいものを、こういうことを何度もやるから国際社会でも信用がなくなっていくということをまだ分かってないのでしょうか。中国のことわざでも、「恥を知って身を慎む」という内容のものがありますが、もう少しこういう言葉を見習うべきでしょう。

 次に日本政府ですが、中国側に事件の公表を控えてくれと言われて、はい、そうですかとばかりに一ヶ月も公表を見送って隠していたとは呆れてものが言えません。特に福田首相は消費者重視を打ち出して消費者庁の設立を図ると言っているにもかかわらず、消費者に対して全く逆の対応をしていたとはやってて恥ずかしいとは思わないのでしょうか。はっきり言いますが、福田首相は日本人の安全より、中国との関係の方が重要なのでしょうね。確かに外交上、機密な案件に関しては国民に事実を隠す必要のある情報もあると思います。しかし今回の餃子事件の場合は明らかにそんなレベルのものではないし、逆に言えば、この程度の情報すら国民に開示しないということは、どれだけ国民を見くびっているのかという話へとなっていきます。

 もうひとつ気になる点として、これもよく私が挙げますが、一体どこがこのスクープをすっぱ抜いたかがまた気になります。この情報をオリンピックが始まるこの段階でぶつけてきて、オリンピックへの報道の中でかき消そうとわざと政府が流したのではないかと、すこし疑わしく思っています。

 最期に、今日夕方に入ってきたニュースですが、中国の検疫当局でこの事件の担当もやっていた中国の官僚幹部が飛び降り自殺をしたそうです。ニュース元は香港の新聞で、この新聞社が自殺の事実の確認を取ったところ政府は、「否定も肯定もできない」と言ったので、まず間違いなく事実でしょう。本当に、日中そろって馬鹿馬鹿しい事をやる。

私の評価する政治家

 コメント欄でリクエストがあったので、目下の政治家の中で私がその能力の高さを認める政治家を何人か紹介します。

 まず、前回過去最大の文字数で投稿された竹中平蔵氏です。私がこの人を最も評価するのはコメント欄にも書きましたが、何をすればどう現実が動くのか、そういう政策の立案についてはピカ一でしょう。以前の記事でも書きましたが、銀行の不良債権をどう銀行に処理させるか、彼の編み出したやり方は見事にはまり、誰にも不可能とまで言われた不良債権の処理を実現させています。
 と、この点はほかの何人かも指摘しているのですが、逆にあまり言われていない彼のもう一つの長所とも呼べるのが、政治家として非常にタフである点です。記事にも書いていますが、就任当初は民間出身の大臣としてマスコミも好意的に扱ったのですが、彼の資産が意外に高かった事実が報じられるや、一気に彼への攻撃が始まりました。それだけにとどまらず、国会内でも何の後ろ盾もない、雇い主の小泉首相も全然かばってくれずに野党から人格攻撃ともとられかねないほどの激しい批判を受けていました。それにもかかわらず、この竹中氏はいつもの犬っぽい顔で平気な顔をしているのだから、底が知れません。

 もっとも竹中氏は目下のところ政界から引退しているので、現在の国会議員の中で政策能力の高さで見るならば、ミスター年金でおなじみの民主党の長妻昭氏でしょう。この人はもともと日経ビジネスという雑誌の編集者であったと言うこともあり、テレビに出てくる際の発言を聞いていてもしっかりと政策などに突いても見識があると感じられます。そしてなにより、腐敗した官僚のシステムと年金問題を暴いたこの功績はここ十年の歴史でも最大の功績と言っても過言ではありません。

 自民党の中で言うなら、政策や運営面では菅義偉元総務大臣が評判が高いとよく聞きます。この人も苦学して上ってきた叩き上げということもあり、内実は深くはいえませんが組織を引っ張る力では自民党随一と聞いたことがあります。
 逆に、以前に与謝野馨氏が政策通で、意外に総理大臣としては安定する人材なのではないかと書きましたが、先月のサンデープロジェクトでの長妻氏との討論を見ていたら、どうやら私の目が間違っていたのかと思うくらい稚拙な発言が目立ちました。はっきり言って期待して損でした。

 現状では、40代くらいの若手議員の質で見るならば、圧倒的に民主党の方が人材は豊富です。先ほどの長妻氏を筆頭に京都選出の山井和則氏など、発言やビジョンのしっかりした人材がよくそろっています。自民党はやはり老年層が多く、若手の議員も郵政選挙の際に相当殺してしまい、挙句に安倍政権の失敗の責任を取られて散々な状態です。

 そんな中で、多少の異論はあるかもしれませんが、参議院議員の山本一太氏はなかなか大した人間だと私は評価しています。その理由というのも、政権発足当初より安倍元総理を支持していたにもかかわらず、郵政選挙で離党しながらも選挙に勝った野田聖子を初めとする郵政離党組の復党の際に、はっきりと安倍氏のやり方を批判していました。また参議院の必要性について話した際、自身も参議院議員であるにもかかわらず、今のままなら参議院は必要ないとはっきりと言明しました。この二つの発言は自民党に籍を置く山本氏にとってすれば足を引っ張るだけの発言にも関わらず、果敢に批判を行ったと言う点は与党議員として私は高く評価します。

2008年8月7日木曜日

日本の建築業界について

 結構前に書いた、「時代遅れな日本の不動産業界」の記事にて、私は低レベルなサービスしかできない日本の不動産業界について解説しましたが、その後不動産業界に勤めており、大学でも建築学を学んだことのある方と腰をすえてゆっくり話をする機会があり、この業界について詳しく話を聞けました。

 まず最初に私から、日本の不動産業界は本当に質が低いかどうかを尋ねてみたところ、やはり「低い」と断言されました。その根拠として、外国では建築年数が経てば経つほど家賃が上がっていく例を挙げてきました。何故建築年数が経つほど家賃が上がっていくかというと、海外では建築年数が長いということは、逆にそれだけ強度に対して保証があるという証拠になるからです。それに対して日本はというと、知っての通りに建築年数とともに家賃代はどんどん下がっていきます。それだけにとどまらず、家賃代が低下していくために所有者によって古いアパートやマンションはどんどんと壊されていくという、別の弊害も生み出しているとその方は指摘していました。

 実はこの時指摘してくれた内容こそ、私が前から一番聞きたかった内容でした。かつて姉歯元建築士によって引き起こされた強度偽装事件の際、文芸春秋にてこの事件を語った建築学者が、この事件のそもそもの原因は「ビルト&スクラップ」で考える日本の建築業界の価値観にあると指摘していました。この「ビルト&スクラップ」というのは文字通り、建築物を建てては壊すという、日本の建築業界の慣習のことです。
 何故こんなことをしているのかと言うと、建てては壊すを繰り返すことによって誰が一番儲かるか、これも誰でも分かることですが工務店を初めとした建築業者です。つまりわざと長期の使用に耐えられない設計で建築物を建てることによって、年数の経過とともに壊させ、また新しい建物を作らせることによって日本の建築業界はみんなで自分たちの収入を確保していたのです。

 単純に考えて見ましょう。初めに多少お金がかかっても百年の使用に耐えられる家を一軒作るのと、十年ごとに作っては壊してを繰り返して百年後までに十軒もの家を作るのとでは、どっちがお金や労力、資源がかかるのでしょうか。言うまでもなく後者の方がかかりますし、なんというか自分で掘った穴を埋めるという無駄な動作を繰り返しているような滑稽さすらあります。

 言い方は悪いですが国もこうした建築業界の慣習を応援していた向きがあります。というのも、地震大国と言われつつも日本の建築基準は実際にはそれほど厳しくないという噂を聞きます。なんでかというと、そりゃやはり建築業界の人間を潤わせるためです。実際に、阪神大震災以後の建築基準法の改正では耐震基準がそれまでより緩くなっています。

 日本の場合は地震大国ということもあり、災害の度にたくさんの家々が破壊されるので単純に外国と比べるのもなんですが、外国では非常に長く建築物を使っています。たとえばアメリカの有名なクライスラービルなどは1930年に建築され、今でも改装を繰り返してニューヨークを代表する高層ビルとして使用されていますし、私が行ったことのあるインドでは、ガンジス川沿いの建物はそのほとんどが15世紀、日本で言うと戦国時代に建てられたものです。もちろん、今でも人が住んで使用されています。やはり石造りの建物はよくもつので、ヨーロッパでも百年単位で使われている家はまだ数多く残っているそうです。

 日本は地震が多いから、とは言わずに、逆に地震にも耐えられる強固な建物を今のうちに多く作っておくべきではないでしょうか。そうすることによって日本の子孫に対し、真に遺産を残せると私は考えています。

  追伸
 報道もされていますが、あの姉歯事件の後に建築審査を厳しく行うよう改正された建築基準法によって、建築業界のどの会社も新規着工が減ってどこも経営が悪化しているらしいです。つい先月も大阪証券取引所の二部上場企業の、準ゼネコンとも呼べる建築会社が破産申告をしましたが、先ほどの方が言うには大手ゼネコンも台所事情は相当追い詰められているそうです。
 宮崎学氏などはその著書の中で、建築業界は学歴のない人間でもすぐ働けて、雇用の維持の面で重要なのだから談合も必要だし、国も保護すべきだと主張していますが、あんだけ無駄金を投入しておきながら前述のビルト&スクラップの貧弱な建物しか建てられなかったのだから、今こうして潰れていっても私は何の同情も湧きません。公共事業もどんどん減らされていますし、恐らく大手ゼネコンも一社か二社はこれから潰れるのではないかと思います。

暴走族風大学名

 以前、友人らとチャットをしているときに何故か、「大学名を暴走族風にしてみようぜ」という話になり、早速キーボードの日本語変換の候補に出てくる漢字で、ひたすら有名な大学の名前を暴走族風に変えていきました。

 まず関東の私立大学だと、早稲田はあまりいい候補がでてこずじまいでしたが慶応大学だと「刑殴」になり、明治大学だと「冥痔」と、早速面白いのが出てきました。その後も続いて中央大学を「虫王」、東洋大学を「盗用」、法政大学を「鳳逝」と決まり、極めつけは文字数の多い学習院大学で、「愕臭淫」と、なんか本当に落書きに書かれてそうな名前になってきました。

 舞台は変わって今度は関西私立大学になると、まず同志社大学が「倒死者」というように、後ろの「死者」を使って「導死者」とか「慟死者」といくらでもバリエーションが作れるのですが、アクセントを変えた「怒牛車」というのが一番気に入りました。ライバルの立命館大学は、「立冥館」というお化け屋敷っぽいのになり、関西大学はそのまんま「完債」とかでもまぁまぁ面白いけど、「奸妻」が多分一番面白いでしょう。
 ここでも文字数の多い関西学院大学がいろいろ作れたのですが、関西以外の人のために説明しておくと、「関西学院」というのは「かんせいがくいん」と関西地域では呼ばれており、この読みにあわせて作ると、「官製楽員」とか「閑静楽員」と、楽員だけでいろいろ作れました。

 国公立大学ともなると、シンプルな名前が多いだけになかなか味のあるものが多く作れ、東京大学は「盗凶」などなど作れるのですが、個人的にお気に入りなのは京都大学の「狂徒」です。京大の学生には申し訳ないけど、いい意味でも悪い意味でもこの二文字は京大生をよく言い表していると思う。
 逆にかっこいいので群馬大学なんかは「軍魔」となり、そのまんま群馬の暴走族なんかに使えそうな名前になりました。

 最期に、下ネタですがほとんどいじることなく変えられたのが成城大学と上智大学です。そのまんま同じ音で「性情」、「情痴」となりました。こんなの書いて、学生に恨まれやしないだろうか。

2008年8月6日水曜日

外国人の目から見た原爆

 これは私が中国に留学している際の話ですが、日本人の留学仲間と自室で談笑し、その友人が帰った後に相部屋相手のルーマニア人に先ほどの友人は広島出身だよと教えたところ、
「俺たち、彼の放射能が移って病気とかにならないよな?」
 と、私に聞いてきました。

 このルーマニア人の友人は大学で物理学を専攻しており、ルーマニアにある原子力発電所も学生時代に見学したと言っていました。そんな彼でさえ、広島と長崎は今でも草木も生えない荒涼とした場所で、そこに住んでいる人間は放射能を持っているとと考えていたそうです。ま、後者は冗談で言っていたと思いますけど。
 誤解しないように説明しておきますが、恐らく彼がそんな風に両都市を想像したのは、チェルノブイリの例があるからだったと今は思います。実際にチェルノブイリ発電所の周りは今でも廃墟のまま残され、人も誰も住んでいません。この時の事故でルーマニアでも放射能汚染が確認されており、そういった背景から彼は誤解をしていたのだと思います。

 実際、世界の人たちはやはり原爆や放射能について誤解している人が多いと思います。このルーマニア人の友人のように広島、長崎は二つともたくさんの人口を抱える大都市であることや、植物も真っ当に育つと言うことを話すと驚かれる外国人はたくさんいます。またアメリカ人については、原爆を落とした張本人でもあることから自国の人間に対して原爆の事実を隠そうとしているような気がします。

 というのも、昔にテレビ番組でやっていた内容で、原爆の日にアメリカの中高生が広島に行くという企画があり、「はだしのゲン」の作者である中沢啓治氏から話を聞いたり原爆資料館を訪れると、アメリカ人たちは皆、こんな事実を今まで全く知らなかったと全員が述べ合っていました。さらに同じ番組ではアメリカの原爆に対する報道を取り上げ、戦後に作られた戦争記録映画の原爆投下のシーンの際、B29のパイロットの一人が民間人をたくさん殺すことになるがいいのか、と言うともう一人のパイロットが、
「もう何日も日本語で避難しろと書いたビラを撒いている。それでも残っているやつらが悪い」
 と言い返すシーンが盛り込まれていました。もちろん、ビラを撒いた事実なぞありません。

 思い起こしてみると、私は高校の修学旅行で長崎を訪れた際、実際に被爆者の方から直接話を聞く機会がありました。しかしもうあと数十年もすると、原爆一世にあたる直接の被爆者は寿命の関係でいなくなるでしょう。その後の時代に原爆の悲惨さと事実を伝えるのは、私たちのような直接話を聞いた事のある世代になると考えています。伝えるのは何も日本の子供たちだけでなく、日本ほど原爆教育を受けない外国人にも伝える必要があると、八月六日の今日に思います。

2008年8月5日火曜日

平安最強の奇人、小野篁

 この三日間は心身ともに疲労する記事を書いたので、久々に肩の力の抜ける歴史のはなしを書こうと思います。ちなみに、「竹中平蔵の功罪」の記事は陰陽編二つ合わせて原稿用紙20枚分も書いてたよ……。

 さて皆さん、突然ですがこの和歌をご存知でしょうか?
「わたの原 八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣り船」
 この和歌は百人一首にも選ばれている、小野篁(おののたかむら)の和歌です。小式部内侍、小野小町の和歌に次いで、百人一首の中で三番目に私が好きな和歌です。

 実はこの和歌が読まれた時、篁はえらい所にいました。何を隠そう当時の罪人の流刑地である隠岐です。
 事の起こりはこうです。篁は遣唐副使、ようするに中国留学団の副団長に指名されたのですが、嫌がって勝手にサボったら嵯峨上皇にめちゃくちゃ怒られて、流刑される羽目となったのです。
 その際に、「こんな遠くに来ちゃったけど、寂しい僕の気持ちを心ある漁師さんは都のあの人(恋人とか家族かな)に伝えておくれよ」、っというのがこの和歌の解釈です。

 ここで終わればただのサボり屋ですが、不思議なことにこの篁はその後許されて都に戻ると順調に出世し、最終的には摂関家以外の人間にとっては宮中の最高位である「参議」に叙位されています。これは一度流刑された人間としては異常な出世です。
 さらに面白いことに、この篁というのは安倍晴明もはだしで逃げ出すくらい、不思議なエピソードの多い人間なのです。

 一番有名なのは、宮中のある貴族が死んで地獄で閻魔様の裁判を受ける事となった時、なんと判事の席には篁が座っており、この貴族は篁が流刑に遭った際に弁護をしていたことを閻魔様に説明し、また甦らせてやってくれと擁護したといいます。閻魔様もそれを聞き入れ、そのままその貴族は蘇生し、事の次第を宮中で篁に尋ねてみると、
「他言無用」
 とだけ言い返されたと言います。

 また、洛中で嵯峨天皇を皮肉る高札が出た際、嵯峨天皇に「お前がやったんじゃね?」っていちゃもんを篁がつけられた際、篁が「やってませんよぉ」と言うと、「じゃ、これ読んでみ」って、「子」の文字をただ12個並べた紙を見せたところ篁は、
「猫の子子猫、獅子の子子獅子」
 と、「子」の文字を「ね」と「こ」と「し」と三種類に読み分け見事な文章を作り、このいちゃもんを打ち負かしたと言うエピソードもあります。これなんかは高校の古典の教科書にもよく載せられている話だと思います。

 ただこの篁ははっきり確証こそありませんが、日本の美人の代名詞でもある小野小町の父親だとも言われています。小野小町もその存在の実証性がはっきりせず、親子そろってミステリアスな一家です。そのミステリアスさを買って、昔に私が書いたSF小説でも一度ご登場を願いました。