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昨年四月に私はこのブログで「人材派遣業界のマージン率(2014年予備調査)」という記事を著し、この記事でマージン率を公開している人材派遣企業数十社の調査データを公開しました。私が何故自らマージン率を調べこの記事を書いたのかというと、平成24年施行の派遣労働法改正によってマージン率の公開が義務付けられるようになったにも関わらずその事実を知らない人間が多いと思ったこと、他にこのようなデータを作っている人がいないということ、そして何よりも実態的に平均的なマージン率はどの程度なのだろうという個人的な興味が一番の動機でした。
そのような動機から調査を始めましたが記事を書く前にこの構想を友人に話したところ、社会的にも有意義なデータになるはずだと太鼓判を押され、自分自身も派遣労働者の方々に悪くないデータを提供できると思い完成時には意気揚々とアップロードしました。正直、アップ当初はそれほどアクセスは集まりませんでしたが、時間が経つにつれじりじりと閲覧者は増え続け、現在ではこのブログの人気記事の一角を占めるに至っています。
ただ前回記事の調査をしている際に気になったこととして、そこそこ名の知れた派遣業界の大手企業のほとんどがこのマージン率を公開しておらず、その後もこうした情報を公開していない企業の存在が気になり続けていました。前回調査ではマージン率の平均値を探ることが主眼であったためマージン率を公開している派遣企業しか調べていなかっただけに、調査後はマージン率を公開している企業の割合はどの程度なのかという疑問が新たにもたげてきました。
もちろん今を以ってしても派遣業界のマージン率を調査している人間はパッと見だと私以外にはおらず、公開率を知ろうったってそんな都合のいいデータがあるわけありません。となると、「なければ作る」が信条の私の出番かと、企業データ調査に関しては「企業居点」の調査で一定の自信があるだけに一つちょちょいとやってやろうかという妙なやる気が昨年末あたりからもたげていたわけです。
そんなわけで前置きがいつもながら長くなりましたが、前回調査と比べてサンプル数が十倍以上と大幅にスケールアップしたマージン率調査を先日完了したので、その調査結果を下記に記すと共に全調査データをまとめたPDFファイルをその下のアドレスから惜しむことなく配信致します。
なおこのブログでは画像ファイル以外のデータはアップロードできないので、調査データのPDFファイルはこのブログの生き別れの姉妹サイトこと「企業居点」のサーバーにアップしております。そのため下記の配信アドレスはこのブログのアドレスとは異なりますが、ブラクラとかではないので安心してください。それにしても、レンタルサーバーも借りておくといざって時に役に立つもんだ。
<調査概要>
・調査期間:2015年1月10日~1月25日
・調査対象企業:一般社団法人 日本人材派遣協会(JASSA)の登録企業全部
・調査サンプル企業数:560社
・リストアップ事業所数:841拠点
・調査方法:インターネットを使い該当情報の有無を各社ホームページ上で確認する
<調査結果>
・マージン率の公開率:19.1%(公開企業が107社、非公開企業が453社)
・全体平均マージン率:26.8%
・上位下位10%を除いた中間平均マージン率:26.6%
・マージン率最大値:50.0%(旭化成アミダス株式会社 IT事業グループ)
・マージン率最低値:11.6%(株式会社インテリジェンス 九州支社)
<調査データPDFファイル>
・アイウエオ順(オリジナルデータ)
・マージン率ランキング順
・地域別順
※2016年版調査データの公開に伴い公開停止。こちらのデータが欲しい方はメールでご連絡ください。
<データ注意事項>
1、マージン率は各社の公開値に対し少数点第二位を切り上げ。
2、マージン率0%の事業所は統計目的上、平均値などの計算では除外対象とした。
3、マージン率数値は各社が発表している直近年度のデータを引用。
4、「2012年12月~2013年12月末」より前のデータしか公開していない企業は「×(非公開)」評価として扱った。
5、公開データの事業年度が明らかでない会社は今回に限り、「○(公開)」評価として扱った。
6、本社で派遣事業を行っていない企業は便宜上、一番上に来る事業所を「本社」として表記した。
7、交通費を賃金に含めるマージン率の計算方法を優先的に掲載。
8、個人による調査のためデータの誤字脱字はもちろん、情報が公開されているにもかかわらず見落としている可能性もございます。この点に関しては予め了解の上、一つの調査データとして参考していただくと助かります。
本調査の主眼であったマージン率をネット上で公開している企業の割合は上記の通り19.1%で、きちんと法律通りに公開しているのは5社中1社だけという、事前にある程度予想していた通りの結果となりました。
なおここでマージン率の公開について簡単に説明しておくと、平成24年に派遣労働法が改正され派遣企業は事業年度ごとにその年のマージン率を事業所別に公開することが義務付けられるようになりました。厚生労働省のサイトに書かれてある指針には、
「労働者や派遣先となる事業主がより適切な派遣会社を選択できるよう、インターネットなどにより派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などの情報提供が義務化されます。」
などと書かれてあり私個人による解釈では、「マージン率などの情報をホームページ上で誰もが見られるようにすることは派遣企業の義務であり、これを果たさないのは明確な法律違反である」と考えております。まぁ罰則がないもんだからそれをいいことにみんなして公開してないということが今回よくわかったのですが。
ではそのマージン率とはどういう数字なのかですが、端的に述べると派遣先の企業が派遣元に支払う派遣料金に対する派遣社員の賃金の割合で、今回の調査対象企業のリスト元となった人材派遣協会のページでもきちんと解説されています。
このマージン率は派遣企業の取り分とも言えますがこれ全部が派遣企業の売上げというか収入になるわけではなく、実態的には派遣社員に対する研修費や有給取得費用、福利厚生費も含まれるため、マージン率が高い企業ほど派遣社員に対する搾取がひどいと一概には言えません。調査していた実感では教育研修費がかかりそうなIT、不動産系が高い傾向にあり、あくまで一つの指針としてみるべきデータだと思います。
<マージン率数値>
そのマージン率の数値ですが今回調査の全体平均は26.8%、外れ値を排除するため上位下位10%を除いた中間平均マージン率だと26.6%となり、去年四月調査時の平均である27.9%と案外近い数値に収まりました。平たく言えば20%台後半が一般的な水準で、30%以上だとやや高い、20%切るとかなり低いと考えればいいかと思えます。
今回調査でマージン率が最も高かったのは「旭化成アミダス株式会社 IT事業グループ」の50.0%でしたがこれについてフォローというか補足しておくと、旭化成アミダスのほかの事業所のマージン率はどれも30%前後で標準的な範囲内に収まっています。「IT事業部グループ」という名称からしてこの事業所だけやや特殊な派遣の仕方をしているがため数値が高くなったのではと思え、こう言っては変ですが私としてはこの会社にそれほど敵意を感じません。逆を言えばどんだけ高くたってマージン率は50%を越えることはほぼないと言えるわけですし。
<交通費の取り扱い>
なお調査をしている傍らで、派遣先へ派遣社員が通勤する際の交通費を賃金に含めて計算しているであろう会社が散見されました。この交通費を賃金に含めることでマージン率は見かけ上で低くなるのですが、私自身は交通費は経費であって賃金に入れて算出するべきではないと考えます。
この点をしっかり考慮している派遣企業もあり、株式会社TJホスピタリティと株式会社ヨットの2社はわざわざ交通費を賃金に含めた場合、含めない場合のマージン率を算出して公開しております。両社のデータを見ると交通費を含めるか含めないかでマージン率はそれぞれ5ポイント、3ポイントも変動するなど小さくない数値で、この点に関しては当局も基準を明確にするはっきりとした指針を出すべきだとここで提案させていただきます。
<非公開企業の特徴>
同じく調査中に気になった点として、派遣労働法改正直後の事業年度ではマージン率を公開していながら次年度以降は公開しなくなった企業も数多く見受けられました。この手の会社は恐らく同業他社があまり公開していないのを見て確信犯的に公開をやめてしまったのだと私は考えています。
ちなみにマージン率は事業年度ごとに公開することが義務付けられていますが、事業年度(会計年度)の期間が1月から12月の会社だと直近の事業年度は「2014年1月~2014年12月」となりますが、さすがに締めてから1ヶ月もしないうちにデータを集計して公開しろってのは酷な話に思え、「2013年1月~2013年12月」のデータを公開していればきちんと公開義務に対応していると判断しています。逆を言えばこれ以前のデータしか公開していない会社は例外なく義務を放棄していると判断しました。
このほか調査中にはホームページ上では公開せず、最寄りの事業所に来るかメールで問い合わせれば情報を公開するという会社もいくつか見られ、問い合わせに対応するという会社数社に対してメールを送っては見ましたが一社を除いたほかのすべてからは結局教えてもらえませんでした。特に、業界大手のスタッフサービスさんなんかは今回調査の裏MVPとも言うべき期待通りの対応を見せてもらっただけに、次回に書く続きの記事でしっかり特集させてもらおうと考えています。
<公開していない大手一同(*^^)v>
今日の記事の最後として、調査対象リスト(作業途中から閻魔帳に見えてきた)に含む、含まないに関わらずマージン率をネット上で公開していない派遣業界大手企業を下記にリストアップします。
・ザ・アール
・フルキャスト
・メイテック
・スタッフサービスさん
・ジェイコムホールディングス
・ニチイ学館
・パソナ
・マイナビ
・マンパワーグループ
・リクルートスタッフィング(順不同)
見る人によっては悪ふざけが過ぎるているのではと思われるかもしれませんが、敢えて茶化すような表現で書いているのは本気でやったら絶対こんなもんじゃ済ませないという意思を表しているからです。もしまだ記者やっていたら自分は各社の広報部に電話取材をかけて、一言一句を録音した上でネット上に全部公開していることでしょう。必ず。
なお全国区で誰もが知る業界大手にくくれば、同じグループ企業ですがテンプスタッフとインテリジェンスの二社のみがマージン率を含めたすべてのデータを公開しています。恐らく派遣会社にとってマージン率データを公開することは不利な条件だからこそほとんどの会社が対応していないのでしょうが、それにもかかわらず、大手であるにもかかわらずきちんと対応しているこの二社には強い敬意を覚えます。
これは本調査、前回調査でデータを引用させていただいた公開企業各社も同じことが言え、特に中小規模であるにもかかわらず大手がガン無視決め込んでいる中で法律にきちんと従っているということはその一点だけとっても非常に素晴らしい行為だと思います。末筆ながらデータを引用させていただいた公開企業各社に対しここで厚くお礼を申し上げさせていただきます。
このほか調査中に感じた事や派遣業界に対して提案したいことなどまだまだ書き切れていないので、続きはまた次回にまとめさせてもらいます。