上記動画は「シドニアの騎士」でブレイクした漫画家の弐瓶勉(にへいつとむ、通称ニビンベン)氏のデビュー作である「BLAME(ブラム)」が来年劇場アニメ化されることが決まり、公開に先立って配信されたプロモーション映像です。このBLAMEという作品は連載当時から私も読んでおり、日本漫画の基準を大きく凌駕した圧倒的なスケールの世界観と桁違いに巨大な構造物、そして全く詳細を明かさないストーリー展開と相まって強い衝撃を覚え、つい先日に愛蔵版全6冊も購入するほどはまっていました。この作品が元で弐瓶氏の後続の作品である「バイオメガ」、「シドニアの騎士」も即購入を決断したほどです。
そんなBLAMEの映像化ですが、正直言ってこのPVを見る限りだと全く期待できないというかスタッフはBLAMEの世界を全く理解してないのではと思うほど落胆させられました。まずキャッチコピーの「生き延びろ!」ですが、私の感覚だとBLAMEの世界では主人公を始め大半のキャラクターが遺伝子改造、もしくはサイボーグ化されててびっくりするくらい不死身な連中ばかりで、生身の人間に至ってはそれこそゴミ屑のように片っ端からミンチになる以外の運命しかありません。ヒロインのシボというキャラに至っては登場する度に身体が消滅しては別の身体に乗り移り、「内臓のない体は慣れないわね」などと言いつつ見事な七変化かましており、こうした世界観からすると「生き延びろ」というよりは「死んでも蘇る」という方が合っている気がします。
ヒロインに負けず劣らず主人公の霧亥(キリイ)の不死身っぷりもぶっ飛んでおり、自慢の武器の「重力子放射線射出装置」を撃つたびに片腕がもげますが全く意に介さないし数ページしたらまたくっつくし、溶解した金属にくべられてもほっとけば五体満足で復活するしで、そんなキャラ達を前にして「生き延びろ」なんていわれてもなんだかなぁって感じです。
またPVの中でその霧亥が「俺は人間だ」というセリフを言っていますが、これにも強い違和感を覚えます。というのもこの主人公、「森田さんは無口」という漫画の主人公と並び全くセリフをしゃべらない極端に無口な主人公で、セリフをしゃべるのも後半に至っては数話につき一回あるかないかで、たまに喋るセリフも「おい」とか、「あれは珪素生物だ」しかなく、作中の全セリフをリストアップしようとしてもあっという間に終わっちゃうくらいの人物です。
そんな霧亥がわざわざ自分が人間だなんていちいち主張するとは私にはとても思えず、むしろ映像化するならこの無口な個性を極端に生かして一切セリフを言わないでほしいと思うくらいなのになんなんだこのPVはと、あくまで一ファンの立場ではありますが納得いかない点が多々あり、こんな感じで映像化されるくらいならいっそ作ってもらいたくないとすら覚えます。
なお漫画についてですがこれは文句なしに絶賛できる作品で、敢えてこの漫画に比肩するとしたら大友克洋氏の「AKIRA」くらいではないかとも思います。何故かというと背景に移る構造物が極端に精密且つ巨大であり、「真の主人公は構造物」とすら言われ、極端なセリフの少なさと相まって漫画というよりは画集と呼ぶ声もあり、背景ひとつで漫画作品を成立させた大友氏に通ずるところがあるからです。このBLAMEの背景の特徴ですが、作者の弐瓶氏は元々ゼネコンで現場監督をやっていたという漫画家としては特殊な経歴を持つこともあって、人物と構造物の対比に関しては間違いない当代随一の人物でありその特徴が最大限に生かされているのもこのデビュー作であるBLAMEです。
そうした背景の美しさ(畏怖さ?)もさることながらSFチックでありながらどこか猛烈なグロテスクさを覚える珪素生物、セーフガードといった敵役の造詣も非常に素晴らしく、特に作品中で屈指の人気を誇る「サナカン」という敵役についてはあれほど冷たい目をした漫画キャラクターを誇張ではなく私は知りません。しかも紙切れをばらまくように片っ端から人間を惨殺していくもんだから、このキャラには恐怖を通り越した何かを感じたと共に、終盤になって再登場した時の立ち位置が後年までも強烈に印象に残っています。
ただ印象に残った箇所ですが、やはり一番「えっ?」とさせられたのは連載終了後、作者のセルフパロディ作品として公開された「ブラム学園」に尽きます。知ってる人には早いですがめちゃくちゃハードで慈悲のかけらも何もないSF作品なのにこのパロディ作品ではグロテスクな造形そのままで作中キャラクターの歪な学園生活が繰り広げられ、読んだ人間全員が「どうしちゃったの弐瓶先生!?」と、軽く作者の心理状態を心配したことかと思われます。ちなみにこのブラム学園は読み切りで三作品が公開されましたが、三作中で主人公の霧亥が喋るシーンは一つもなく毎回肘鉄とかビーム撃たれて〆られています。